【ロンドン発】 米国がついにイスラエルとイランの武力衝突に正式介入したことで、中東の緊張は一気に世界規模へと拡大しつつある。英国内でも、この事態を受けて政府の立ち位置に注目が集まっており、キア・スターマー首相率いる新政権が抱える外交的ジレンマはかつてないほど深刻だ。英国はこのまま「中立」を維持できるのか、それとも国際秩序の一角として戦争に巻き込まれていくのか──。 米軍の直接介入で戦局は新たな段階へ イランとイスラエルの間で続いていた報復の応酬に対し、バイデン政権はついに明確な姿勢を示した。米軍は空母打撃群をペルシャ湾に展開し、同盟国であるイスラエルの防衛を名目に、イラン拠点への限定的空爆を開始したと報じられている。 この米国の動きに対し、NATO諸国にも対応を求める声が高まりつつあるが、英国政府は依然として慎重姿勢を崩していない。スターマー首相は21日の記者会見で「われわれは事態の拡大を望んでおらず、外交的手段が最優先されるべきだ」と語り、英国として軍事介入の意思は現時点ではないことを示唆した。 中立姿勢に潜む地理的・戦略的リスク しかしながら、英国が戦争に巻き込まれるリスクは日に日に高まっている。地理的にイランに近い欧州において、米国よりも物理的距離の短い英国は、報復攻撃やテロの標的になる可能性が高い。特に、英領キプロスのアクロティリ空軍基地など、中東作戦における拠点はすでに警戒レベルを引き上げているとされる。 また、英国本土においても、空港や発電施設、通信インフラなどがサイバー攻撃やドローン攻撃の対象になるリスクは現実味を帯びてきている。これにより、市民生活や経済活動への間接的な影響も懸念されており、「中立」でいること自体が安全保障上のリスクを孕む状況に変化しつつある。 ロシアの影、第三次世界大戦の危機 さらに複雑なのが、イランと友好関係にあるロシアの存在だ。すでにウクライナ戦争でNATOと敵対関係にあるロシアが、イラン支援を口実に軍事的・技術的な支援を強化した場合、戦争は中東の枠を超えて世界大戦へと発展する危険性がある。 一部の外交筋によれば、ロシアはイランへの地対空ミサイルや監視衛星情報の提供を強化しており、既に中東戦域で西側諸国との「間接衝突」が始まっているとの見方もある。英国がこの構図においてどのような立ち位置を取るかは、今後の戦局の行方を大きく左右する要因となりうる。 歴史の教訓と、試されるスターマー政権の指導力 英国は過去二度にわたり、世界戦争への「遅れた参戦」を経験してきた。いずれのケースでも、初期には中立や調停の立場を模索しながら、最終的には世界秩序の一翼として武力行使に踏み切った歴史がある。今回の状況もまた、類似の構図を帯びており、スターマー政権の判断には歴史的重みが問われている。 スターマー首相は国内政策で「変化と安定の両立」を掲げ、医療・経済・移民といった課題に注力してきたが、突如訪れた国際危機はその内政路線にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。経済制裁や原油価格の高騰、治安リスクなど、戦争の波紋はすでに英国社会にもじわじわと浸透し始めている。 今後の焦点は 今後の焦点は、NATO内での調整、米国からの圧力、そしてロシアの動向という三点に集約される。スターマー政権が国際社会の期待と国内の平和をどう両立させるかが問われる場面となるだろう。 「最後の一線」を越えるその時、英国は何を守り、何を選ぶのか──。その判断は、国の未来を左右するだけでなく、世界の命運すら握っているのかもしれない。
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イギリス中年の夜は静かに燃える――“キャバクラ不在の国”で、人はどう癒されるのか?
