イギリスの「時効なき国」なのに犯罪者はのうのうと?法律と現実のギャップを探る

■ イギリスには「時効」がほぼ存在しない

日本では、かつて殺人でも「公訴時効」がありましたが、イギリス(特にイングランドとウェールズ)は違います。
重大犯罪(murder, rape, robbery などの indictable offences)に時効はありません。

つまり、40年前の殺人事件でも、DNA など新しい証拠が出てくれば即座に起訴可能。
唯一の例外は軽微な犯罪(summary offences)。こちらは 6か月以内に起訴しなければならないという制限があります。


■ 「数十年後に裁かれた」リアルなケース

この制度のおかげで、イギリスでは長年「のうのうと」生きていた犯罪者が突然逮捕されることがあります。

  • Stephen Lawrence 殺害事件(1993年 → 2012年有罪)
    ロンドンで人種差別的動機により青年が殺害された事件。
    当初は警察の不手際で容疑者は野放しに。しかしDNA技術の進歩で新証拠が見つかり、事件から 約19年後 に2人が有罪となりました。
  • John Humble(「Wearside Jack」事件、1979年 → 2005年逮捕)
    連続殺人事件「ヨークシャー・リッパー」の捜査を混乱させた偽のテープや手紙を送った男。
    26年間も正体不明のままでしたが、DNA鑑定により 約26年後 に逮捕。
  • Operation Yewtree(2010年代以降)
    BBC司会者 Jimmy Savile の死後、数十年前の性的虐待が次々と告発され、同僚芸能人らが 1970〜80年代の行為で 30年以上後に逮捕・有罪 となるケースも。

「昔のことだからもう許された」なんてイギリスでは通用しません。


■ それなのに検挙率は低い

最新データ(2024–2025年、イングランドとウェールズ)を見ると、

  • 性犯罪 → charge/summons(起訴・召喚)に至る割合 4.2%
  • 住宅侵入(空き巣) → 4.7%
  • 強盗 → 7.5%

と、かなり低い数字です。


■ なぜ低いのか?

  • 証拠主義が徹底されており、裁判で有罪にできるだけの証拠が揃わなければ起訴できない。
  • 防犯カメラ映像が不鮮明ならアウト、証人の証言が揺らげばアウト。
  • 警察官数の削減などリソース不足も影響。

要するに、**「時効はない」けれど「立件できる事件は少ない」**というのが現実です。


■ 犯罪者は「のうのうと」生きているのか?

確かに統計上は、多くの犯罪者が「捕まらないまま生活している」と言えます。
しかし、新証拠が出れば何十年後でも逮捕されるリスクがあるため、完全な安堵はありません。

言い換えれば、イギリスの犯罪者は
「逃げ切ったつもりでパブでビールを飲んでいても、過去の影がいつ襲ってくるか分からない」
そんな不安定な日常を生きているのです。


■ 結論:時効なき国のパラドックス

イギリスは「犯罪に甘くない国」であり、重大犯罪には一切の時効がありません。
しかし現実には、検挙率の低さから 多くの犯罪者が処罰を免れて暮らしている

つまりイギリスは、

  • 「法律上は逃げ切れない」
  • 「現実には多くが逃げ切っている」

――そんなパラドックスを抱えた、実に興味深い国なのです。

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