
日本人が知っておきたい基礎知識と実務のポイント
はじめに
イギリスに住む日本人にとって、「離婚」という大きな決断に直面したとき、まず気になるのは 手続きの複雑さ と 費用の問題 です。
「弁護士を頼むと何千ポンドもかかるのでは?」
「言葉の壁があるけれど、自分でできるの?」
「日本の離婚制度とはどう違うの?」
こうした疑問や不安を持つ方は多いでしょう。実際、イギリスの離婚制度は2022年に大きく改正され、「No-Fault Divorce(無過失離婚)」が導入され、かなりシンプルになりました。うまく利用すれば 自分でオンライン申請して、法廷に出廷せずに離婚成立 させることも可能です。
本記事では、イギリスで安く・効率的に離婚するための方法を、できるだけ分かりやすく、具体的にご紹介します。日本とイギリスの制度の違いや、費用を節約するポイント、注意すべき点も丁寧に解説します。
1. イギリスの離婚制度の基礎知識
1-1. 離婚できる条件
イギリス(イングランドおよびウェールズ)では、以下の条件を満たすことで離婚を申請できます。
- 婚姻期間が1年以上あること
- 英国に居住している、または英国と強い関係があること(例:居住権、永住権、一定の滞在資格など)
スコットランドや北アイルランドは手続きが少し異なりますが、原則は近似しています。
1-2. 「No-Fault Divorce」とは
従来は「不貞行為」「不合理な行動」「別居〇年」などを理由に挙げる必要がありました。しかし2022年以降は 「結婚が修復不可能に破綻した」 とするだけで申請可能になりました。
つまり、相手を責めたり証拠を出したりする必要はありません。これにより大幅にシンプルでスムーズな手続きが可能になったのです。
2. 離婚の流れ(オンライン申請の場合)
2-1. 申請先
イングランドとウェールズでは、HMCTS(Her Majesty’s Courts and Tribunals Service) のオンラインサービスを使って申請できます。
2-2. 具体的な手順
- 申請書提出(Divorce Application)
オンラインでフォームに入力し、申請料を支払います。現在の費用は £593(2025年時点)。 - 相手方(Respondent)への送達
裁判所が申請を受け付けると、相手に通知が送られます。相手は14日以内に回答(Acknowledgement of Service)する必要があります。 - 待機期間(Minimum period)
申請から 20週間 のクーリングオフ期間が設けられています。この間に本当に離婚するのかを再考できます。 - Conditional Order(旧 Decree Nisi)
20週間後、離婚条件が整ったと確認されると「条件付き離婚命令」が出ます。 - Final Order(旧 Decree Absolute)
さらに6週間が経過すると、最終離婚命令を申請できます。これが出れば正式に離婚成立です。
👉 最短で 申請から26週間(約半年) で離婚成立となります。
3. 安く済ませるためのポイント
3-1. 弁護士を使わず「DIY離婚」
- 離婚そのもの(法律上の婚姻解消)だけを望む場合は、弁護士を雇わず 自分でオンライン申請 するのが最安。
- 英語がある程度できれば可能ですが、難しい場合は 日本語サポートのある法律事務所や翻訳者に部分的に依頼 する方法もあります。
3-2. 費用免除制度(Fee remission)
- 経済的に困難な場合、申請料の減額や免除(Help with Fees) を受けられる可能性があります。
- 収入や貯金額によって条件が異なるので、申請前に確認しましょう。
3-3. 財産分与・養育費の扱いに注意
- 離婚そのものはシンプルですが、財産分与・年金分割・子どもの親権や養育費 は別途 Family Court に申し立てが必要な場合があります。
- ここを弁護士に頼むと費用が一気に高くなるため、できる限り話し合いで合意し、合意書(Consent Order)を裁判所に提出するのが経済的。
4. 日本の離婚制度との違い
4-1. 日本の「協議離婚」との差
日本では夫婦が合意すれば役所に届け出るだけで離婚できますが、イギリスにはその制度がありません。必ず裁判所を通す必要があります。
4-2. 戸籍と再婚の違い
- 日本:離婚後は戸籍が変わり、再婚には6か月の制限(女性の場合)があったが現在は撤廃。
- イギリス:戸籍制度はなく、Final Order が出た瞬間に完全に独身扱い。すぐ再婚可能。
5. 実際にかかる費用の目安
- 申請料:£593
- 追加費用(翻訳など):数十~数百ポンド
- 弁護士費用:依頼内容によるが £500~£3,000 以上
- 財産分与や親権争いがある場合:数千~数万ポンドに跳ね上がることも
👉 「離婚手続きだけ」なら £600 前後で完結可能。
6. 日本人として注意すべきポイント
- 日本でも離婚の届け出が必要
イギリスで離婚しても、日本の役所に「離婚の報告」をしなければ日本ではまだ婚姻状態のままです。
在英国日本大使館を通して「離婚届」を提出することが必要です。 - 子どもの国籍・親権問題
- 日英双方の法律が絡むため、専門家に確認が必要。
- ハーグ条約の関係で、子どもの居住国が大きな影響を持ちます。
- ビザへの影響
- 配偶者ビザで滞在している場合、離婚により在留資格を失う可能性があります。
- 早めに新しいビザ(就労、学生、永住など)を検討することが重要。
7. 費用を節約しながら安全に進めるためのアドバイス
- 自力でできる部分はDIY、難しいところだけ専門家に依頼
- 翻訳は自分でできれば大幅節約
- 大きな争点(財産、子ども)がないなら徹底的に協議離婚的アプローチを取る
- 大使館や市民アドバイスセンター(Citizens Advice)を活用する
まとめ
イギリスでの離婚は、日本に比べるとやや時間がかかり、必ず裁判所を通さねばならないためハードルが高く感じられます。しかし2022年の制度改正で手続きは大幅に簡素化され、オンライン申請で半年ほどあれば成立します。
離婚そのものに必要なのは £593 程度。
高額になるのは財産や子どもをめぐる争いなので、可能な限り合意で解決することが「安く・早く」離婚する最大のポイントです。
また、日本での離婚届提出や、ビザ・子どもの国籍問題といった 日本人特有の課題 にも注意が必要です。
離婚は人生の大きな転機ですが、制度を正しく理解して冷静に進めれば、経済的・精神的な負担を最小限に抑えることができます。
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