日本に根付いた夜の娯楽の象徴といえば、キャバクラやホストクラブがその代表格だろう。ストレス社会の中、癒しや承認を“プロの会話”によって得られる空間。お金を払ってもいい、少しの間だけでも自分を肯定してくれる誰かがいる――それが安心感につながる。だが、海を越えてイギリスを訪れると、そうした店はほとんど見かけない。ではイギリスの中年たちは、どこで、誰と、どうやって心のバランスを保っているのだろうか。 これはただの文化の違いに留まらない、“人生観”の違いである。 ■ パブ文化の核心:「誰かにちやほやされる」ではなく、「誰かと地続きである」こと イギリス人にとってのパブとは、ビールを飲みに行く場所であると同時に、社会の最小単位の“共有空間”でもある。中年男性たちは職場帰りにふらっと立ち寄り、バーカウンターに陣取って店主と世間話を交わす。そこで飛び交うのは、政治の話、サッカーの話、今日の天気の話。極めて日常的で、極めて他愛ない。 重要なのは、そこに「パフォーマンス」がないことだ。日本の夜の接待文化にあるような“お客様を立てる”構造は、イギリスのパブには存在しない。むしろ、等身大の自分でいることが許される。それはつまり、“ひとりの大人として認められている”感覚につながる。 この対等な距離感は、イギリス社会全体に根差している価値観でもある。 ■ 「癒される」ではなく「緩まる」空間 イギリス人の多くにとって、人生とは“頑張りすぎないこと”の連続でもある。仕事も大切だが、それ以上に「今日は早く家に帰って家族とチーズをつまみにワインを飲む」ことが自然なご褒美だ。中年女性たちは仲の良い友人と「Girls’ Night Out」と称して定期的に外食に出かけ、週末には郊外のB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)に泊まってスパを楽しむ。 日本的な「夜に発散する」娯楽というよりも、彼らは「日常の延長にある小さな満足感」を繰り返すことで、自分のメンタルを整えている。 イギリスの娯楽は“高揚”よりも“緩和”に近い。 ■ 承認を求める構造が希薄な社会 キャバクラやホストクラブが繁盛する社会背景には、「自分を認めてほしい」という感情がある。組織の中で、家庭の中で、“自分”という存在が見えにくくなったとき、人は他者に承認を求める。イギリスでも人間関係の悩みはもちろん存在するが、それを「誰かに癒してもらう」形で処理することは少ない。 なぜなら、イギリスでは他人に依存することにある種の“恥”が伴うからだ。プライベートを守ることは美徳であり、感情の開示には慎重だ。もちろん親しい間柄では愚痴も涙もあるが、それは限られた場所でのこと。つまり、イギリス人の多くは「自分の機嫌は自分で取る」ことを前提としている。 そうなると、娯楽の方向性も自然と“誰かに癒してもらう”ではなく、“自分で楽しむ”方向に向かっていくのだ。 ■ それでも“秘密クラブ”は存在する とはいえ、ロンドンのような大都市には、表には見えない“夜の社交場”も存在する。いわゆる“メンバーズ・クラブ”と呼ばれる会員制のバーや、文学サロン、ジャズクラブ、さらにはちょっと背徳的なスウィンガーズ・クラブまで、多様な場が存在するのは確かだ。 しかし、これらは一般的な中年層が日常的に通う場ではない。どちらかといえば、「特別な夜に非日常を味わいたい」という好奇心がくすぐられる空間であり、日々の疲れを癒すための“ルーティン”ではない。 ■ イギリス中年の幸福論:静けさ、ユーモア、そして距離感 イギリス中年層の娯楽観の核心は、結局のところ「静かな幸せ」にある。庭いじり、DIY、ペットとの時間、読書、そしてパブでのささやかな乾杯。それらは、誰かに見せるためのものではなく、自分の人生を自分で味わうための行為だ。 そして、そんな日常を彩るものがもう一つある。ユーモアだ。イギリス人はとにかく自虐的に笑うことが好きだ。人生の辛さや退屈さすら、軽妙な一言で笑いに変えてしまう。それが彼らの“人生の処し方”なのかもしれない。 ■ 最後に:キャバクラがなくても、満たされる夜がある 「キャバクラもホストクラブもないなんて、つまらない夜じゃないの?」と感じる人もいるかもしれない。でも、イギリスの夜はつまらなくなんかない。ただ、そこには“わかりやすい刺激”がないだけなのだ。 誰かに褒められなくても、誰かに見られなくても、人はじゅうぶんに楽しく生きられる。それを静かに体現しているのが、イギリスの中年たちなのだ。
幻の一枚:もっとも入手が難しい英国人アーティストのコンサートチケットとは?
コンサートチケットの争奪戦。それは今や、現代人のクリック力と運の強さが試される“戦場”だ。人気アーティストのチケットは、発売開始と同時にオンライン上から一瞬で姿を消し、SNSでは「買えなかった」「何千人待ちだった」といった悲鳴が飛び交う。 中でも、イギリス出身のアーティストたちは、世界規模でファンを抱える存在が多く、彼らのチケットは“幻”とすら言われている。 では、「もっとも入手が難しい」英国人アーティストとは一体誰なのだろうか? ■ アデル(Adele)— 感情を揺さぶる“沈黙の女王” 圧倒的な歌唱力と感情表現で知られるアデルは、まさにチケット争奪戦の“ラスボス”的存在。彼女のライブは単なる音楽イベントではなく、観客の心を震わせる“体験”そのものと化している。 ● ラスベガスの奇跡と、ロンドンの絶望 2022年にラスベガスでスタートしたレジデンシー公演「Weekends With Adele」は、約4,000席の小規模劇場で週末のみ開催。ファンにとっては、彼女を至近距離で観られる千載一遇のチャンスだったが、発表からわずか数分で完売。 ロンドンでのライブも例外ではない。2022年のハイド・パーク公演では、約50万人以上がアクセスし、用意された席(約6万人分)は瞬殺。その裏でチケット販売サイトはダウンし、SNSでは「ログインすらできなかった」との声も多かった。 ● リセール市場の“異常値” 公式価格は£90〜£580(約1万7千〜11万円)と高めではあるが、チケット転売サイトでは**£5,000(約100万円)超え**も当たり前。需要と供給のバランスが大きく崩れている。 ● なぜこんなにも希少なのか? アデルは極端にツアーを控えるアーティスト。最新アルバムを出しても、ツアーは数年に一度、数公演のみ。**“待たされるからこそ、価値が跳ね上がる”**のだ。 ■ ハリー・スタイルズ(Harry Styles)— ジェンダーを超えたポップアイコン 元ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズは、ソロアーティストとしても爆発的な成功を収め、今やミレニアルからZ世代を繋ぐファッションアイコン兼音楽スターとして君臨している。 ● スタジアムでも足りない熱狂 2023年の「Love On Tour」では、ロンドンのウェンブリー・スタジアム2日間公演(各日9万人収容)が即日完売。日本のファンの間でも、時差を乗り越えた“深夜のチケット合戦”が話題となった。 ● チケット価格とその跳ね上がり 定価は£50〜£150(約1〜3万円)と比較的リーズナブルだが、リセール価格では**£800〜£1,500(約16万〜30万円)という驚異の跳ね上がりを見せる。これは、“誰もが観に行きたい”普遍的な魅力**の証だ。 ● 幅広すぎるファン層 彼のファン層は10代から40代以上まで、世代も性別も国籍も超える。そのため、チケットは常に供給不足。発売日には全世界のファンが一斉にオンラインに殺到するのだから、勝てるわけがない……というのが本音だ。 ■ その他の強豪たち:入手困難な“英国の顔” イギリスは世界的スターを次々と輩出してきた“音楽の都”。アデルやハリー以外にも、手に入れるのが至難の業なアーティストは多数存在する。 ● エド・シーラン(Ed Sheeran) コンスタントにツアーを行っているため、比較的チャンスは多いが、それでも初日即完売は日常茶飯事。特にヨーロッパ公演では、**転売価格が£300〜£800(約6〜16万円)**になることも。 ● デュア・リパ(Dua Lipa) ポップ界の新女王。ビジュアルとパフォーマンスの両面で世界的に人気が高まっており、ツアーも大都市では即完売。特に北米やアジア地域では、チケット供給数そのものが限られるため、倍率は数十倍に達することもある。 ● エルトン・ジョン(Elton John) 「Farewell Yellow Brick Road」ツアーは、**“最後の旅”**としてファンにとっては見逃せない一大イベント。チケットはオークション状態となり、最高価格は£2,000以上にも。 ■ 結論:チケットは“買う”ものではなく“奇跡的に手に入る”もの …
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【現地レポート】イギリス・ロンドンで急増中の「スマホスリ」に注意!
〜観光中にスマートフォンを奪われる被害が多発。安全な旅を守るために知っておくべきこと〜 ロンドンといえば、ビッグ・ベンやバッキンガム宮殿、タワーブリッジなど、美しい街並みや歴史ある建物が点在する、世界でも有数の観光都市です。しかし、その華やかな表情の裏側で、今ある犯罪が急増していることをご存知でしょうか? それは、スマートフォンを狙ったスリ被害です。特に旅行者が油断しやすい「スマホを手にしている瞬間」を狙い、あっという間に持ち去るという大胆かつ巧妙な手口が目立っています。 ■ 急増する「スマホスリ」とは? 被害に遭った旅行者の多くが口を揃えて言うのは、「まさか自分がロンドンでスリに遭うなんて思ってもみなかった」という言葉。従来の「ポケットから財布を抜き取る」タイプのスリとは異なり、最近目立っているのは、**スマートフォンを強奪する“新型スリ”**です。 犯人たちは電動スクーターや電動自転車を使い、スマホを手にしている人に音もなく背後から近づき、すれ違いざまにスマホをひったくるというスピード犯行を行います。そのまま車道へ逃走していくため、追いかけることはほぼ不可能。犯行時間はわずか数秒。撮影中、マップ確認中、メッセージを打っているときなど、油断しているスキを狙ってくるのです。 実際に起こった事例(一例): ■ なぜスマートフォンが狙われるのか? スマホは個人情報の塊であり、中古市場での価値も高いため、窃盗グループにとっては非常に魅力的なターゲットです。特に最新のiPhoneやGalaxyシリーズなど、高価な機種はすぐに転売されたり、パーツだけ取り出して不正に利用されたりします。 また、観光客の多くはスマホを頼りに地図を見たり、翻訳アプリを使ったりと、常にスマホを手にしている時間が長くなります。加えて、旅行中は気持ちが浮き立ち、周囲への注意力が下がっているため、犯罪グループにとっては「非常に狙いやすい存在」になってしまうのです。 ■ スマホスリから身を守るためのポイント では、こうした被害から自分を守るためには、どのような対策が必要なのでしょうか? 以下に具体的なアドバイスをまとめました。 1. スマホ操作は立ち止まって、安全な場所で 地図を見るときや検索をする際は、歩きながらではなく、できれば建物の壁や柱に背を向けて立ち止まるようにしましょう。背後が守られていれば、不意の接近に気づきやすくなります。 2. 人通りの多い交差点や観光地では警戒レベルを上げる 観光地周辺やショッピング街、駅前など、人が多い場所ほど犯人も紛れ込みやすいです。スマホを手にする際は周囲を一度見渡すクセを。 3. スマホはなるべく片手ではなく両手でしっかり持つ 片手でふわっと持っていると、奪いやすいと見なされます。写真撮影もスマホのストラップを使う、首かけホルダーを利用するなどの工夫をすると安心です。 4. 高価なスマホは派手なケースを避ける 最新機種や高価なスマホほど狙われやすいため、目立たないケースやシンプルなデザインのカバーに変えるだけでも標的になりにくくなります。 5. 盗難に備えて設定を見直す 「iPhoneを探す」「Googleデバイスを探す」などの追跡機能は必ずオンにしておきましょう。また、顔認証・指紋認証・PINコードの設定も必須。旅行前にバックアップを取っておくことも忘れずに。 ■ まとめ:安全で楽しい旅のために どんなに楽しい旅行でも、貴重品を盗まれるだけで気持ちは一気に沈んでしまいます。ロンドンはとても魅力的な都市ですが、観光客を狙う巧妙な犯罪があるという現実も知っておくことが大切です。 「まさか自分が」ではなく、「自分も狙われるかもしれない」という視点を持つことが、被害を未然に防ぐ第一歩になります。 ロンドンを訪れる際は、ぜひこの記事を思い出して、スマホを握るその手に少しだけ意識を加えてください。あなたの大切な思い出が、最後まで楽しいものでありますように。
【イギリスでも夏バテ!?】英国流・夏の暑さを乗り切るための食事と生活の知恵とは?
