完全解説】イギリスで「現金」がいまだに使われ続ける本当の理由

〜キャッシュレス社会に潜む矛盾と闇〜

■はじめに:イギリスはほぼキャッシュレス社会なのに

イギリスは世界でもトップクラスにキャッシュレス化が進んでいる国です。ロンドンやマンチェスターといった都市部では、カフェからスーパーマーケット、週末のローカルマーケットに至るまで、ほぼすべての店舗でカード決済や電子マネー(Apple PayやGoogle Payなど)が利用可能です。募金ですら、専用のカードリーダーで「タップ募金」が当たり前になってきています。

筆者自身も、数ヶ月どころか年単位で現金に触れていない生活を送っていますが、全く困ることはありません。それにもかかわらず、イギリスではいまだに紙幣やコインが流通しており、完全なキャッシュレス化には至っていません。

なぜでしょうか?

■本当に必要?現金を「使い続ける」理由とは

キャッシュレス化の進んだ社会においても、現金を完全に廃止することには多くの抵抗があるのが現実です。もちろん、単純な「高齢者への配慮」や「ネット弱者の存在」も理由の一つではあります。しかし、それだけでは語れない、もっと根深い理由が存在します。

【1】現金廃止が「都合の悪い人たち」がいる

まず最初に挙げるべきは、政治家や権力者たちの存在です。

イギリスの政治においては、表には出ない裏の利権が深く根を張っています。これはイギリスだけの話ではありませんが、賄賂や不正な資金の流れというのは、基本的に「現金」で行われるのが世界共通の暗黙のルールです。

もし完全に電子マネーへと統一された場合、すべての金銭の流れがデジタルで記録・追跡可能になります。つまり、政治家が裏で受け取っていたお金(賄賂やキックバックなど)がすべて「証拠」として残ってしまうのです。

さらに、電子マネーで受け取った収入には当然「税金」がかかります。現金であれば、帳簿にも載らず、税務署にも追跡されません。裏金で100万円もらえば、そのまま自分の懐に。しかし、電子マネーなら約半分は課税対象になってしまう。

裏金文化と税逃れの温床として、現金は今も必要とされているのです。

【2】イギリスの裏社会と現金経済の深い関係

もうひとつ大きな理由は、現金をベースとする「裏ビジネス」の存在です。

イギリスの大都市には、合法・非合法を問わず「現金のみ」で回っているビジネスが数多く存在します。具体的には以下のような業種です:

  • 非公式の賭博・ブックメーカー
  • 違法薬物の売買
  • 未登録労働(いわゆる“off-the-books”のバイト)
  • 現金貸付(ヤミ金)
  • 移民労働市場(賃金の一部が現金で支払われる)

これらのビジネスは、基本的に現金で成り立っており、表の経済には決して登場しない「もうひとつの経済圏」を構成しています。

しかも驚くべきことに、こういった裏のビジネスは、地方の有力者や政治家と繋がっているケースも少なくありません。彼らは上納金を得ていたり、選挙の際の票集めに利用したりと、まさに持ちつ持たれつの関係。

こうしたネットワークが、現金の廃止に対して強力な圧力やロビー活動を行い、改革を阻止しているという構図があるのです。

【3】表向きの理由:「誰もがキャッシュレスに対応できるとは限らない」

もちろん、現金が完全に悪だというわけではありません。現金を必要とする人たちも存在します。

  • 高齢者:スマートフォンやカードの使い方が分からない人
  • ホームレスや生活困窮者:銀行口座がない
  • 離島や山間部など:通信環境が整っていない
  • 技術に不信感のある人々

こうした人々にとって、現金は生きるために必要な手段であり、社会的包摂の観点からも、いきなり廃止するのは非現実的です。

しかしこれらの理由は、どちらかといえば「建前」に使われることが多く、実際には前述のような「見えない利権」のために現金の存続が強く主張されているという見方もあります。

【4】現金廃止のメリットは多い

それでもキャッシュレス社会への移行には多くのメリットがあります:

  • お金の流れの可視化=脱税や賄賂防止
  • 防犯効果(現金強盗・盗難の減少)
  • 決済の迅速化・簡略化
  • 国家予算の節約(紙幣・硬貨の製造コスト削減)
  • 感染症対策(紙幣や硬貨を媒介とするリスクの低下)

これらの恩恵は広く国民に利益をもたらすものですが、**既得権を持つ層にとっては「都合が悪い」**のです。

【5】現金を巡る国民の意識と分断

イギリス国内でも、「現金不要論」と「現金擁護論」の間には明確な意見の分断があります。

キャッシュレス支持派

  • 都市部に住む若年層
  • デジタルネイティブ世代
  • 金融・IT業界に従事する人々

現金擁護派

  • 高齢者
  • 地方の小規模事業者
  • 政治家・利権関係者

このように、単なる「決済手段」の話ではなく、世代・地域・立場の違いが深く関係しているため、問題は根が深く、簡単には解決できません。

【6】今後イギリスはどうなる?キャッシュレス社会の未来

今後イギリスが完全なキャッシュレス社会へと移行するには、いくつかのハードルがあります。

  • デジタル・インフラの全国的整備
  • 高齢者や貧困層への教育・サポート
  • 政治的な圧力構造の解体
  • 法整備(暗号資産やCBDCの導入)

EU諸国の中でもスウェーデンやノルウェーのように、「ほぼ現金ゼロ社会」に近づいている国もありますが、イギリスは複雑な利権構造と政治的不透明性が障壁となり、やや遅れを取っていると言えるでしょう。

■まとめ:現金を巡る議論は「お金」以上に深い

表面上は便利さの問題に見えるこの議論ですが、実際には「税」「権力」「不正」「社会構造」といった根深い問題が絡み合っています。

イギリスに限らず、世界のどの国でも、キャッシュレス社会の実現は利便性の追求と同時に、既得権層との闘いでもあるのです。

つまり、現金を使い続けるか否かは、単なる選択ではなく「社会の透明性」と「倫理」の問題でもあるのです。

■あとがき:便利さの裏にあるものを、見逃してはいけない

キャッシュレス化の流れは止められません。けれど、その裏にある現金への執着が示すものに、私たちはもっと敏感になる必要があります。
私たちが触れている紙幣は、単なるお金ではなく、構造的な不平等と不正の象徴である場合すらあるのです。

便利さだけで語るには、あまりに奥が深いテーマ──それが「現金」なのです。

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