エアコンのない国・イギリス、暑さにどう立ち向かう?――温暖化とともに変わる「涼の文化」

「ロンドンにエアコン?必要ないでしょう」――かつてそんな言葉が当たり前のように語られていました。年間を通じて比較的涼しい気候に恵まれ、夏も20度台で済んでいたイギリスでは、冷房設備はほとんど必要とされてこなかったのです。

しかし、時代は確実に変わっています。

気温上昇のリアル:ロンドンで40℃超え

近年の地球温暖化の影響で、イギリスの夏は明らかに変貌を遂げています。とりわけ大きな転機となったのが、2022年7月の熱波です。この年、ロンドンの気温は観測史上初めて40℃を超え(最高気温40.3℃)、国内の鉄道が一部運休、滑走路が溶けるなど社会インフラにも深刻な影響を及ぼしました。

イギリス気象庁(Met Office)の発表によれば、1900年から2020年の間に国内の平均気温はすでに約1.2℃上昇しており、今後の気候モデルでは熱波の頻度・強度ともに増加する見通しです。

つまり、「年に数日だけの暑さ」が、「毎年繰り返される異常気象」へと姿を変えつつあるのです。

それでも広まらないエアコン、その理由は?

それでもイギリスでは、今なおエアコンの普及率は極めて低く、家庭では5%未満。都市部の高級住宅や最新オフィスビルなど一部に限られています。その背景には以下のような理由があります。

  • 伝統的な建築構造:レンガ造りや石造りの家が多く、断熱性は高くても冷房設置には向かない構造が多い。
  • 電気代の高騰と環境意識:イギリスではエネルギーコストが高く、冷房にかかる電気代も軽視できません。また、環境意識が高く、エアコンの使用は「不必要なエネルギー消費」として敬遠される傾向があります。
  • 歴史的慣習と文化:そもそも「夏は暑いもの」「暑さは我慢できる」という文化的背景が根強く、暑さへの対応は家庭内での工夫に委ねられる傾向があります。

イギリス流「涼」の工夫

こうした背景のなかで、イギリス人はどのようにして猛暑を乗り切っているのでしょうか。現地で見られるユニークな工夫をいくつか紹介します。

  • カーテンを閉めて日差しを遮る:日中の太陽光を遮断するため、分厚いカーテンや遮熱ブラインドを活用。夜になってから窓を開け、冷気を取り込みます。
  • 氷や水を使ったアナログ冷却:凍らせたペットボトルを扇風機の前に置いて冷風を作る、濡れタオルを首に巻くなどの昔ながらの方法も健在です。
  • 地下室や公園で過ごす:比較的涼しい地下階や、緑に囲まれた公園で時間を過ごすことで体感温度を下げる工夫も。
  • 夜型生活へのシフト:日中の外出を控え、夕方以降に行動するなど、ライフスタイル自体を暑さに合わせて調整する家庭も増えています。

気候変動と社会の変化

とはいえ、誰もが暑さに耐えられるわけではありません。高齢者や乳幼児、小さな子どもを持つ家庭では暑さが命に関わる問題になることもあります。実際、イギリスの医療機関は、2022年の熱波の際に数千人規模の超過死亡があったと報告しています。

こうした状況を受け、政府は徐々に「クーリングセンター(Cooling Centre)」の設置や、住宅の断熱だけでなく冷却対策を含む建築基準の見直しを進めつつあります。また、都市設計の面でも、緑化や日陰の整備といった「気候に強い都市づくり」への意識が高まっています。

エアコンに頼らない未来は可能か?

イギリスの事例は、エアコンに頼らず、生活の工夫と社会的支援で暑さをしのぐことの可能性と限界を同時に示しています。

私たち日本でも、気温の上昇は年々顕著になってきており、今後は冷房だけに頼らない都市設計や建築、ライフスタイルの転換が求められるかもしれません。

イギリス人の「我慢と工夫」の文化から学べることは意外と多いのです。

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