1. 「増えている」のは何か:加害者数ではなく、記録される犯罪と登録者数
まず重要なのは、「小児性愛者の数」は直接測定できないという点です。公的に把握されているのは主に以下の指標です。
- 警察が記録した児童性的虐待・搾取(CSAE)関連の犯罪件数
- 登録性犯罪者数
- 調査に基づく被害経験の推計
■ 2024年のCSAE犯罪は122,768件(イングランド&ウェールズ)
2024年、イングランド&ウェールズで警察が記録した児童性的虐待・搾取関連犯罪は 122,768件。前年から約6%増加しました。
- 接触型犯罪:約65%
- 非接触型犯罪:増加傾向(オンライン要素の拡大が背景)
この件数は「被害者の人数」とは一致しません。1人に対して複数件が記録されることもあれば、逆に複数の被害が1件にまとめられる場合もあります。
■ 登録性犯罪者は70,052人(2024年3月末)
イングランド&ウェールズで管理対象となっている登録性犯罪者は 70,052人。過去10年で大きく増加しています。
ただし注意点があります。
- 登録性犯罪者=小児性愛者ではない
- 小児への性的関心があっても、検挙歴がなければ統計に含まれない
つまり、これは「管理下にある既知の加害者」の数を示すにすぎません。
2. 想定される被害者数:公式統計よりはるかに多い可能性
■ 「少なくとも10人に1人」の推計
専門機関の推計では、少なくとも10人に1人の子どもが16歳までに何らかの性的虐待を経験しているとされています。
■ 成人の7.5%が「16歳以前に性的虐待を経験」
英国の犯罪調査によれば、成人の約7.5%が16歳以前に性的虐待を受けたと回答しています。これは約310万人規模の成人サバイバーに相当します。
これらの推計は、警察に報告されていない「暗数(hidden crime)」が非常に大きいことを示しています。
3. 小児性愛は精神的な病気なのか?
ここは概念の混同が起きやすい部分です。
精神医学の診断基準(DSM-5)では、
- Paraphilia(性的嗜好)
- Paraphilic Disorder(嗜好が苦痛や機能障害・他害を伴う場合)
を区別しています。
その中に Pedophilic Disorder(小児性愛障害) という診断名は存在します。
しかし重要なのは以下の点です。
- 性的関心そのものと犯罪行為は別概念
- 子どもへの性的関心があっても、必ずしも犯罪を行うわけではない
- 犯罪行為=自動的に精神疾患、ではない
診断は「本人の苦痛」や「行動化の有無」など複数の条件で判断されます。
4. 治療法はあるのか?
結論から言えば、再犯リスクを下げるための治療・介入は存在します。ただし「完全に治る」という単純な話ではありません。
① 心理療法
中心となるのは認知行動療法(CBT)や再発防止プログラムです。
- 認知の歪みの修正
- 衝動コントロール
- 孤立の改善
- ストレス対処法
- 被害者視点の理解
などが含まれます。
英国では、実際に加害していないが危険を感じている人向けの匿名相談窓口も存在しています。
② 薬物療法
症例によっては、
- 性欲を抑制する抗アンドロゲン療法
- GnRH類似薬
- 併存するうつ・強迫症への治療
などが検討されます。
ただし、
- 副作用
- 本人の同意
- 倫理的問題
などの論点が大きく、単独で万能解決となるものではありません。
5. 「金銭目的で被害者が加害者に迫った」ケースはあるのか?
この問いは非常に慎重に扱う必要があります。
■ 原則:子どもは搾取の対象になりやすい
児童性的搾取(CSE)の構図では、
- お金やプレゼントで囲い込む
- 依存関係を作る
- 脅迫する
といった手法が使われます。
一見「取引」に見えても、実際は力関係が不均衡であり、法的にも社会的にも責任は加害側にあります。
■ 現実に増えているのは「加害者による金銭脅迫」
近年深刻なのは、オンライン上で子どもを脅迫し、
- 性的画像を要求する
- 金銭を要求する
といった セクストーション(性的脅迫) です。
「被害者が金銭目的で迫る」という構図よりも、「加害者が金銭目的で子どもを脅す」ケースのほうが重大な問題として認識されています。
6. なぜ増加しているように見えるのか?
増加の背景には複数の要因が考えられます。
- オンライン環境の普及
- 通報・認知の向上
- 記録体制の強化
- デジタル証拠の追跡能力の向上
そのため、「実際の加害者が急増している」と単純に結論づけることはできません。
まとめ
- 2024年、英国(イングランド&ウェールズ)で記録された児童性的虐待関連犯罪は122,768件
- 登録性犯罪者は70,052人
- 被害経験の推計は人口の7〜10%規模
- 小児性愛は診断カテゴリとして存在するが、犯罪=病気ではない
- 再犯防止のための心理療法や薬物療法は存在する
- 金銭が絡むケースは多いが、基本構図は「加害者による搾取」である
児童への性的加害は、刑事司法の問題であると同時に、精神医療、福祉、教育、デジタル社会全体の課題でもあります。
単純なレッテルや誤解ではなく、統計と構造に基づいた理解が不可欠です。










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