
3G終了の波、加速するデジタル移行
2025年、イギリスでは3Gネットワークが正式に終了を迎えます。
これは単なる通信インフラの更新ではありません。英国の大手通信キャリア、例えばVodafone、EE、Threeなどが一斉にアナウンスし、4G、5Gといった次世代ネットワークへの完全移行を目指しているのです。理由はシンプルで、より高速で効率的な通信技術を普及させるため。古い3Gのインフラを維持するコストは高く、技術的にも限界が見え始めています。
この流れはイギリスだけでなく、世界中で起きています。アメリカでも2022年にAT&T、Verizon、T-Mobileが3Gサービスを停止しました。日本ではNTTドコモが2026年に終了を予定しており、世界各国が新しい通信時代に向けて一斉に舵を切っています。
しかし、こうした「未来志向」の動きの裏側で、静かに取り残されようとしている人たちがいます。とりわけ影響を受けるのが、今も3G対応の携帯電話を愛用している高齢者たちです。
高齢者と3G携帯の特別な関係
高齢者にとって、3G携帯電話は単なる「ツール」以上の存在です。
スマートフォンが普及する前、初めて手にした「自分だけの携帯」は、3Gが主流の時代のものでした。物理ボタンを押す感覚、シンプルなモノクロの画面、慣れ親しんだ操作体系——それらは、彼らの日常に自然に溶け込んでいきました。
さらに、スマホのタッチスクリーン操作や無数のアプリケーション、設定の複雑さは、高齢者にとっては時に「壁」となります。最新機種のインターフェースは、若い世代には直感的でも、高齢者には理解しづらいものです。
多くの高齢者にとって、携帯電話とは「通話」と「ショートメッセージ(SMS)」ができれば十分。写真を撮ったり、SNSを楽しんだり、動画をストリーミングする必要性を感じないのです。高機能よりも、確実で簡単な使い勝手を重視しているのです。
だからこそ、3Gの終了は彼らにとって単なる「通信規格の切り替え」ではありません。
それは、これまで築き上げてきた安心感を一方的に奪われる出来事でもあるのです。
3G終了がもたらすリスク
3Gサービスの停止は、日常生活に多くのリスクをもたらします。
まず、3G対応の古い端末では、通話やSMSすら不可能になります。緊急時に119番や999番に電話できなくなるのは、命にかかわる問題です。
特に地方部や、インターネット環境が整っていない地域に住む高齢者にとっては死活問題です。
都市部では代替手段(Wi-Fi、4G回線)が豊富でも、田舎では選択肢が限られているため、通信できない=孤立するリスクが高まります。
また、家族との連絡手段が絶たれ、孤独感や不安感が強まる懸念もあります。
孤独は高齢者の健康に深刻な影響を及ぼすことが知られています。例えば、ある研究では「社会的孤立」は高齢者の死亡リスクを最大26%高めるとされています。
技術の進化の裏で、私たちは無自覚のうちに高齢者を孤立させてしまっているのかもしれません。
そもそも、なぜ今「3G終了」なのか?
なぜ各国は急速に3Gサービスを終了しようとしているのでしょうか?
理由は大きく分けて三つあります。
- スペクトラムの再利用
通信に使う電波帯域(スペクトラム)は有限資源です。3Gに割り当てられていた帯域を4Gや5Gに振り向ければ、より多くのユーザーが高速・高品質な通信を利用できるようになります。 - 維持コストの削減
3Gネットワークは老朽化し、メンテナンスコストも上昇しています。同時に、利用者数は急減しているため、インフラを維持する経済的な合理性が低下しています。 - 技術革新の推進
5GはIoT(モノのインターネット)、自動運転、遠隔医療など次世代技術の基盤です。古いインフラに縛られるより、新しい技術にリソースを集中した方が社会全体の発展に寄与すると考えられています。
これらの理由に異論はないでしょう。しかし、それでもなお、影響を受ける人々への「配慮」が不可欠です。
世界各国の対応事例
イギリス以外の国々では、3G終了にあたりさまざまな工夫が行われています。
たとえば、アメリカのAT&Tは3G終了前に、影響を受けるユーザーに代替端末を無償配布しました。
また、ニュージーランドでは政府が通信事業者と連携し、3Gユーザー向けの無料講習会を各地で開催しました。
日本でも総務省が、高齢者や障害者を対象に「デジタル活用支援推進事業」を実施しています。スマートフォンの使い方講座や、安価な「らくらくホン」の普及促進などが行われています。
しかし、まだ十分とは言えません。特に地方部や高齢者施設、病院など「サポートが届きにくい場所」への取り組みは、今後さらに強化が求められます。
必要な支援とは何か?
では、具体的にどのような支援が必要なのでしょうか。
考えられる対策をいくつか挙げてみます。
- シンプルフォンの無料または格安提供
通話とSMSに特化した端末(物理ボタン式)を、希望者に無償または低価格で提供する。 - 出張サポートサービス
高齢者の自宅を訪問し、端末の設定や使い方を直接サポートするサービスの拡充。 - 地域コミュニティでの講習会
自治体・NPOが中心となり、スマートフォン初心者向けの無料講習会を定期開催する。 - わかりやすい広報活動
3G終了の影響や必要な対応を、テレビ、ラジオ、新聞など高齢者が普段接しているメディアで丁寧に告知する。 - 家族や近隣住民の協力促進
家族や近隣住民が高齢者の機種変更をサポートできるよう、ガイドラインやマニュアルを提供する。
これらを進めるには、行政と民間企業、地域社会が一体となった取り組みが不可欠です。
「技術は人を幸せにするためにある」という原点に立ち返ろう
技術革新は、人間社会をより豊かに、便利にしてきました。
しかし、その恩恵を受けられる人たちと、取り残される人たちの間に「格差」が生まれてしまうのも事実です。
今、私たちに問われているのは「どうすれば誰一人取り残さない社会を作れるか」ということです。
技術は単なる進歩だけでなく、「優しさ」を伴うものでなければなりません。
3G終了という節目に、私たちはもう一度立ち止まって考えるべきです。
誰かにとっての「当たり前」が、別の誰かにとっては「絶望」になり得ることを。
誰もが安心して、デジタル社会を生きられる未来のために。
今こそ、テクノロジーに「人間らしさ」を取り戻す時ではないでしょうか。
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