こんにちは。今回は、あまり知られていない「イギリスの夏バテ事情」と、それに対するユニークな対策や食文化をご紹介します。日本のような高温多湿とは違うとはいえ、近年の異常気象によってイギリスの夏も徐々に厳しくなってきました。 「エアコンのない生活で本当に大丈夫?」「イギリス人はどうやって暑さを乗り切っているの?」そんな疑問にお答えする、イギリス流“夏の快適生活術”をお届けします! イギリスでも「夏バテ」ってあるの? まず、「夏バテ」という言葉自体は英語圏には存在しません。ただし、同じような症状──だるさ、食欲不振、睡眠の質の低下──はやはり発生しています。特にイギリスは一般家庭に冷房がほとんどなく、30℃近い日が続くと多くの人が「疲れやすくなる」「夜眠れない」と感じるようになります。 日本ほどの湿度はないものの、日照時間が長く、屋内に熱がこもりがちなのがイギリスの夏の特徴です。 ブリティッシュ流・夏バテにならない生活術 1. 水分補給はハーブティーやフレーバーウォーターで爽やかに イギリスといえば「ティー文化」。暑い日でもホットティーを飲む習慣は根強いですが、近年では以下のような“夏向け”ドリンクが人気です。 「冷たすぎる飲み物は胃腸を冷やす」という考え方もあり、適度な温度の飲み物でこまめに水分補給するのがポイント。 2. サマー・シエスタ? 午後の休息で無理をしない イギリスでは暑い時間帯を避けるように行動するのが一般的です。日差しの強い午後は無理に外出せず、朝か夕方に活動する「ナチュラルなタイムスケジュール」で体調を整えます。 とくにテレワークが浸透した今、自宅でのんびり過ごす「サマー・シエスタ(昼寝や軽い休憩)」を取り入れる人も増えてきました。 3. エアコンがなくても涼しく過ごす工夫 イギリスの住宅の多くには冷房設備がありません。ではどうやって暑さをしのぐのでしょうか?よく使われる対策は次のとおりです。 日本の「冷やす」文化に対し、イギリスでは「熱を入れない・こもらせない」アプローチが主流です。 英国人おすすめ!夏バテ対策の食事とドリンク 暑い夏には、体に負担をかけない“軽めで栄養のある食事”が大切です。イギリスでは次のような食べ物・飲み物が定番になりつつあります。 1. コールドスープ(ガスパチョ、きゅうりの冷製スープ) スペイン発の冷たいスープ「ガスパチョ」は、イギリスのスーパーでも手に入る人気の夏メニュー。トマト、きゅうり、ピーマンなど野菜たっぷりで、火を使わないので準備も簡単です。 2. ベリー×ヨーグルトの朝食ボウル イギリス産のストロベリーやラズベリーは夏が旬。これらをギリシャヨーグルトと合わせて朝食にするのが定番です。ビタミンC・食物繊維・乳酸菌のトリプル効果で、夏の胃腸ケアにもぴったり! 3. レモネード&エルダーフラワーコーディアル 自家製レモネードや、エルダーフラワーをシロップにした「コーディアル」を炭酸水で割って飲むのが人気。さわやかで香り高く、体にやさしい甘さが特徴です。 4. サマースロー(野菜の冷製マリネ) きゅうり、ズッキーニ、キャロットなどをビネガーで和えた「スロー(slaw)」は、食欲がない日でも食べやすい一品。お肉や魚と合わせれば、バランスの良い夏プレートが完成します。 まとめ:イギリス流“無理しない”が夏バテを防ぐコツ イギリスの夏バテ対策は「頑張らないこと」が基本。涼をとるために工夫はするけれど、無理に活動せず、暑い時は休む。これがブリティッシュスタイルの暑さとの付き合い方です。 日本のように冷たい麺類やエアコンに頼らずとも、体にやさしい飲み物や涼感を感じられる食事、そして余裕のある時間の使い方で、夏を健やかに乗り切ることができるのです。 あなたも今年の夏は、イギリス流の「自然体で過ごす」ライフスタイルを取り入れてみてはいかがでしょうか?
