
本記事では、2024年以降に段階的に導入・更新された英国(UK)ビザ制度の変更点を、日本語でわかりやすく解説します。とくに賃金しきい値の引き上げ、家族帯同要件、IHS(移民医療付加金)、学生・訪問ビザのルールにフォーカス。実務で役立つチェックリストとFAQも収録しています。
1. スキルドワーカービザの賃金しきい値(最低給与)
スキルドワーカービザの「標準」最低年収は、近年段階的に引き上げられ、現在の新規申請では£41,700(または職種ごとのgoing rateの高い方)を満たす必要があります。加えて、職種別の所定賃金(going rate)表が随時更新されています。
- 新規申請:通常は£41,700以上と各職種のgoing rateのいずれか高い方を満たす。
- 延長・切替の経過措置:特定の期日までに延長する場合、低めのしきい値(例:£31,300)が適用される経過条項が存在(要件の細部はスポンサーHR/移民アドバイザーと要確認)。
- 教育・医療など一部職種は別建てのレートや時間数換算があるため、37.5時間換算の表に注意。
職種別going rateの見方(かんたん解説)
各職業コード(SOC)ごとに年収の基準額が設定されています。あなたの雇用契約の週所定労働時間が37.5時間以外なら、比例按分で基準額を調整します。
区分 | 主な要件 | 補足 |
---|---|---|
新規申請 | 年収£41,700以上 または going rate以上 | 高い方を満たす必要 |
延長(経過措置あり) | ケースにより低い基準(例:£31,300) | 期限や役職により異なる |
ISL対象職 | 通常基準の一定割合(後述) | 割引幅や対象職は限定的 |
2. 短缺職種リスト → 移民給与リスト(ISL)へ
2024年4月にShortage Occupation List(短缺職種リスト)は廃止され、Immigration Salary List(ISL)へ移行しました。ISLに掲載の職種は、通常の最低年収の80%など限定的な緩和がありえますが、旧制度より対象は大幅に絞られ、going rateの大幅割引が原則廃止されました。
3. 家族ビザ:最低年収要件の引き上げと経過措置
パートナーとしての家族ビザ申請では、通常年収£29,000以上が必要です。これは2024年4月に引き上げられた新基準です。
- 新規申請:通常£29,000以上。
- 経過措置:2024年4月11日以前に同一パートナーで申請済みの延長は、従来の£18,600が適用されうる。
- 子ども同伴の場合は加算要件に注意。
4. 学生ビザ:家族帯同は原則不可(2024年1月~)
2024年1月1日以降、学生ビザでの家族帯同は原則禁止となりました。例外は政府奨学金生または大学院(RQF7以上)の研究型課程で、一定の条件を満たす場合です。
5. ヘルス&ケア労働者ビザ:介護職の家族帯同制限(2024年3月~)
介護職(Care workers/Senior care workers)については、2024年3月11日以降の新規申請では家族帯同が不可となりました。一方、同日以前から在留・就労中の人には経過措置があり、引き続き家族帯同や延長が可能なケースがあります。
また、2025年7月以降は中位技能(RQF6未満)の一部職種でも類似の帯同制限が導入されています。自身のSOCコードと在留開始日で適用可否が分かれるため、個別確認が必須です。
6. 訪問(ビジター)ビザ:リモートワークは付随的なら可
2024年のルール整理で、海外雇用に紐づくリモート業務は渡航目的がそれ自体で主目的でない限り、滞在中に行うことが可能と明確化されました。英国のローカル市場での就労やサービス提供は引き続き不可です。
- OK例:会議参加・観光の合間に、海外雇用主向けのメール対応や資料作成。
- NG例:英国の顧客に対する直接的な商品・サービス提供、現地雇用主への労務提供。
7. IHS(移民医療付加金)の改定額
2024年2月6日施行の改定で、IHSは原則年£1,035に引き上げられました。学生・18歳未満・YMSは年£776です(在留年数に応じて総額が変動)。
8. グラデュエート(卒業生)ルートの見直し:維持を勧告
2024年5月のMAC(移民助言委員会)による迅速レビューは、卒業生ルートに広範な濫用の証拠はないとして、現行維持を勧告。以降も制度は存続しており、2年間(博士は3年)の在留・就労・就職活動が可能です(将来の政策提案はあり得るため、直近の公式発表を確認推奨)。
9. 主要変更のタイムライン(抜粋)
- 2024-01-01:学生ビザの家族帯同を原則禁止(研究型課程等を除く)。
- 2024-02-06:IHSを年£1,035(学生・U18等は£776)へ引上げ。
- 2024-04:短缺職種リスト→ISLに移行、割引の範囲を大幅に縮小。
- 2024-03-11:介護職の新規家族帯同不可(既存在留者には経過措置)。
- 2024年以降:訪問ビザでの付随的なリモートワークを容認(ローカル就労は不可)。
- 2025年:スキルドワーカー最低年収£41,700に更新、延長の経過措置は個別要件に依存。
10. 申請前チェックリスト
- あなたのSOCコードとgoing rateを確認。
- オファー年収が標準しきい値とgoing rateの高い方を満たすか。
- ISL対象なら割引の可否・割合を最新表で確認。
- 家族帯同:申請日・在留開始日で経過措置の有無を判定。
- IHSの総額を在留年数×年額で試算。
- 学生/訪問の場合、家族帯同や業務可否の例外条件を精査。
11. よくある質問
Q1. 年収が£41,700に少し届きません。ISLで救済されますか?
ISLは対象職種が限定的で、割引幅も縮小されています。あなたの職種がISL掲載であること、かつ所定割合を満たすかを確認してください。
Q2. 学生ビザで家族を呼べますか?
原則不可。政府奨学金生や研究型大学院などの例外のみ可能です。
Q3. 介護職ですが、すでに在留中です。家族の延長は?
2024年3月11日より前から在留・就労している場合、経過措置により帯同・延長が可能なケースがあります(個別条件に依存)。
Q4. 出張中に本国の雇用主の仕事をリモートでこなすのは?
訪問ビザの目的が観光・会議等であり、リモート作業が付随的であれば通常は可。英国市場向けの直接サービス提供は不可です。
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