
イギリスで子どもを出産する場合、基本的にはNHS(国民保健サービス)によるケアが中心となります。 妊娠の確認から出産、そして退院後のサポートまで、すべてのプロセスが体系化されており、ほとんどの費用が無料で提供されます。
ミッドワイフ(助産師)が主導するケアモデルが特徴で、妊娠・出産を「医療行為」ではなく、自然なライフイベントとして支える考え方が根付いています。
NHSによる妊婦ケアの基本構造
- 登録(Booking Appointment):妊娠が分かったら、まずはGP(家庭医)か助産師に連絡し、妊婦登録を行います。
- 無料の妊婦検診:血液検査、尿検査、超音波スキャン(12週・20週など)がNHSで無料提供。
- 担当ミッドワイフ:定期的な検診、出産計画(Birth Plan)の相談、出産時の立ち会いまで一貫して担当。
- 病院連携:高リスクの場合は助産師がGP・産科医・専門医に連携。チームで管理します。
妊婦ケアは原則としてミッドワイフ主導で進み、医師は必要時のみ介入します。この体制により、自然分娩の割合が高く、母子の満足度も高いとされています。
妊娠から出産までの一般的なプロセス
- 妊娠確認と登録(〜10週):自宅の検査キットで陽性を確認したらGPまたはミッドワイフに連絡。
- 初回検診(Booking Appointment・約8〜10週):健康状態の確認、既往歴の聞き取り、検査日程の決定。
- 12週スキャン(Dating Scan):胎児の成長確認と出産予定日の確定。
- 20週スキャン(Anomaly Scan):胎児の臓器形成や性別の確認。
- 妊娠中期〜後期(24〜36週):定期検診・血圧・体重・胎児心拍を確認。バースプラン(出産計画)を作成。
- 出産(40週前後):陣痛が始まったら病院・助産院・自宅など、選んだ場所で出産。
- 退院とポストナタルケア:通常は出産後6〜48時間で退院。以降は自宅訪問サポートあり。
出産場所の選択肢
イギリスでは自分の希望やリスクに応じて、出産場所を選ぶことができます。
- 病院(Hospital Birth):医師が常駐し、無痛分娩(Epidural)や緊急対応が可能。
- 助産院(Midwife-led Unit):リラックスした雰囲気で自然分娩をサポート。医療介入が少ない。
- 自宅出産(Home Birth):ミッドワイフが出張。低リスク妊婦に推奨されるケースも。
いずれの選択肢でも、出産前にバースプランを立て、痛みのコントロール・立ち会い・出産姿勢などを事前に相談できます。
費用と保険の仕組み
NHSを利用する場合、妊婦健診・出産・入院・新生児ケアはすべて無料です(永住者・長期ビザ保持者など対象者のみ)。 一方、民間病院やプライベートケアを利用する場合は自己負担となり、費用はおおよそ以下の通りです。
- 私立病院での出産:£5,000〜£10,000前後(分娩・入院・ケア込み)
- 個別スキャン・追加検査:£100〜£300
- ミッドワイフ・プライベートサポート:£2,000〜£5,000
医療費以外にも、マタニティウェア、チャイルドシート、ベビーカーなどの費用がかかるため、£1,000〜£2,000程度の準備費用を見込むのが一般的です。
必要な手続きと書類
- 母子手帳(Maternity Notes):妊娠初期に発行され、検診・出産記録がすべてここに記載されます。
- Maternity Exemption Certificate:妊娠中〜出産後12か月まで、医療費・薬代・歯科治療が無料。
- 出産登録(Birth Registration):出産後42日以内に役所(Register Office)で出生届を提出。
- Child Benefit・Universal Credit:該当する場合は出生届後に申請可能。
出産後のケアとサポート
出産後もミッドワイフやヘルスビジター(Health Visitor)が自宅を訪問し、母体と赤ちゃんの健康を確認します。
- ポストナタルビジット(Postnatal Visit):出産直後から数週間、体調・授乳・睡眠をサポート。
- 新生児検査(Newborn Screening):聴力・代謝異常などのチェック。
- 6〜8週健診(Postnatal Check):GPによる最終健康チェック。ここで職場復帰や避妊の相談も可能。
- 地域支援グループ:ママ&ベビークラス、授乳カフェ、ボランティア支援など、地域交流の機会が豊富。
よくある質問
外国人でもNHSで出産できますか?
合法的にイギリスに滞在している場合(ビザ保有者や永住者など)はNHSの出産ケアを無料で受けられます。一部短期滞在者は有料となることがあります。
無痛分娩はできますか?
はい。病院出産の場合、麻酔医が対応する無痛分娩(Epidural)が選択可能です。助産院や自宅出産では原則利用できません。
出産時に必要な持ち物は?
マタニティノート、着替え、ベビー服、チャイルドシート、飲料水、軽食などを「ホスピタルバッグ」にまとめておくと安心です。
出産後のサポートはどこで受けられますか?
地域のヘルスビジター、ミッドワイフチーム、NCT(National Childbirth Trust)などで、育児・授乳・メンタルケアの支援を受けられます。
イギリスでの出産は、NHSの充実した無料ケアと、助産師によるきめ細かなサポートが特徴です。 医療的にも制度的にも安心できる環境が整っており、妊娠中から出産後まで一貫した支援を受けられます。 出産前に制度や流れを理解し、自分に合った出産プランを立てることが、より穏やかなマタニティライフへの第一歩です。
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