エアコンのない国・イギリス、暑さにどう立ち向かう?――温暖化とともに変わる「涼の文化」
「ロンドンにエアコン?必要ないでしょう」――かつてそんな言葉が当たり前のように語られていました。年間を通じて比較的涼しい気候に恵まれ、夏も20度台で済んでいたイギリスでは、冷房設備はほとんど必要とされてこなかったのです。 しかし、時代は確実に変わっています。 気温上昇のリアル:ロンドンで40℃超え 近年の地球温暖化の影響で、イギリスの夏は明らかに変貌を遂げています。とりわけ大きな転機となったのが、2022年7月の熱波です。この年、ロンドンの気温は観測史上初めて40℃を超え(最高気温40.3℃)、国内の鉄道が一部運休、滑走路が溶けるなど社会インフラにも深刻な影響を及ぼしました。 イギリス気象庁(Met Office)の発表によれば、1900年から2020年の間に国内の平均気温はすでに約1.2℃上昇しており、今後の気候モデルでは熱波の頻度・強度ともに増加する見通しです。 つまり、「年に数日だけの暑さ」が、「毎年繰り返される異常気象」へと姿を変えつつあるのです。 それでも広まらないエアコン、その理由は? それでもイギリスでは、今なおエアコンの普及率は極めて低く、家庭では5%未満。都市部の高級住宅や最新オフィスビルなど一部に限られています。その背景には以下のような理由があります。 イギリス流「涼」の工夫 こうした背景のなかで、イギリス人はどのようにして猛暑を乗り切っているのでしょうか。現地で見られるユニークな工夫をいくつか紹介します。 気候変動と社会の変化 とはいえ、誰もが暑さに耐えられるわけではありません。高齢者や乳幼児、小さな子どもを持つ家庭では暑さが命に関わる問題になることもあります。実際、イギリスの医療機関は、2022年の熱波の際に数千人規模の超過死亡があったと報告しています。 こうした状況を受け、政府は徐々に「クーリングセンター(Cooling Centre)」の設置や、住宅の断熱だけでなく冷却対策を含む建築基準の見直しを進めつつあります。また、都市設計の面でも、緑化や日陰の整備といった「気候に強い都市づくり」への意識が高まっています。 エアコンに頼らない未来は可能か? イギリスの事例は、エアコンに頼らず、生活の工夫と社会的支援で暑さをしのぐことの可能性と限界を同時に示しています。 私たち日本でも、気温の上昇は年々顕著になってきており、今後は冷房だけに頼らない都市設計や建築、ライフスタイルの転換が求められるかもしれません。 イギリス人の「我慢と工夫」の文化から学べることは意外と多いのです。
「チョコが高すぎる!」ヨーロッパ人も驚くイギリスの物価高
ロンドンのスーパーマーケットで、板チョコ1枚が2ポンド超――そんな光景を目にしたフランス人の友人が、「こっちは高級ブランドなの?」と驚いた。筆者も思わず「いや、普通のチョコだよ」と苦笑い。今のイギリスでは、“普通のもの”が信じられないほど高くなっている。 2025年4月、イギリスの消費者物価指数(CPI)は前年同月比で 3.5% に跳ね上がった。これはユーロ圏平均(2.6%)を上回るどころか、G7諸国でも高水準だ。 とはいえ、3%台なら「そこまで高くないのでは?」と思うかもしれない。だが、この数字に含まれている「中身」が問題なのだ。 「春の生活費爆弾」――4月に集中した値上げの嵐 この春、多くのイギリス家庭を襲ったのは、まるで四方八方からの値上げラッシュだった。光熱費、水道代、家賃、そして交通費…。何もかもがいっせいに“春の改定”を迎え、家計に重くのしかかった。 たとえば電気とガス。4月からの料金見直しで、これまで上限価格によって抑えられていた負担が一気に跳ね上がった。加えて、水道代はなんと 26.1% 増。水道会社が「インフラ投資とインフレ圧力によるコスト増」を理由に、全国的に引き上げを実施したからだ。 さらに、住宅所有者が支払うコスト(OOH)も 6.9% 増。家を持っていても、持っていなくても、今のイギリスでは「住むだけでお金がかかる」と言っても過言ではない。 移動も、遊びも、お金がかかる 交通費も例外ではなかった。車両税(Vehicle Excise Duty)は4月から値上げ。ガソリン代は下がったとはいえ、全体の負担は決して軽くない。 また、驚くべきは航空券の価格だ。4月のイースター連休にかけて、航空会社がチケット価格を大幅に引き上げた結果、CPI上では +27.5% の上昇となった。これは一時的とはいえ、観光やレジャーも「手の届かない贅沢」になりつつある。 「パンとチョコ」はもうごちそう? 4月のCPIでとりわけ目立ったのが 食料品 の値上がり。年ベースで 3.4% の上昇だったが、5月には 4.4% にまで上昇幅が拡大した。 では、何がそんなに値上がりしているのか? 答えはこうだ: 背景には、カカオの世界的な不作がある。特にコートジボワールやガーナなどの主要生産国では、異常気象と病害による収穫量減少が深刻で、原材料価格が世界的に高騰している。 