ロンドンにも生きる「ジプシー」たちの現在:彼らの暮らしと文化に迫る

イギリスに住んでいると、都市部から少し離れた郊外やフェスティバルの会場などで、キャラバンやワゴンを拠点に生活する人々を目にすることがあります。彼らは通称「ジプシー」と呼ばれる人々。しかし、その呼び方には近年注意が必要で、イギリスでは「Gypsy, Roma and Traveller(GRT)」という包括的な名称が使われています。 本記事では、イギリスに今も生活の拠点を持つGRTコミュニティの実態、生活手段、居住地、直面する社会的課題、そしてロンドンにも存在する彼らの「今」について掘り下げていきます。 1. 「ジプシー」とは何者か? -その定義と背景 ジプシーという言葉には誤解も多く含まれています。歴史的には中東やインドからの移民がヨーロッパ各地に広がる中で、旅を続ける生活様式を持った民族が登場し、これが「ロマ(Roma)」と呼ばれる人々の始まりとされます。 イギリスにおけるGRTコミュニティは、以下の3グループに大別されます。 これらの人々は、イギリスの法律上でも民族的少数派として認められ、人種差別禁止法の対象でもあります。 2. 彼らはどこで暮らしているのか? かつてGRTはキャラバンを移動させながら生活する「遊牧民」のような生活を送っていました。しかし近年では多くが半定住型もしくは完全な定住型の生活を送っています。 キャラバンサイトと定住生活 全国には政府が認可した「Gypsy and Traveller Site」と呼ばれる居住地が存在しますが、数は非常に限られており、入居には長い順番待ちが必要です。そのため、多くのGRTは次のような住環境で暮らしています。 ロンドン近郊では、ミッチャム、ハロウ、レッドブリッジ、ラムベスなどにGRTコミュニティの拠点があります。これらは高速道路脇や使われなくなった土地、公園裏などにあり、しばしば公衆衛生の問題やゴミ処理などで地元自治体とトラブルになることもあります。 3. ロンドンにもいるGRTの人々 ロンドンの中心地ではあまり目立ちませんが、GRTコミュニティは確実に存在しています。数としては約3万人程度がロンドン圏に居住していると推定されており、その多くはサウスワークやハックニーなどの移民が多い地区、あるいは周辺部のキャラバンサイトに生活拠点を持っています。 ロンドン西部のノッティング・ヒル周辺には、歴史的にアイルランド系トラベラーが定住した過去もあり、今もその名残を見ることができます。 4. 彼らは何で生計を立てているのか? GRTの人々の多くは、労働市場の主流からは外れたところで働いています。大多数が自営業であり、代々受け継いだ技術やネットワークを活かした職業に就いています。 主な職業 一部では、近年オンラインマーケットに進出し、自作の工芸品や装飾品を販売する動きも見られます。とはいえ、社会的な信用や学歴の不足から、正規雇用に就くことは困難な状況が続いています。 5. 文化と価値観:家族と誇りを大切に GRT文化の中心には「家族の絆」「名誉」「清潔さ」があります。たとえば結婚式は非常に大規模で豪華に行われ、衣装や装飾には多大な費用がかけられます。 言語としては、英語にロマ語由来の語彙を混ぜた「Angloromani」や「Shelta」などが使われることがあり、他者には理解しにくい独自の会話が成り立っています。 また、病気・死・出産などに関するタブーや儀礼も根強く残り、現代社会の一般的なライフスタイルとは大きく異なる場面も多くあります。 6. 直面する課題:差別と社会的排除 イギリス国内でGRTは最も差別を受けやすい少数民族の一つとされています。公共の場での罵倒、住宅・教育・医療における不平等、警察の過剰な監視など、さまざまな社会的障壁が存在します。 教育格差 GRTの子どもの約半数が義務教育を途中で離脱するとされ、GCSE(イギリスの中等教育修了資格)を取得する生徒は全体の2割にも届きません。移動生活や文化的な要因により学校教育との折り合いがつかず、不登校や中退が多発しています。 健康問題 平均寿命はイギリス全体より10〜12年も短く、心臓病、糖尿病、精神疾患、皮膚病などの健康リスクが高い傾向にあります。これは、衛生環境の悪さや医療サービスへのアクセスの困難さが原因とされています。 7. 支援活動と共生への模索 イギリス各地には、GRTの生活改善や差別撤廃を目指す支援団体が存在します。ロンドンでは「London Gypsies and Travellers」という団体が、雇用支援・法律相談・教育プログラムを提供しています。 また、地域社会との摩擦を和らげるため、学校や自治体がGRT文化への理解を深める取り組みを始めています。ワークショップ、講演、ドキュメンタリー上映などのイベントが定期的に開催され、少しずつではあるものの、理解と共生の兆しが見えてきています。 8. 私たちにできること GRTについて正しく理解することは、偏見や差別をなくす第一歩です。彼らは「異なるライフスタイル」を選んでいるだけであって、決して「社会の敵」ではありません。 まとめ イギリスには今も確かに「ジプシー」と呼ばれる人々が存在します。彼らは多様なルーツを持ち、移動と定住の間で揺れながらも、自分たちの文化や誇りを守って生きています。ロンドンのような大都市の中でも、見えづらい場所に確かな暮らしがあります。 GRTを理解するということは、社会の多様性を受け入れ、真の意味で共生を目指すことに他なりません。異文化と出会い、その違いを学び合うことが、私たちの社会をより豊かにするのです。

