英国を訪れる日本人への注意喚起:地方都市や小さな町でのヘイトクライム事例から学ぶ安全対策

イギリスの地方都市を歩くアジア人女性旅行者。外国人へのヘイトクライムや差別への注意を促す安全対策記事のアイキャッチ。

イギリスは長い歴史と豊かな文化を誇り、観光地としても人気があります。ストーンヘンジ、湖水地方、大学都市ケンブリッジやオックスフォードなど、地方都市や田園地域に足を運ぶ旅行者も少なくありません。ロンドンやマンチェスターのような大都市だけでなく、地方に広がる美しい風景や静かな町並みは、多くの人にとって大きな魅力です。

しかし近年、移民や外国人を取り巻く社会状況は決して安心できるものではありません。統計上、イギリス全体で「ヘイトクライム」と呼ばれる憎悪犯罪は数万件単位で発生しており、その大半は人種や宗教的偏見に基づくものです。とりわけ、外国人が目立つ地方都市や小さな町では、誤解や偏見から差別や攻撃の対象になりやすい側面があります。

ここでは、近年実際に報道された事件をもとに、どのようなリスクがあるのかを整理し、日本人旅行者や滞在者にとって注意すべきポイントを解説します。


イギリス各地で報じられたヘイトクライム事例

ブリストル

2025年9月、ブリストル市の住宅街で9歳の少女が空気銃で撃たれ、差別的な言葉を浴びせられる事件が発生しました。幸い命に別状はありませんでしたが、幼い子どもが被害に遭ったことで地域社会に大きな衝撃が走りました。警察は人種差別を動機としたヘイトクライムとして捜査を進めています。日本人旅行者にとっても「特に目立つ存在」として見られた場合、こうした突発的な攻撃に巻き込まれるリスクを示す事例です。

ボーンマス(ドーセット州)

同じく南部のボーンマスでは、反ユダヤ的な行為が複数報告されました。ナチスの鉤十字が壁に描かれる、ラビの家が落書きで汚されるなどの嫌がらせに加え、東クリフ地区では十代の少年が空気銃で撃たれる事件も発生しました。観光都市として知られる町でも、宗教や民族を標的とした攻撃が現実に起きていることがわかります。

ヨーク

2025年夏、サッカーのプレシーズン試合で、選手に対して観客が「猿の鳴き声」を模した差別的な声を浴びせる事件がありました。警察は捜査しましたが、証拠不十分として立件には至りませんでした。スポーツの場面で差別が噴出することは珍しくなく、観戦に訪れる際も不穏な雰囲気を察知したら早めに席を離れるなど、自衛が重要です。

ロス=オン=ワイ

2024年11月、ロス=オン=ワイのパブで従業員に対し人種差別的な言葉を繰り返した男性が有罪判決を受けました。罪状は「人種的加重のついた公共秩序違反」とされ、日常の場での差別発言も立派な犯罪として扱われることを示しています。旅行中にパブに立ち寄ることも多いと思いますが、酔客の差別発言がエスカレートすることがあるため、危険を感じたらすぐにその場を離れることが望ましいでしょう。

エディンバラ

プロパレスチナのデモが行われた際、参加者に差別的な言葉を浴びせたうえで刃物で顔を切る暴行事件が発生しました。加害者は差別動機が加重された罪で有罪となりました。デモや政治的集会は地方都市でも行われることがあり、旅行者が偶然巻き込まれる可能性もあります。抗議活動や集会の場には近づかないのが賢明です。

ワーリントン

2023年2月、16歳のトランスジェンダーの少女が公園で刺殺される事件が起きました。計画的犯行とされ、動機の一部にトランスジェンダーへの憎悪が認定されています。LGBTQ+に関連するヘイトは英国でも深刻な課題であり、「異質」と見なされる人々が狙われやすい現実を示す事例です。

ロンドン・ベクトン

2017年には、乗車中の男女が酸を浴びせられる事件がありました。ムスリムと見なされたことが背景にあると報じられています。酸攻撃は英国で社会問題となっており、地方だけでなく首都圏でも注意が必要です。

ロンドン・カムデン

1994年には、15歳の少年が民族的背景の違いを理由に刺殺される事件が発生しました。歴史的に見ても、民族間の緊張が暴力につながることがあることを物語っています。

バースタル(ウェスト・ヨークシャー)

2016年、労働党の女性議員ジョー・コックスが白人至上主義者に銃撃・刺殺される事件がありました。政治的極右思想に基づく憎悪犯罪で、国際的にも大きな衝撃を与えました。

リーズ・ハレヒルズ地区

2024年7月、児童福祉を巡る不満をきっかけに暴動が発生し、車両破壊や放火が起きました。民族的背景の違いが緊張を高めた要素の一つとされ、外国人にとっても安全が脅かされる状況でした。

バーミンガムおよびロザラム

サウスポートの刺傷事件後、一部地域で移民やイスラム教徒に対する誤解や偏見が広がり、モスクやホテルが攻撃対象となりました。外国人コミュニティへの敵意が突発的に噴出する例です。


小規模な町での報告例

規模が小さい町や村でも、差別や嫌がらせは起きています。

  • 南部沿岸部の漁村で、外国人住民の家に「Go home」と落書きされる。
  • デヴォン州の農村地帯で、外国人労働者の住居に石が投げ込まれる。
  • 北ウェールズの村で、イスラム教徒の女性がヒジャブを理由に侮辱される。

これらは大きな都市のニュースに比べて報道されにくいですが、当事者にとって深刻な脅威です。


日本人旅行者・滞在者が注意すべきこと

1. 社会情勢の把握

旅行前には現地のニュースや警察発表をチェックし、デモや暴動が起きやすい地域・時期を避けることが重要です。

2. 立ち居振る舞い

外国人として目立つ場面を避け、夜間の人通りの少ない場所には近づかないこと。政治的な議論や抗議活動には関わらないことが望まれます。

3. 安全確保

BRPカードやパスポートのコピーを携帯し、差別や暴力を受けた場合には無理に反論せず、その場を離れて警察や大使館に相談しましょう。

4. 地域のつながり

可能であれば現地の日本人コミュニティや国際交流団体に参加し、孤立を避けることが防御力になります。

5. 心の健康

差別に遭遇した場合、精神的ダメージが大きくなることがあります。日本語で相談できる窓口やカウンセリングサービスを利用するのも有効です。


まとめ

イギリスの地方都市や田園地域は魅力的な観光資源にあふれていますが、同時に外国人や少数派への差別やヘイトクライムのリスクも存在します。ここで紹介したように、大都市に限らず地方の小さな町でも事件は発生しています。

日本人は「アジア人」として一括りにされ、偏見の対象になる場合もあります。完全に安全を保証することはできませんが、情報を得て行動を工夫することでリスクを下げることは可能です。

旅行や滞在の際には、現地の状況をよく調べ、夜間や抗議活動が行われている場を避け、身の安全を最優先に行動してください。英国を訪れる日本人一人ひとりが安心して旅を楽しめるよう、十分な注意を払うことが求められています。

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