
飲酒・天気・医療制度とどう向き合うか
イギリスでの暮らしは、異文化体験の宝庫です。独特のユーモアにあふれる会話、週末のパブ、ヨーロッパ旅行の気軽さ…。その一方で、日本から来た人にとって「心の健康」を揺さぶる要素も少なくありません。とりわけ「鬱(うつ病)」は、生活環境や文化的背景の影響を大きく受ける病気です。ここでは、イギリスにおける鬱の実態、飲酒との関係、治療の仕組み、そして英語が苦手でもGP(かかりつけ医)で伝えられるテンプレまでをまとめます。
飲酒と鬱の相関関係
イギリスの生活に欠かせない「パブ文化」。しかし飲酒は、鬱との関係で大きなリスクにもなり得ます。
- うつ病が原因で飲むケース
抑うつ感をまぎらわせるためにお酒に頼り、依存へ進んでしまう。 - 飲酒が原因で鬱になるケース
過度の飲酒は脳内のセロトニンを乱し、睡眠障害や抑うつ感を引き起こす。 - 両者の悪循環
「飲む → 気分が下がる → さらに飲む」というスパイラル。
研究では、アルコール依存症患者の30〜50%が鬱を同時に抱えていると報告されています。
天気とうつ病の関係
「イギリスは鬱が多いのは天気のせい?」とよく聞かれます。実際には 日照不足が一因です。
- 冬の日照は1日数時間。セロトニンが減少し気分が落ち込みやすい。
- 季節性情動障害(SAD)と呼ばれる冬季うつが存在し、光療法(ライトセラピー)が用いられる。
- 雨や曇りは外出を妨げ、運動不足や孤立感を招きやすい。
ただし、経済不安や社会的孤独といった要因も重なり、天気だけで説明できるものではありません。
イギリスでのうつ病治療の流れ
イギリスの医療制度は 段階的治療 が特徴です。
- GP(かかりつけ医)に相談
- 初診の窓口。診断と紹介を担当。
- 軽度〜中等度のうつ病
- 心理療法が第一選択。
- 認知行動療法(CBT)、カウンセリング、マインドフルネス。
- IAPT(心理療法アクセス改善プログラム) を自己申請できる。
- 中等度〜重度
- SSRIなどの抗うつ薬を処方。
- 心理療法と薬物療法の併用が一般的。
- 重度・難治性
- 精神科医による治療。
- ECT(電気けいれん療法)、rTMS、ケタミン治療など。
英語が苦手な人のためのGPテンプレ
「どう説明すればいいかわからない」と感じる方のために、実際に使えるフレーズを紹介します。
基本フレーズ
- I think I might be depressed.
(鬱かもしれません) - I feel sad most of the time.
(ほとんどいつも気分が沈んでいます) - I can’t sleep well.
(眠れません) - I have no energy or motivation.
(エネルギーややる気がありません) - I can’t enjoy things I used to like.
(以前好きだったことが楽しめません)
深刻な症状を伝えるとき
- I sometimes think life is not worth living.
(生きている意味がないと思うことがあります) - I have thoughts of hurting myself.
(自分を傷つけたいと思うことがあります)
👉 この2つは重要。もし言葉にしにくければ紙に書いてGPに見せるのもOKです。
サポートをお願いするとき
- My English is not good. Can I write it down?
(英語が得意ではありません。書いて伝えてもいいですか?) - Do you have an interpreter?
(通訳はいますか?)
実際にあった駐在妻のケース
ある日本人駐在妻は、イギリスに移り住んでから孤独感と不安に押しつぶされていきました。言葉が通じない、外はどんよりした天気ばかり、夫は仕事で多忙。やがて彼女は「外から見られている」と感じ、家の窓ガラス一面に新聞紙を貼り付けて閉じこもる生活に。
これは典型的な鬱による被害感と引きこもりのサインでした。幸い、彼女は勇気を出してGPに相談し、心理療法と薬を組み合わせた治療で少しずつ回復していきました。
まとめ
- イギリスは飲酒文化や天候の影響もあり、鬱を発症・悪化させやすい要素を持っている。
- NHSでは心理療法を重視し、段階的に治療を進める。
- 英語が苦手でも、シンプルなフレーズ・メモ・通訳を使えば十分に症状を伝えられる。
- 何より「一人で抱え込まず、勇気を出して相談すること」が回復の第一歩。
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