1. 英国の方針転換:反原発から「脱CO₂」
イギリスといえば、長年「反原発国家」というイメージが強い国です。
しかし近年は、これと並行して「脱CO₂」「再生可能エネルギー推進」の姿勢が目立つようになってきました。
ウクライナ戦争の長期化を背景に、エネルギー安全保障の重要性が再認識されています。英国政府は「国内でできるだけ電力を自給自足する」という方向へ舵を切ったといえるでしょう。
ただし、政策決定のスピードは依然として遅く、「なぜ国会が関わると何事も進行が遅くなるのか」と感じるところもありますが、ここでは先に進みましょう。
2. 日立製作所がかつて関与した英国原発計画
原発と聞くと、少し前に日本の日立製作所が英国の原発建設計画に参加していたことを思い出す方もいるでしょう。
日立はかつて、
- ウェールズ・アングルシー島の「Wylfa Newydd(ワイルファ・ニューイド)」
- イングランド・サウスグロスターシャー州
この2か所で新設原発(ABWR型炉2基など)を建設する計画を進めていました。
しかし、資金調達の目処が立たず、英国政府との合意にも至らなかったこと、また建設・運転前のリスクが大きかったことなどから、2019年1月に「凍結(suspension)」を発表。
さらに、2020年9月に正式撤退が発表されました。
今回はその日立製作所の関与はなく、ロールス・ロイス社(Rolls-Royce)が工事の指揮をとる予定です。
3. 「英国初の原発」報道の真意とは?
報道では「イギリス初の原発」と大きく取り上げられましたが、厳密には「初」ではありません。
イギリスにはすでにイングランド・サフォーク州に稼働中の原発があります。
では、なぜ「初の原発」と報じられたのか。
それは、今回建設される原発が“SMR(小型モジュール炉)”であるためです。
つまり、「初めての原発」ではなく、正確には「英国初のSMR発電所」というのが政府発表の趣旨です。
4. 原発建設で何が変わるのか
🔹 エネルギー供給の安定化
- イギリスはこれまで電力の約40%を天然ガスに依存し、その多くをノルウェーや中東から輸入。
- SMRの稼働が進めば、国内で安定的に電力を生み出す能力が向上。
- 天候に左右されやすい再生可能エネルギー(風力・太陽光)を補う「ベースロード電源」として電力の安定性が高まります。
📈 影響:
- 冬季の電力不足やガス価格高騰リスクの軽減。
- 停電・電気料金高騰への不安が減少。
- エネルギー自給率(現在約35%)の上昇。
5. 脱炭素(Net Zero 2050)戦略の加速
🔹 背景
- 英国は2050年までにCO₂排出実質ゼロを目指しています。
- 再エネだけでは、発電の安定性と需要バランスを両立することが難しいのが現実です。
🔹 SMRの役割
- 原子力は運転時にCO₂をほとんど排出しません。
- SMRは従来の大型原発より建設が速く、分散設置も可能。
- 結果として、「低炭素で安定的な電源構成」が実現しやすくなります。
📊 予想効果:
- 英国全体で年間数百万トン単位のCO₂削減(天然ガス火力代替による)。
- 風力・太陽光を補う“CO₂ゼロの夜間電力”の供給。
6. 産業・雇用への波及効果
🔹 経済効果と地域活性化
- SMR建設により、数千人規模の雇用が創出。
- 北ウェールズなど地方経済の再生につながる。
- 原子力サプライチェーン(部材・溶接・制御系など)の再構築が可能。
📈 数字で見る効果:
- 英政府推定:最大4,000人の建設雇用、1,000人の恒常的雇用。
- 英国内製造業における「高技術・高付加価値職種」の増加。
- Rolls-Royceを中心とした“Made in Britain”原子力ブランドの復活。
7. 国際競争・輸出産業への展開
🔹 背景
SMR市場は、今後世界的に急成長が見込まれています。
アメリカ、カナダ、韓国などもすでに開発を進めています。
🔹 英国の狙い
- Rolls-Royce SMRは輸出を前提とした設計。
- 東欧・中東・アフリカなど、安定電源を求める国々への展開を想定。
- 英国政府はSMRを「次世代の航空機エンジン産業」に並ぶ輸出の柱に育てる考えです。
8. 政治・社会の変化
🔹 政府側
- 英政府は「原子力復権」を明確に打ち出し、
“再エネ vs 原発”から“再エネ+原発”の共存政策へと転換。 - 将来的には、原発が再びエネルギー戦略の中心へ戻る可能性もあります。
🔹 世論側
- 反原発感情は依然根強いものの、エネルギー危機を経て慎重な容認派が増加。
- SMRは「小型で安全」「地元経済にプラス」と説明され、受け入れやすい形になっています。
9. まとめ:資源依存からの脱却へ
英国政府が原発建設を進める背景には、将来的に他国の資源に依存しない国家づくりを目指す意図があるように思われます。
しかし私の考えとしては、以前から繰り返し述べているように、真の目的は“石油枯渇問題”への備えではないかと考えています。
つまり、石油が世界からなくなる日を想定し、今のうちに「石油なしでも生きていける体制」を築こうとしているのではないでしょうか。










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