オーストラリアのSNS禁止令、イギリスのインフルエンサーに広がる“静かな危機感”

オーストラリアのSNS禁止令に不安を抱く女性インフルエンサーがパソコンの前で悩む様子を描いたイラスト。SNSアイコンの禁止マークとオーストラリア国旗が表示されている。

オーストラリアで施行された、16歳未満のソーシャルメディア利用を事実上禁止する新法が、海の向こうのイギリスで思わぬ波紋を呼んでいる。
日本と並びインフルエンサー文化が成熟しているイギリスでは、「自国にも同様の規制が及ぶのではないか」という不安がクリエイターの間で高まりつつある。

若年層の“消滅”が意味するもの

今回の禁止令は、TikTok、Instagram、YouTube、Snapchat など主要プラットフォームを対象にし、企業側に16歳未満のユーザー排除を義務づけるもの。
もし同様の政策がイギリスに導入されれば、インフルエンサーにとっての“基盤”そのものが揺らぎかねない。

イギリスのSNS市場では、10〜16歳のユーザーが多くのクリエイターにとって主要な視聴者層だ。
特にダンス、ファッション、ゲーム実況など、若年層中心のジャンルでは「視聴者の大部分が一夜にして消える」という最悪の未来さえ想定される。

ある若手インスタグラマーは言う。

「もしイギリスで同じ法律が施行されたら、私の仕事は成立しなくなる。フォロワーの半分以上が16歳未満なんです。」

広告業界もざわつく──“SNS依存”への再考

若年層向け商品を扱うブランドにとって、クリエイターとSNSを組み合わせた広告はマーケティングの中心だった。
その前提が崩れる可能性は業界にとっても深刻で、すでに一部の広告代理店では「SNS以外のチャネルの強化」「若年層へ直接アプローチしない広告戦略の検討」が始まっている。

イギリスのマーケティング企業の担当者はこう語る。

「オーストラリアの動きは他国にも波及し得る。
“SNSで子どもにリーチする”というモデルは、今後リスクの高い戦略と見なされるかもしれない。」

クリエイターの間で広がる“将来への不安”

インフルエンサーたちは、単に数の問題だけではなく、“職業としての安定性”そのものに危機感を抱いている。

  • プラットフォーム側の年齢確認が厳格化されれば、視聴者データが変化し、案件単価が下がる
  • 若年層が規制を避けて別プラットフォームに流れれば、SNS市場が細分化し成長予測が難しくなる
  • 若年層依存型クリエイターほどダメージが大きい

特に、TikTok や短尺動画市場は若年層の存在があってこそ成立している側面が強く、「大型市場が縮む未来」への恐怖が現実味を帯びてきている。

一方で、ポジティブな“転換点”と見る声も

ただし、危機感だけが広がっているわけではない。

  • 大人向けコンテンツや教育系チャンネルは、影響が少ない
  • ブランドは“より質の高いコンテンツ”を求めるようになり、クリエイターの専門性が重視される
  • 若年層への過度な依存から脱却し、長期的に安定したコミュニティづくりに目が向く

こういった変化を「健全な進化のきっかけ」と捉えるクリエイターもいる。

“次にどこで起きるか”が最大の関心事

現在、イギリス政府はオーストラリアと同レベルの禁止措置を導入する予定はないと説明している。
しかし、オンライン上の子どもの安全を強化する政策は進行中で、プラットフォームには年齢確認や子ども保護の強化が求められている。

クリエイターが最も恐れるのは「知らぬ間に世界の潮流が変わっていくこと」だ。

オーストラリアの前例が、
“若者とSNSの関係を国が規制する時代”
の到来を象徴しているのかもしれない。

インフルエンサーが抱く静かな危機感は、やがてSNS文化そのものの再定義へつながっていく可能性がある。

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