現在、私の住むイギリスに限らず、政治家が「生活コストの改善」という言葉を口にするたびに、いつも違和感を覚えます。
そもそも、生活コストを政治家が決めているわけではありません。
政治家が決められるのは税金の額くらいであり、食品や家賃、光熱費などを直接決定することはできないはずです。
それにもかかわらず、「生活コストの改善を目指す」と政治の公約に掲げるのは、公約でもなんでもなく、ただのパフォーマンスにすぎません。
ここで、イギリス政府が「生活費改善」のためにこれまで行ってきた施策を簡単に挙げてみます。
1. エネルギー・光熱費対策
エネルギー価格の高騰(特に2022年以降)に対し、政府は大規模な介入を行いました。
主な政策:
- Energy Price Guarantee(エネルギー価格保証制度)
家庭の電気・ガス料金に上限を設定し、政府が差額を補填。
→ 家庭の年間平均光熱費を抑制(2022〜2024年ごろまで段階的に実施)。 - Energy Bills Support Scheme(光熱費支援金)
全世帯に400ポンド(約7〜8万円)を給付。 - 低所得世帯向け追加支援
年金受給者・障がい者・低所得世帯に追加で150〜900ポンドの補助金を支給。
🧩 狙い:
短期的に家庭のエネルギー支出を直接下げることで、急激なインフレの打撃を緩和。
結果:
全世帯に400ポンドを給付したとされているが、実際には毎月の支払いから給付金分が差し引かれた形で請求された。
そのため、公共料金が安くなったと体感することはほとんどなかった。
2. 食料・日用品価格対策
イギリスは食料インフレ率が特に高く、政府は流通段階への介入も検討しました。
主な政策:
- スーパーマーケットとの価格抑制協定(任意)
基本的な食料品の値上げ抑制を要請(フランス式モデルを参考)。 - 学校給食の無償化拡大
ロンドン市長サディク・カーンらが地方レベルで導入を拡大。 - 食料銀行(Food Bank)支援
政府・自治体・慈善団体が連携し、緊急的に食料支援を強化。
結果:
食料品の価格は依然として上昇を続けている。
3. 所得・税制面での支援
物価上昇に対し、賃金の上昇が追いつかないため、所得補填や減税策を組み合わせて実施。
主な政策:
- National Living Wage(全国生活賃金)の引き上げ
2024年に時給11.44ポンド(約2,200円)に引き上げ。
→ 低所得層の賃金を底上げ。 - 所得税・社会保険料(National Insurance)の軽減
2023〜2024年にかけて段階的に減税。 - Cost of Living Payments(生活費支援金)
特定の低所得者・年金受給者に定期的に現金給付(数百ポンド単位)。
結果:
賃金は上がったものの、物価上昇率がそれを上回っており、実質的な効果はほとんど見られなかった。
4. 住宅コスト・家賃対策
住宅価格と家賃の高騰も深刻な問題となっています。
主な政策:
- Housing Benefit(住宅手当)の拡充
低所得者向けに家賃補助を強化。 - Council Tax Reduction(地方税軽減)
所得に応じた減免措置を実施。 - 住宅供給促進政策
開発規制の緩和や公的住宅の再整備を進行中。
結果:
生活保護を受ける人々(ほとんどが無職)が住宅を提供されたことで、就労意欲が下がり、その負担が働いている層にしわ寄せされている。
5. 構造的対策(中長期)
政府は「一時金」だけでなく、構造的な対策も模索しています。
主な方向性:
- エネルギーの脱炭素化・国内生産強化
再生可能エネルギーへの投資や原発の新設計画など。 - 地域経済の再生
「Levelling Up(地域格差是正)」政策により、地方の雇用と生活コストを改善。 - 教育・スキル訓練への投資
長期的な所得向上を目指す労働政策。
結果:
現時点では効果なし。恩恵を実感している人はほぼ皆無。
これらの結果を見れば明らかなように、政治家がどれほど対策を打ち出しても、インフレそのものを抑え込まない限り、国民の生活は改善されません。
いわば「焼け石に水」の状態です。
では、インフレを止めるために政治家が実際に行ってきたことと、その効果を見てみましょう。
| 対策 | 内容 | 効果 | 課題 |
|---|---|---|---|
| 🏦 金利を上げる | 中央銀行(BOE)が政策金利を何度も引き上げ、借金・消費を抑制 | 物価上昇率が11% → 約2%に低下 | 住宅ローン・企業負担が増大し、景気が冷え込む |
| 💰 政府支出の抑制・増税 | 財政赤字を抑え、景気過熱を防ぐ | インフレ圧力をやや緩和 | 景気が弱まり、実質所得が低下 |
| ⚡ エネルギー補助・価格上限 | 電気・ガス代に上限を設け、政府が一部補助 | 一時的に家計負担を軽減 | 財政負担が大きく、長期的には維持困難 |
| 💵 最低賃金アップ・給付金 | 生活困窮者支援として所得を補助 | 一部には効果あり | 給付や賃上げが再び物価上昇を招く恐れ |
結局のところ、どの政策も決定的な効果はなく、むしろ景気をさらに悪化させる要因となりました。
日本政府に物申す
現在の日本も、同じような状況に陥りつつあるように見えます。
とはいえ、日本はまだイギリスほど深刻ではありません。
どうかイギリスと同じ道をたどらぬようにしてほしい。
失敗から学ぶことを、日本の政治家はそろそろ身につけるべき時ではないでしょうか。










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