
イギリスで裁判を起こすのは、一見“正統な解決策”のように思われますが、実際には「時間がかかる」「必ずしも正義が通らない」「費用が膨大」の三重苦。特にあなたがイギリス人でなければ、裁判に持ち込むよりも示談交渉で解決する方が賢明な場合が多いのです。
1. 「Solicitor」は単なる書類屋?
日本やアメリカでは弁護士は「Lawyer」と呼ばれますが、イギリスでは「Solicitor(ソリシター)」と呼ばれます。
Solicitor の語源は「請願する人」「依頼を取り次ぐ人」。必ずしも「法廷で弁護する人」という意味ではありません。
実際の仕事も書類作成や裁判所への提出が中心で、法廷での弁論は専門の Barrister(バリスター)に依頼することが一般的です。つまり Solicitor は「法廷闘士」ではなく「法律事務のプロ」という位置づけに近いのです。
2. 裁判官は「前例リサイクラー」
イギリスの裁判制度は「判例主義」が基本です。裁判官は独自の正義感で判断するのではなく、過去の判例を参照して結論を導きます。
言い換えれば、新しい正義を創るのではなく「前例に合わせて判決を出す」だけ。極端に言えば、膨大な判例を検索して判決を出すだけなので、AIでも代替できるのではないかという議論が出るほどです。
3. 裁判にかかる時間とコストの現実
イギリスの裁判は「時間とお金の消耗戦」です。
裁判の基本費用
- 裁判所への申立手数料は請求額によって変動し、数百ポンドから数千ポンド。請求額が大きければ、請求額の5%が手数料になることもあります。
- Solicitor への初回相談料は約 £150(+消費税)程度。
訴訟の進行費用
- 裁判前の交渉段階(Pre-Action):£1,000〜£5,000
- 裁判進行(Proceedings):£2,000〜£15,000
- Fast-Track(比較的単純な訴訟):£3,000〜£8,000
- Multi-Track(複雑または長期化する訴訟):£10,000〜£30,000
実際の事例に近い金額
- £50,000 の債務回収訴訟では、専門家証人が不要でも £20,000 以上かかることがあります。
- 複雑なケースになると £60,000 を超えるのも珍しくありません。
注意点
イギリスの原則では「負けた側が勝った側の費用も負担する」ことになっていますが、実際に全額回収できるとは限りません。相手に支払い能力がなければ、自分が立て替えた費用は戻ってこないのです。
4. 強い調子でまとめるなら…
- 裁判は「長期戦+高額出費」が前提。
- Solicitor は基本的に「書類作成係」であり、弁論はバリスター頼み。
- 裁判費用はあっという間に数万ポンド規模に膨れ上がる。
- 勝訴しても費用を全額回収できる保証はない。
- だからこそ、示談や和解でスピード解決を目指す方が現実的。
まとめ表(費用の目安)
フェーズ | コスト目安 |
---|---|
初回相談 | 約 £150 |
裁判前交渉 | £1,000–£5,000 |
裁判進行 | £2,000–£15,000 |
Fast-Track 訴訟 | £3,000–£8,000 |
Multi-Track 訴訟 | £10,000–£30,000 |
債務回収(£50,000 規模) | £20,000以上 |
複雑訴訟 | £60,000以上 |
結語
イギリスの裁判は「時間がかかる・費用が高い・正義が通るとは限らない」という三拍子がそろっています。
もしあなたがイギリスでトラブルに巻き込まれたとしても、裁判という手段は最終手段にとどめ、まずは示談や和解を第一の選択肢にするのが現実的でしょう。
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