見かけない理由:意図的な「住みにくい街づくり」
イギリスで障がい者をあまり見かけないのは、この国が意図的に障がい者の住みにくい街づくりを続けてきたからです。
ロンドンの街を歩いていても、車いすの人など障がい者を見かける機会はほとんどありません。
その理由はすぐにわかります。
まず、歩道が平坦ではなく、段差が多いのです。さらに、歩道から車道へ出る際の縁石が高いままで、スロープになっていない場所が多く見られます。
通常であれば歩道から車道に降りる部分が低くなっていますが、ロンドンではそのような配慮がない場所が目立ちます。
特に富裕層が住むエリアでは、歩道の縁石が鋭く角張っており、車のタイヤをぶつけるとパンクするほどです。
このような環境で、車いす利用者が自由に移動できるはずがありません。
住宅事情:階段と段差だらけの住まい
ロンドンの住宅は、とにかく階段や段差が多く、ドアの幅も狭いのが一般的です。
お風呂が2階にある家も多く、車いす利用者には非常に不便です。
さらに深刻なのは、不動産会社に「家族に障がい者がいる」と伝えると、ほぼ確実に(約99%の確率で)やんわりと断られることです。
多くの大家は障がい者に家を貸したがらないのです。
その理由のひとつは、家主の多くが「障がい者が入居した場合、退去を求めるのが非常に難しい」と考えているからです。
結果として、障がい者が住める住宅はほとんど存在しません。
地下鉄も「壁」だらけ
ロンドンの地下鉄では、全駅のうちエレベーターやスロープが設置されているのはわずか3分の1程度。
つまり、障がい者は限られた駅からしか電車に乗ることができません。
世界有数の大都市であり観光都市でもあるロンドンが、なぜこれほどまでに環境整備を怠っているのか。
それについては、「意図的に障がい者が住みにくい街にしているのではないか」という噂もよく耳にします。都市伝説的ではありますが、あながち的外れとも言い切れません。
イギリス社会に根付く差別の構造
イギリスの富裕層が障がい者を好ましく思っていない、という話もあります。
その裏付けとして、障がい者手当が年々削減されていることが挙げられます。
さらに、地域によっては障がい者サポートスタッフの数も減少しており、サポート体制が崩壊しつつあるのが現状です。
このような実態はすでに世界的にも知られており、2012年のロンドン・パラリンピックでは、参加者や当事者から多くの批判が寄せられました。
教育現場にも残る壁
イギリスの学校で障がい者を受け入れているのは、全体のわずか4.8%にとどまります。
そのため、自分の子どもが障がいを持って生まれた場合、近隣の学校が受け入れ対象でないと、引っ越しを余儀なくされる家庭も少なくありません。
それにもかかわらず、政府は障がい者受け入れに関して特別な支援策を講じていません。
たとえば、ロンドン・ウエストアクトンにある全日制の日本人学校でも、障がい者の受け入れは行っていないのが現状です。
非常に残念な話です。
障がい者が住みやすいイギリスの都市
では、イギリスで障がい者はどこに住んでいるのでしょうか。
現実的に暮らしやすい都市をいくつか紹介します。
1. マンチェスター(Manchester)
✅ バリアフリー化が進み、新しい建物や公共交通が整備されている。
✅ 市内中心部のバス・トラム・鉄道も車いす対応。
💰 ロンドンより家賃が40〜50%安い。
🏥 医療・福祉のインフラも良く、障がい者支援団体も活発。
→ 都市生活を維持しながら現実的に暮らせる選択肢。
2. ブリストル(Bristol)
✅ 丘が多い街ながら、中心部は再開発でアクセスが改善。
✅ 環境意識・多様性を重視する都市で、障がい者配慮の政策も進む。
💰 家賃はロンドンの6〜7割程度。
🌿 落ち着いた雰囲気で、文化・教育・医療も充実。
3. バーミンガム(Birmingham)
✅ イギリス第二の都市でありながら住宅コストが低い。
✅ 公共施設のバリアフリー化が進行中。
✅ 鉄道でロンドンまで約1時間強。
→ 「ロンドンで働き、郊外に暮らす」現実的な選択肢。
4. カーディフ(Cardiff/ウェールズ)
✅ コンパクトで坂が少ない街。
✅ 住民がフレンドリーで、地域支援ネットワークが発達。
✅ 公共住宅制度が整い、バリアフリー物件も見つけやすい。
💰 生活コストが非常に低い。
5. スコットランドの都市(エディンバラ/グラスゴー)
🏥 スコットランド独自の福祉制度によりケアサービスが充実。
⚠️ エディンバラは坂が多く車いすには不向き。
グラスゴーは比較的平坦でアクセス改善が進んでいる。
ロンドン郊外での「限定的な」選択肢
それでもロンドン近郊に住みたい場合は、以下のような比較的バリアフリー対応が進むエリアもあります。
- Stratford(東ロンドン):オリンピック後の再開発地区で、バリアフリー対応が最も進む。
- Canary Wharf/Greenwich:新しい高層住宅が多く、車いす対応設計。
- Croydon:家賃が安めで、支援サービスも利用しやすい。
ただし、これらは「新しい開発エリア」や「郊外寄り」の地域であり、中心地(Westminster、Soho、Kensingtonなど)とはまったく別世界です。
まとめ
イギリスは「福祉先進国」というイメージを持たれがちですが、実際には障がい者にとって極めて住みにくい社会です。
特にロンドンは、意図的とも思えるほどに障がい者に厳しい環境が残っています。
それでも、地方都市や再開発エリアでは少しずつ前向きな変化が起きています。
今後、真の意味で「すべての人にやさしい社会」へと変わっていくことが求められています。










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