EU圏では自国生産や共同仕入れである程度吸収できているが、イギリスはポスト・ブレグジット以降、食料の多くをEUからの輸入に依存している。為替(ポンド安)と輸送コストも重なり、スーパーに並ぶ品々はどれもこれも“ちょっとした贅沢品”になりつつある。 「イギリスは高すぎる」――ヨーロッパ人が感じる異常性 ドイツからの出張者はこう言っていた。「ホテル代はまあ仕方ない。でも、ランチでサンドイッチと水を買ったら10ポンド?信じられない」と。 確かに、感覚的には「ちょっとした外食=20ポンド超」は珍しくない。チップ文化も相まって、外国人にとっては出費の重さが倍増する。 それもそのはず。レストランやカフェの価格も、サービスコストや光熱費の高騰によって引き上げられている。これはまさに「値上げの連鎖」だ。 背景にある“見えにくい要因” ここまでの話を聞いて、「じゃあ政府は何をしているのか?」と思う人もいるだろう。実際、財務省も中央銀行も、インフレ対策には慎重だ。 Bank of England(イングランド銀行)は政策金利を 4.25% に据え置いており、「利上げでインフレを抑える」という伝統的アプローチには慎重な姿勢を崩していない。 しかし、問題は供給側のコスト――つまり、企業が支払うエネルギー代・人件費・税金など――が根強く高い点にある。これが価格に転嫁され、結局は消費者の負担となって跳ね返ってきているのだ。 街の声:生活者の実感 最近、筆者が通っている小さな八百屋でも、「野菜の値段を毎週書き換えるのが日課になったよ」と主人がこぼしていた。春キャベツが1個1.80ポンド。「野菜は身体にいい」とわかっていても、手が伸びにくくなる価格だ。 また、子育て中の家庭では、「毎週の買い物予算が膨らんで、レジャー費が削られている」との声も多い。学校給食もじわじわ値上げされており、昼食代に困る世帯も増えているという。 これからどうなる?専門家の見解 経済アナリストたちは、「2025年後半にはインフレ率が再び鈍化する可能性がある」と見ている。だが、前提条件は「エネルギー価格の安定」「ポンドの為替回復」「食品供給の正常化」など、いずれも不確実な要素ばかりだ。 また、政府が掲げる「低所得層支援」や「補助金政策」も、財政赤字とのバランスで踏み込んだ対応が難しくなっている。 「イギリスは物価が高い国」になったのか かつて、ロンドンは「世界一物価が高い都市」としても知られていた。しかし今は、その高さが「一部の都市の話」ではなく、**イギリス全体の“日常”**になりつつある。 この国では、チョコレート1枚が贅沢品になり、パンや水が“節約対象”になる。それでも人々は、なんとかやりくりして生活している。 “普通の生活”を守るために、普通のものがどれだけ「高く」なったか。それが、今のイギリスのリアルだ。
ロンドンに暮らすイラン人――成功者と生活保護受給者、その「二極化する定住のかたち」
イギリス、とりわけロンドンには、世界各国からの移民が暮らしている。国際都市としての顔を持つこの街は、多様な民族が共存する一方で、民族ごとの生活の輪郭が浮かび上がる場所でもある。 その中でも、イラン人コミュニティはとりわけ特徴的だ。一見まとまりのある集団に見えるが、内実は極めて二極化している。政治的・宗教的事情により祖国を離れた人々の多くが避難民としてイギリスに渡ったが、その後の歩みは一様ではなかった。イラン人たちの「イギリスでの定住」は、ある者にとっては富と名声をもたらし、また別の者にとっては社会の周縁に留まる生活となった。 上流にのし上がった者たち:ロンドンの「ペルシャ成金」 まず注目すべきは、イギリス社会の中で華やかに成功した一部のイラン人である。彼らは避難民として来た人々の中でも、特に起業精神に富んだ人物が多く、レストラン経営、中古車輸出、不動産投資、ITビジネスなどで大きな成果を挙げた。現在ではチェルシー、ノッティング・ヒル、メイフェアといった超高級エリアに豪邸を構え、英国人富裕層と肩を並べるライフスタイルを送っている。 彼らはロンドンに自社ビルを持ち、子どもたちはプライベートスクールに通わせ、日常会話は英語とペルシャ語のバイリンガル。週末には家族で南フランスへ旅行し、SNSには高級ブランドとビジネスクラスの投稿が並ぶ。こうした「新たな成功者」としての姿は、旧宗主国であったイギリスで富と地位を築き上げた、ある意味での“逆転劇”を体現している。 とはいえ、こうした成功の背後には強烈な努力と苦労もある。ある不動産オーナーのイラン人男性はこう語る。「最初はケバブ屋の裏で皿洗いをしていた。でも自分で店を持ち、それを5店舗に広げ、次に不動産投資に転じた。誰も助けてはくれなかった。自分の力で這い上がった。」 対極にある現実:福祉に依存する「見えない移民」 一方で、同じイラン人コミュニティの中には、まったく異なる人生を歩む人々も少なくない。彼らは渡英後、イギリス政府の庇護のもとで生活を始めたものの、言語の壁や労働市場への参入の難しさから職に就けず、やがて生活保護に依存するようになった。 