
海外にしばらく住むとなったとき、気になるのが「安全性」です。とりわけ、英語圏の中でよく比較されるのがイギリスとアメリカです。どちらも歴史的・文化的に魅力的な国ですが、安全性という視点から見ると、様々な違いがあります。
今回は、イギリスとアメリカに中長期的に住む場合、どちらが安全なのか? というテーマで、犯罪率、銃社会、医療制度、社会インフラ、政治的安定性、そして生活の質など多角的な視点から比較・検討していきます。
1. 犯罪率から見る安全性
● イギリスの犯罪傾向
イギリスでは、軽犯罪(盗難、車上荒らし、スリなど)は比較的多いものの、殺人や強盗などの凶悪犯罪はアメリカと比べるとかなり少ないのが特徴です。都市部(ロンドン、マンチェスター、バーミンガムなど)では治安が悪化している地域もありますが、郊外や地方都市では比較的安全に暮らせます。
また、イギリスでは警察官が基本的に銃を所持していないという点も、一般市民にとっての安心材料になっています。
● アメリカの犯罪傾向
アメリカでは州によって治安の差が激しいですが、全体的に暴力犯罪率が高く、銃による事件が頻発していることが大きな問題です。FBIの統計によると、アメリカでは年間2万人以上が銃によって命を落としており、これはイギリスの数十倍にも相当します。
また、都市部ではギャングによる抗争やドラッグ絡みの事件も多く、特に夜間外出は避けたほうがいいエリアも存在します。
2. 銃社会の影響
● アメリカのガンカルチャー
アメリカは世界でも最も銃が普及している国で、人口よりも銃の数が多いとされています。銃の所持は憲法で保障された「権利」として扱われており、家庭用から軍用に近い銃まで市民が合法的に所持できます。
その結果、無差別銃撃事件や家庭内での銃事故が後を絶たず、学校や公共施設でも緊張感があります。特に子どもがいる家庭では、この問題が大きな懸念材料となります。
● イギリスの銃規制
一方、イギリスでは銃の所持は非常に厳しく規制されており、一般市民が銃を持つことはほぼありません。そのため、銃による犯罪の発生率は極めて低く、銃声を聞くこと自体が稀です。
3. 医療制度と安心感
● イギリスのNHS(国民保健サービス)
イギリスではNHS(National Health Service)という公的医療制度があり、基本的な医療は無料で提供されます。外国人でもビザの種類によっては無料で受けられるケースが多く、急な病気やけがのときに安心です。
ただし、予約の取りづらさや待機時間の長さなどの課題はあります。
● アメリカの医療制度
アメリカの医療は高度で選択肢も豊富ですが、費用が非常に高額です。保険がなければちょっとした救急搬送でも数千ドル〜数万ドルの請求が来ることも。民間の健康保険も高額で、保険に入っていてもカバーされない治療も存在します。
旅行者や駐在員でも保険選びを誤ると、経済的リスクが非常に高く、安全とは言いがたい面があります。
4. 社会的安定性と人種・宗教の寛容性
● アメリカ:多様性と緊張のバランス
アメリカは世界中から移民を受け入れてきた多民族国家ですが、近年は政治的・社会的な分断が顕著で、人種差別や宗教的不寛容がトラブルの火種になることもあります。特にアジア系住民に対するヘイトクライムが増加しており、地域によっては注意が必要です。
● イギリス:保守的ながらも比較的寛容
イギリスも移民が多く、特にロンドンは国際色豊かな都市です。ただし、地方に行くと保守的な雰囲気が残っており、外国人に対して距離を置く文化も見られます。とはいえ、近年は差別や偏見に対する法整備も進み、トラブルがあっても対応しやすい環境になってきています。
5. 政治と社会の安定性
● アメリカの社会情勢
アメリカは大統領選のたびに社会が大きく揺れ動きます。トランプ政権以降、政治的分断は深まり、暴動や極端な政治活動も頻発しています。社会全体の不安定さが生活にも影を落とすケースがあります。
また、州によって法律や価値観が大きく異なるため、住む場所によって「安全」の定義も変わることがあります。
● イギリスの社会情勢
イギリスもブレグジット以降は経済的・政治的に混乱しましたが、現在は一定の安定を取り戻しつつあります。選挙やデモはあっても、暴力的な衝突に発展することは比較的少なく、秩序が保たれています。
6. 総合的な生活の安心感
● アメリカの利点と不安材料
アメリカは広大な国土、多様な文化、自由な風土など魅力は多いですが、安全面では不確定要素が多いと言えます。とくに銃社会と医療コストの問題は、外国人にとって大きなリスクです。
● イギリスの利点と課題
イギリスは銃規制、医療制度、社会秩序といった面で比較的安全で安心して暮らせる環境が整っています。一方で、生活費の高さや住宅問題(家賃の高騰、古い建物など)は課題です。
結論:安全性だけで選ぶなら「イギリス」が有利
中長期的に住むことを考えた場合、安全性という観点からはイギリスの方が明らかに有利だといえます。
比較項目 | イギリス | アメリカ |
---|---|---|
犯罪率 | 低め(特に凶悪犯罪) | 高め(銃犯罪が多い) |
銃社会 | 銃規制が厳しい | 銃所持が広く合法 |
医療制度 | 公的で無料 | 民間で高額 |
社会安定性 | 比較的安定 | 政治的分断が顕著 |
差別・ヘイト | 一部にあるが制度的に抑制 | 地域によってリスク大 |
もちろん、どちらの国にも魅力と課題はありますが、「命の安全」「健康の安心」という観点を最優先するなら、イギリスに軍配が上がるのは明らかです。
最後に:安全だけでなく「目的」によって選ぶ
とはいえ、「安全性」だけが移住先を決める基準ではありません。留学、ビジネス、文化体験、言語習得など、何を重視するかによっても最適な国は変わってきます。
それでも、初めて海外に住む人、家族連れ、医療に不安がある人などにとって、イギリスは「安心して暮らせる国」として非常に有力な選択肢だといえるでしょう。
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