イギリスの酸性雨で髪が薄くなる？傘をささない英国人の都市伝説を科学的に検証

ロンドンの街で傘を差さずに小雨の中を歩く男性のデジタルイラスト。背景にはビッグベンと赤い二階建てバスがあり、雨粒の中にはH₂OやH₂SO₄の化学式が描かれている。酸性雨と薄毛の関係を科学的に検証するテーマを象徴している。

イギリスといえば「雨の国」というイメージが強く、ロンドンをはじめどの都市でも年間を通して雨の日が多いことで知られています。そんな中、「イギリスの雨は酸性が強く、傘をあまりささないイギリス人は髪が薄い人が多い」という説がネット上で話題になることがあります。果たしてこの説は科学的に根拠があるのでしょうか？本記事では、酸性雨の化学的特性・イギリスの気象環境・頭皮と毛髪への影響をデータと論文に基づいて検証します。

1. イギリスの雨は本当に「酸性が強い」のか？

「酸性雨（acid rain）」とは、pH5.6以下の降水を指し、主に二酸化硫黄（SO₂）や窒素酸化物（NOₓ）が大気中で酸化して硫酸・硝酸として雨に溶け込むことで発生します。工業地帯や大気汚染の多い地域では特に酸性度が高くなります。

かつて1970〜80年代、イギリスや東欧では産業排出による酸性雨が深刻な環境問題でした。しかし、EU環境指令や石炭火力の削減によって、現在のイギリスの雨は平均pH5.2〜5.5程度まで改善しています。これは日本（pH4.8〜5.6）やアメリカ北東部（pH4.3〜5.0）と比べてもむしろ酸性が弱めの部類です。（出典：UK Centre for Ecology & Hydrology, 2023）

よって、現代のイギリスで「酸性が強い雨が頭皮を傷める」という説は、データ的には誤りであることがわかります。

2. イギリス人はなぜ傘をささないのか？

ロンドンやマンチェスターでは、雨が多いにも関わらず街中で傘を差す人が少ないことに驚く日本人も多いでしょう。これは気象・文化・利便性の複合的要因によるものです。

雨が「細かく短時間」だから：イギリスの雨は霧雨（drizzle）が多く、傘を差してもほとんど意味がない。
風が強い：特にロンドンではビル風で傘が壊れやすいため、フード付きコートが主流。
文化的な理由：「少しの雨では傘をささない＝気にしないのが英国的マナー」とされることも。

つまり、「傘を差さない＝酸性雨を浴びている」ではなく、そもそも降水量が少なく、酸性度も強くない雨に慣れているというのが実情です。

3. 酸性雨は髪や頭皮に影響を与えるのか？科学的視点から

ここからは科学的に「酸性雨」と「薄毛（脱毛）」の関係を見ていきましょう。

3-1. 髪の毛のpHバランス

健康な髪の表面（キューティクル）はpH4.5〜5.5の弱酸性で安定しています。つまり、雨のpHが5前後であれば、髪や頭皮に対して化学的損傷を与える可能性は極めて低いとされています。実際、美容業界では酸性トリートメント（pH4〜5）が髪の補修に使われることもあります。

3-2. 酸性雨と脱毛の関係

一部の動物実験では、極端に酸性度の高いpH3以下の水に長期間晒すと、毛包（hair follicle）の炎症が見られるという報告があります。しかし、イギリスの降水はpH5前後であり、これを日常的に浴びても毛根細胞を損傷するレベルには至りません。よって、「酸性雨で髪が抜ける」は科学的根拠がないと言えます。