イギリスの福祉制度は手厚く、難民認定を受けると公共住宅への入居や毎月の現金支給が受けられる。また、健康保険(NHS)や教育支援も無料で提供されるため、「生活は最低限守られる」。しかし、これが逆に「そこに留まることを選ぶ」心理を生んでいるのも事実である。 さらには、現金手渡しの非公式な仕事(いわゆる“ブラックジョブ”)に従事し、税金を払わずに生活を続ける人々もいる。パブの厨房、建設現場、清掃業などで日給制の労働を行いながら、政府の支援も同時に受け取っているという現実もある。 もちろんすべての人が不正をしているわけではない。だが、このような「表に出ない労働市場」と「見えない所得」により、イギリス社会の中で静かに“二重構造”が形成されている。 英語を話さない「イギリス人」 さらに興味深いのは、イギリスに10年、20年と暮らしていながら、英語を一切話せない人たちの存在だ。彼らは日常のほぼすべてをイラン人コミュニティの中で完結させており、スーパーも薬局も学校も、ペルシャ語で通じる範囲で済ませてしまう。 実際、ロンドンの一部エリアでは、ペルシャ語だけで生活が成り立つほどにコミュニティが密集している。結婚もコミュニティ内で行われ、教育も家庭内でペルシャ語を中心に行われる。こうした「内に閉じた定住」の形が、結果としてイギリス社会との接点を極端に狭めている。 ある社会福祉関係者は語る。「20年イギリスに住んでいても英語が話せないというのは、珍しくありません。彼らは別に“悪い”人たちではない。でも、社会に参加することを放棄してしまっているのです。」 “多文化共生”の現実とは イギリスは「多文化共生」を国家理念のひとつとして掲げているが、その実情は決して理想的な融合ばかりではない。ロンドンのイラン人コミュニティは、その縮図とも言えるだろう。移民が成功する社会である一方で、取り残され、自己完結的な生活にとどまる人々もいる。 どちらも“イギリス人”という同じ市民権を持ちながら、社会参加の度合いも、税金への貢献も、そして言語さえも異なるというこの現実は、移民政策にとっても、社会の統合にとっても、決して無視できない課題である。 イラン人だけではない。他の多くの移民コミュニティにも共通するこの「分断された成功と定住のかたち」は、私たちに問いかけてくる――「本当の意味での“統合”とは何なのか?」と。
インドとビジネスをする際に英国人が知っておくべき現実 〜経験者が語る「驚かない力」の重要性〜
筆者がインドと最初に本格的なビジネスを始めたのは2012年。ロンドンで金融系のITソリューションを提供する中小企業を経営しており、当時の課題は「優秀なエンジニアを確保しながらコストを抑える」ことだった。そこで登場したのがバンガロールの開発会社。英語が通じ、理数系に強い人材が豊富、さらに賃金も抑えられるという“理想の外注先”のように見えた。 だが、現実はカタログ通りにはいかなかった。 時間にルーズ、それは「文化」なのか「戦略」なのか 初回のZoomミーティング。時刻はロンドン時間で朝9時、インド時間で午後1時30分の予定だった。しかし相手が現れたのは午後2時15分。「少し渋滞がありまして」と笑顔で画面に現れた技術責任者を、こちらは開いた口がふさがらないまま見つめていた。 これが偶発的な出来事なら良い。だが、その後もほぼ毎回「10分遅れ」が“デフォルト”となり、30分遅れでも特に詫びの言葉がない。「時間に正確な方が無礼」という感覚さえあるのではないかと感じるようになった。 後にデリーで別の経営者と会食した際、率直にこの疑問をぶつけてみた。すると返ってきたのはこんな言葉だった。 「イギリス人は“時間に間に合う”ことに価値を置く。でもインドでは“会うに値するか”の方が重要なんですよ。」 なるほど。時間ではなく、関係性が主導権を持つ文化なのだ。 投資には超慎重、「検討します」は8割がNO 次に感じたのは、意思決定の遅さと投資への慎重さだ。 新たな機能開発のため、我々が提案した共同出資モデルを先方に持ちかけたときのこと。ROI、スケジュール、契約条件…あらゆる要素を透明化して提示したが、返ってきたのは「興味はあります」「社内で検討してまた連絡します」の繰り返し。 結果として、4ヶ月経っても意思決定は出なかった。後日、元関係者からこっそり聞いた話では、「損する可能性が1%でもあるなら、上層部はハンコを押さない」とのことだった。 英国では「まずやってみて、ダメなら修正する」が文化だが、インドでは「完璧に読めるまでは動かない」が鉄則のようだ。市場が急変する環境ではそれも一つの正解だが、スピード重視の欧州勢とは戦略が根本的に異なる。 真実は一つじゃない? “柔軟な事実観”と向き合うスキル とある案件で、納期に大きく遅延が出たにもかかわらず、現地担当者からは「すでに完了報告を出しました」との連絡が入った。実際の進捗を確認すると、7割程度の完成度。報告内容と実態が食い違っていた。 指摘すると「我々の定義では完成です」と返ってきた。