ロンドンと東京:どちらが住みやすい?

「イギリスで生活するのって、日本より楽?」 こんな疑問を持つ人、多いですよね。かつて「大英帝国」として世界を支配していたイギリスも、今や経済的には落ち着きつつあります。現在のGDPランキングでは世界6位と、日本とほぼ同じようなポジション。じゃあ、実際に住むならどっちがいいの?という疑問に答えるべく、生活費や収入、日々の暮らしやすさを比較してみました! イギリス vs. 日本:生活費・収入の比較 まずは、具体的な数字を見てみましょう。 項目 ロンドン 東京 差異 平均年収 約£41,000(約790万円) 約620万円 ロンドンの方が約27%高い 家賃(70㎡の物件) 約£1,200/月(約19.4万円) 約15万円 ロンドンの方が約29%高い 外食費(リーズナブルなレストラン) 約£15(約2,098円) 約1,000円 ロンドンの方が約110%高い マクドナルドのセット 約£6(約839円) 約680円 ロンドンの方が約23%高い ビール1杯(500ml) 約£5(約699円) 約500円 ロンドンの方が約40%高い コーヒー1杯 約£2.82(約394円) 約391円 ほぼ同じ 公共交通機関の月間パス 約£150(約29,000円) 約15,000円 ロンドンの方が約93%高い ※為替レートは1ポンド=約195円で計算 ロンドン vs. 東京:どちらが暮らしやすい? 上記のデータを見ると、ロンドンの平均年収は東京より高めですが、生活費がそれを上回る勢いで高騰しています。特に家賃・外食費・交通費が東京よりもかなり高いことが分かります。 例えば、東京なら1,000円で食べられるランチも、ロンドンでは2,000円以上。家賃も同じ広さで見れば東京の方が安く抑えられるため、収入が高くても出ていくお金が多すぎるという状況です。 実際、生活費全体で見ると「ロンドンは東京よりも約73.6%高い」とするデータもあります。 このことから、 という結論が見えてきます。 お金以外の視点で見た暮らしやすさ お金の話だけで比べても、生活の満足度までは見えてきませんよね。では、それ以外の面ではどうなのでしょうか? ① 仕事環境 ロンドンでは、日本ほど「長時間労働」が強要されることは少ないですが、成果を出さないとすぐに切られるという厳しさもあります。一方、日本では一度就職すれば、比較的安定した雇用が続きやすい反面、仕事量は多く、昇給スピードは遅めです。 ② 医療制度 ロンドンのNHSは無料で診察を受けられるのが魅力ですが、診察の予約が数週間~数か月待ちになることも。東京では保険適用で医療費は安く抑えられ、予約も比較的取りやすいので、医療のアクセスは日本の方が圧倒的に良いでしょう。 …
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