
イギリスではこの数年でAIの利用が急速に拡大した。成人の約三割がChatGPTやGeminiといった生成AIツールを利用した経験を持ち、就業者の二割超が職場でAIを使っている。学生の利用率はさらに高く、四割を超える層が学習にAIを活用している。こうした数字から、AIは好奇心による個人的な利用から、実務や教育の現場に不可欠な道具へと変化していることが分かる。
企業導入の広がりも顕著で、全体の二割以上がAIを活用している。従業員250人以上の大企業では三分の一を超えており、2023年から2025年の短期間で大きな伸びを示した。導入済み企業の多くはクラウドサービスや専用ソフトも併用しており、基盤整備がAI普及の前提となっている。特に金融業界は先行しており、四分の三の企業がAIを導入し、さらに一割が数年以内の導入を予定している。
人気のAIアプリケーション
イギリスで最も広く利用されているアプリはChatGPTである。成人の三分の一以上が利用経験を持ち、調査、要約、学習、翻訳など幅広い場面で活用されている。Microsoft CopilotやSnapchat My AI、Google Geminiも主要なアプリとして名が挙がる。GeminiはGoogleサービスとの統合により検索やドキュメント活用と相性が良い。SnapchatのAIは若年層の間で浸透し、雑談や宿題のヒントなど日常的な利用に馴染んでいる。
職場利用ではMicrosoft Copilotが急速に拡大している。メールや会議議事録、プレゼン資料の下書きを自動生成し、業務時間を削減する。公的部門の実証では一日平均二十数分の時間短縮が確認され、多くの職員が効率化を実感した。こうした成果が普及を後押しし、大規模導入へ進むきっかけとなっている。
開発者層ではGitHub Copilotが強い存在感を持つ。コード補完やテスト自動生成、リファクタリング支援により、開発効率を大きく向上させている。その他、Perplexityは出典付きの回答で調査用途に利用され、Claudeは長文編集や文書の精緻化に適している。CanvaやNotionなど既存アプリに組み込まれたAI機能も普及が進んでおり、ユーザーが既に使い慣れた環境で自然にAIを利用できる仕組みが整いつつある。
主な利用用途
AIの利用は大きく七つの領域に分けられる。
一つ目は情報探索と要約である。旅行計画や学習資料の整理、契約書や論文の要約など、従来は時間を要した作業が大幅に効率化されている。
二つ目はオフィス業務の自動化である。メールや文書の下書き、会議の議事録、プレゼン資料の雛形などがAIによって生成され、職場での日常的な作業が短縮されている。
三つ目は顧客接点での活用である。チャットボットやFAQの自動生成、音声応答などにAIが用いられ、カスタマーサポートの効率化が進んでいる。金融機関では詐欺検知や苦情対応などにも応用されている。
四つ目はコーディング支援である。GitHub Copilotの導入により、開発スピードが向上し、既存コードの理解やテストの自動化も容易になっている。
五つ目はクリエイティブ制作である。広告や広報、SNS運用ではAIがラフ案を大量に生成し、人間が最終的に磨きをかける形が一般的になっている。画像や動画、音声の生成も進んでおり、少人数でも多様なコンテンツ展開が可能になった。
六つ目は分析や予測である。営業予測、在庫管理、価格最適化などでAIが用いられ、効率的な意思決定に役立っている。
七つ目は産業別応用である。医療分野では臨床文書の自動作成や画像診断支援、公共部門では議事録や資料作成の効率化、製造業では生産性向上と技能補完が期待されている。
普及を後押しする要因
AI普及を支える要因としてまず挙げられるのはクラウド基盤の整備である。クラウドを活用する企業はAI導入率も高く、データ基盤と権限管理の仕組みが活用の前提となっている。また職場で利用する主要アプリへのAI機能の組み込みも普及を促進している。利用者は特別なツールを起動することなく、日常的に使うアプリの中でAIを自然に使えるようになった。さらに政府や規制当局がガイドラインを整備し、利用可能な範囲や安全性を明確化したことも安心感を与えている。
普及を阻む要因
一方で導入を阻む要因も存在する。中小企業にとっては導入コストと人材不足が大きな課題である。また生成AIの情報信頼性への懸念は根強く、出典の明示や人による検証を組み合わせる必要がある。さらに同一の大規模モデルに多くの企業が依存することで、同質化リスクや集中依存が生じる可能性があり、規制当局も市場全体への影響を注視している。
企業導入の勘所
企業がAI導入で成果を上げるには、ユースケースを具体化し、まずは定型文書生成や問い合わせ対応など効果が出やすい業務から始めることが重要である。次にデータと権限管理を徹底し、利用規程やログ管理を整備する必要がある。さらに従業員のリテラシーを高め、業務担当者とデータ担当者、法務やリスク管理部門が協力できる体制を整えることが求められる。効果測定の指標を明確に設定し、節約時間や顧客対応率、開発リードタイムといったKPIを導入段階から追跡することも継続投資の根拠となる。また特定ベンダーへの依存を避け、複数のモデルを併用することでリスクを分散させることも重要である。
今後の展望
今後一年間でAIはさらに日常業務に溶け込み、特別なアプリではなく常設機能として利用されるようになるだろう。医療分野では文書作成支援や診断補助の導入が広がり、金融分野ではモデルリスク管理や相関リスクへの対応が進む。製造業では技能不足とレガシーシステムの統合を背景に、AI活用の基盤整備が求められる。利用者の信頼を確保するために、AI利用の明示や情報出典の提示、人による最終確認といった取り組みも一層重視される。
まとめ
イギリスにおけるAI普及は、消費者、企業、公共部門の三つの領域で同時並行的に進展している。消費者の三割がAIを利用した経験を持ち、就業者の二割が職場で活用し、学生では四割超が学習に取り入れている。企業全体でも二割以上が導入済みで、大企業では三分の一を超える。人気アプリはChatGPTやCopilotを中心に、GeminiやPerplexity、Claudeなどが用途別に使い分けられ、情報探索、要約、文書生成、顧客対応、コーディングといった場面で日常化している。普及を阻む課題は残るが、クラウド基盤の整備やガイドラインの明確化、業務アプリへの組み込みなどが後押しとなり、AIは特別な存在から当たり前の機能へと変化しつつある。今後は利用の幅がさらに拡大し、社会と経済の基盤に定着していくことが期待される。
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