この一件で理解したのは、インドにおける“事実”とは、交渉可能な領域であるということだ。悪意ではなく、むしろ関係性を守るための“方便”として使われる場面が多い。 我々が「虚偽報告」と感じることも、インド側からすると「相手を安心させるための配慮」だったりする。事実そのものよりも、“どう相手が受け取るか”が重要視される世界である。 【実例】航空事故でも「驚かない」イギリス人たち 最近、インド航空の機体が技術トラブルにより緊急着陸を余儀なくされたというニュースがあった。現地では大きな話題になったが、ロンドンのビジネス仲間たちの反応は実にドライだった。 「驚かないよ。どうせ『整備は万全でした、責任は部品メーカーにあります』で終わるさ。」 それが良い悪いではなく、「責任を個別に問うより、全体を包む」アプローチが取られるのがインド的なのだ。問題の本質はシステム全体にあるとする姿勢は、責任逃れとも取れるが、ある意味で集団社会の知恵とも言える。 結論:驚かず、焦らず、相手の文脈を理解せよ インドとビジネスをする際、イギリス流の「時間厳守」「論理優先」「契約絶対」の三種の神器は、しばしば通用しない。だからといって相手を責めても何も変わらない。重要なのは、「違う」という事実を認め、それにどう対応するかだ。 インドと付き合うには、“驚かない力”と“信じすぎない賢さ”が必要だ。 それはリスクを減らすための警戒心ではなく、より良いパートナーシップを築くための現実的な視野である。英国人である私にとって、それは忍耐の訓練であり、同時に文化の幅を広げる貴重な機会でもあった。 異なる文化と付き合うことは、思ったより大変だが、思った以上に学びがある。今もインドのチームと仕事を続けているが、最近では15分遅れても、私はもう時計を見ない。
AI時代における雇用構造の転換:イギリス労働市場の未来を読む
AI(人工知能)の飛躍的進化は、労働市場の構造を根本から再構築しつつあります。Google、Meta、Amazonなどのテックジャイアントが進める早期退職や人員削減は、その象徴とも言える現象です。かつて成長産業の代名詞とされたIT分野において、今やAIが業務の大半を代替し始めており、「99%のIT業務はAIがこなせる」との見方も急速に現実味を帯びています。 この潮流はIT業界にとどまらず、幅広い業種に波及しています。特に先進国の都市圏では、雇用の流動化と再スキル化が今後数年の課題となるでしょう。イギリスはこの変化の最前線にあり、各産業・政策・教育機関が対応を迫られています。 AIに代替されにくい職種の構造的特徴 AIが得意とするのは、大量のデータ処理と予測的判断です。反対に、現在の技術的限界により以下のような職種は当面の間、AIによる完全代替は難しいとされています: ビジネス的観点から言えば、これらの職業は人的資本と顧客体験の密接な連動によって差別化が可能であり、今後の価値創出のコア領域と捉えることができます。 雇用喪失の実態と再就職トレンド 英国家計統計局(ONS)の発表によると、2024年から2025年の1年間で、IT関連の職種で解雇・退職を余儀なくされた労働者は前年比38%増。中でも自動化による影響が顕著なのは、データ入力、テストエンジニア、定型レポート業務などの中間職層です。 大企業では、業務効率化の名のもとにAIソリューションが急速に導入されており、リストラされた人材はスキル再教育市場へと流入しています。EdTechや職業訓練スタートアップの台頭は、こうした動きと軌を一にしています。 ケーススタディ:転身する中間管理職 ロンドン在住の元ITコンサルタント(42歳)は、早期退職を機に心理学修士課程に進学し、現在は企業向けメンタルヘルスサービスの提供を開始。BtoB向けのEAP(従業員支援プログラム)導入支援を通じて、新たなキャリアの軸を築いています。「AIにはできない“感情の文脈”が、私のビジネスの強みです」と語ります。 一方、地方都市では製造業から地域サービス業へと転身する事例も増加中。たとえば、バーミンガム郊外で閉鎖された工場の元作業員が、EV用充電インフラ設置企業に転職し、配線・工事業務を担っているケースなどが挙げられます。 今後の需要成長セクター ビジネス誌読者にとって注目すべきは、今後投資や人材育成が加速する分野です。イギリス国内で特に需要が伸びているのは次の通り: 経営層・投資家への示唆 経営者や人事責任者にとって、今求められるのは単なる人件費削減ではなく、「再配置と再教育」による持続可能な組織づくりです。人材は単なるコストではなく、AI時代における競争力の源泉となり得ます。 また投資家にとっては、教育、ヘルスケア、サステナブル産業への資本投下が次世代の成長ドライバーとなる可能性が高く、短期的なAIブームを越えた視野が求められます。 AIはビジネスの効率性を飛躍的に高める一方で、人間の本質的な役割を再定義する時代を迎えています。イギリスの労働市場の変化は、グローバルなビジネスリーダーにとって極めて示唆に富む事例となるでしょう。