イギリスで進む少子化――「仕事を失う」「お金がなくなる」不安がもたらす影響

仕事と生活費への不安に直面するイギリスの若い夫婦と、労働力を支える移民労働者を対比したイラスト

そして、それでも移民受け入れを止められない理由

過去最低水準に近づく出生率

イギリスでは、少子化が「静かに、しかし確実に」進んでいる。
特に人口規模が大きく長期比較に用いられるイングランド・ウェールズの統計を見ると、その傾向は明確だ。

  • 合計特殊出生率(TFR)は
    • 2023年:1.44
    • 2024年:1.41
      と、統計開始以来の最低水準を更新した。
  • 出生数も1970年代後半以来の低水準にあり、2024年にわずかに増加したものの、構造的な回復とは言いがたい。

重要なのは、「赤ちゃんの数が少ない」だけでなく、一人の女性が生涯に産むと想定される子どもの数そのものが減っているという点である。これは単なる一時的な景気変動では説明しきれない。


「産みたくない」のではなく「産めない」不安

若い世代やミレニアル世代を中心に、子どもを持つことへの意識が完全に否定的になったわけではない。
むしろ多くの調査で示されているのは、

「いずれは子どもが欲しいが、今は無理」

という層の厚さである。

この「今は無理」を生み出している最大の要因が、生活不安だ。

  • 雇用の不安定化
    正規雇用でも将来の収入が見通せず、失職への恐怖が常につきまとう。
  • 住宅費の高騰
    特に都市部では家賃・住宅価格が高く、家族向け住居に踏み出せない。
  • 子育てコストの重さ
    教育費・保育費・生活費を含めると、子ども一人を成人まで育てる費用は非常に大きい。

こうした状況では、妊娠・出産は「希望」よりも「リスク」として認識されやすくなる。
その結果、出産のタイミングは後ろ倒しになり、最終的に「予定していた人数を持てない」ケースが増える。

少子化は価値観の変化だけでなく、経済的不確実性の蓄積によって加速していると言える。


少子化と同時に進む「労働力の空洞化」

出生率の低下は、数十年後に確実に影響を及ぼす。
それが労働力人口の縮小と高齢化だ。

医療、介護、物流、サービス業など、社会を支える基幹分野ではすでに人手不足が慢性化している。
特に医療・介護分野では、国内人材だけでは需要を満たしきれない状況が続いている。

この構造の中で、イギリスが移民受け入れを完全に止められない理由が浮かび上がる。


なぜ移民受け入れをやめられないのか

1. 即戦力としての労働力確保

移民として入国する人の多くは、就労年齢層であり、すぐに現場で働く。
医療・介護、IT、建設、物流などでは、移民労働者がいなければサービスが成り立たない地域も少なくない。

受け入れを急激に絞れば、公共サービスの質低下や、企業活動の停滞が現実の問題として表面化する。

2. 財政・年金制度の「時間稼ぎ」

働く世代が減り、高齢者が増えると、税収と社会保障のバランスは急速に悪化する。
移民はこのギャップを一時的に埋める役割を果たしている。

もちろん、移民が万能な解決策ではない。
教育、住宅、地域統合のコストも発生し、長期的には複雑な課題を抱える。
それでも「今すぐ止める」選択肢が現実的でないのは、労働力と財政の両面で依存が生まれているからだ。


移民だけでは少子化は解決しない

ここで見落としてはならないのは、移民は出生率低下の根本原因を解決しないという点である。

もし少子化の背景にあるのが、

  • 仕事を失う恐怖
  • 生活が立ち行かなくなる不安
  • 子育てが「自己責任」に押し付けられる構造

であるならば、必要なのは以下のような対策だ。

  • 安定した雇用と収入の見通し
  • 住宅政策と保育・教育支援の拡充
  • 出産・育児によるキャリア断絶を最小化する制度

移民政策は労働力不足への対症療法にはなり得るが、少子化という慢性疾患の治療薬にはならない


結論

イギリスの少子化は、「子どもを望まない社会」の結果ではない。
むしろ、

望んでも、将来が怖くて踏み出せない社会

の結果である。

その間をつなぐために移民は必要とされ続けるが、それだけでは不安の連鎖は断ち切れない。
出生率を回復させるためには、「産める気がする社会」を取り戻すことが不可欠だ。

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