ロンドン発 — 移民政策をめぐる議論が続くなか、「イギリスから移民がいなくなる可能性はあるのか」という問いが時折浮上している。ビザ制度の厳格化や生活費の高騰、政治的な反移民感情の高まりなどが背景にあるが、専門家の多くは「移民が完全にいなくなる可能性は極めて低い」と分析している。
移民政策の厳格化と政治的背景
EU離脱以降、イギリスは独自のポイント制移民制度を導入し、技能や年収水準を重視する仕組みに移行した。家族ビザや就労ビザの収入基準引き上げ、留学生の家族帯同制限など、制度は段階的に厳格化されている。
こうした政策変更の背景には、移民純増数の拡大に対する国内世論の懸念や住宅・医療・教育への負担増加の議論がある。一方で政府は、医療従事者やIT技術者、建設業など人手不足分野への人材受け入れは引き続き必要との立場を取っている。
経済的要因:生活費高騰と実質所得の停滞
近年、イギリスではインフレが進行し、エネルギー価格や家賃、食料品価格が上昇している。しかし、賃金の伸びが物価上昇に追いつかない局面もあり、実質所得が圧迫される状況が続いてきた。
この環境は移民だけでなく国内労働者にも影響を与えている。特に低賃金層では生活コスト負担が大きく、より賃金水準の高い国への再移動(オーストラリアやカナダなど)を検討するケースも見られる。
ただし、経済的困難があるからといって「移民がゼロになる」わけではない。むしろ、世界的に労働力移動は続いており、イギリスは依然として金融、教育、研究、クリエイティブ産業などで国際的な魅力を保っている。
労働市場の現実:移民依存の構造
医療を担うNational Health Service(NHS)では、多くの医師や看護師が海外出身者だ。さらに建設業、農業、介護、外食産業、高等教育機関などでも移民労働力への依存度は高い。
もし移民が急激に減少すれば、労働力不足が深刻化し、経済成長や公共サービスの維持が困難になる可能性がある。そのため、政策的にも「完全排除」は現実的ではないとの見方が強い。
人口動態と長期的視点
イギリスは少子高齢化の影響を受けつつあり、出生率は人口維持に必要な水準を下回っている。移民は労働市場だけでなく、人口構造のバランス維持にも一定の役割を果たしている。
長期的に移民がゼロになる場合、労働人口の減少と税収縮小が進み、社会保障制度への負担が増す可能性がある。このため、多くの経済学者は「管理された移民」は不可欠だと指摘している。
結論:移民が“いなくなる”可能性は極めて低い
政治的に移民抑制を掲げる動きはあっても、経済構造や人口動態を踏まえると、イギリスから移民が完全にいなくなる可能性は極めて低い。
むしろ今後の焦点は、「人数」よりも「どの分野に、どのような条件で受け入れるのか」という質的管理に移っていくとみられる。移民問題は単純な是非ではなく、経済、社会保障、文化、国際競争力など複数の要素が絡み合う長期的な課題だ。










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