
はじめに
お葬式は、どの国においても人生の最期を見送る重要な儀式です。しかし、その形や習慣、費用などは文化や宗教によって大きく異なります。本稿では、イギリスにおけるお葬式の服装規定、葬儀費用の相場、土葬と火葬の割合などについて詳しく解説します。日本との比較を交えながら、イギリスの葬儀文化を包括的に理解できる内容を目指します。
イギリスにおける葬儀の服装マナー
黒いスーツは必須か?
イギリスでも、伝統的にはお葬式に黒いスーツやドレスを着用することが一般的です。これは故人への敬意を示すための表現とされ、黒は喪に服す色とされています。男性は黒や濃紺のスーツに白いシャツ、黒いネクタイを締めるのが正式とされ、女性は黒や暗めの色のワンピースやスーツを着用します。
ただし、近年は形式ばらないカジュアルなスタイルを希望する家族も増えています。故人の意向で「明るい色の服装で来てほしい」や「故人の好きだった色を身に着けてほしい」といった指定がされることもあり、その場合は黒以外でも構いません。
子供や若者の服装
子供に関しては、暗めの服装であれば厳密に黒でなくても構わないとされることが多いです。若者や学生も、制服やフォーマルな装いが好まれますが、地域や家族の価値観により柔軟な対応がとられる場合もあります。
葬儀費用の実態
イギリスでは、葬儀費用が年々上昇傾向にあり、家計にとって大きな負担となることがあります。
平均的な葬儀費用
イギリスの主要な消費者団体である「SunLife」の2024年のレポートによると、平均的な葬儀費用は以下のようになっています:
- 葬儀全体の平均費用:約4,141ポンド(約75万円)
- 火葬:平均約3,795ポンド(約69万円)
- 土葬:平均約5,077ポンド(約92万円)
この金額には、葬儀社の基本料金、棺、葬儀場の使用料、牧師・司祭などのサービス料、車両費、火葬または土葬の費用が含まれます。
追加費用とオプション
葬儀後のレセプション、花、新聞への訃報掲載、記念品、遺灰の散骨などの追加オプションを含めると、総費用は6,000ポンド(約110万円)を超えることも珍しくありません。また、地域差も大きく、ロンドンなどの都市部では地方に比べて費用が高くなる傾向があります。
土葬と火葬の割合
イギリスでは火葬が主流
イギリスでは火葬が非常に一般的で、2024年時点でおよそ80%以上の葬儀が火葬によって行われています。土葬は約20%程度にとどまっており、特に都市部では墓地スペースの制限もあり、火葬が選ばれるケースが多いです。
土葬を選ぶ理由
土葬は、主に宗教的理由(例:キリスト教の一部教派やイスラム教、ユダヤ教)で選ばれることが多いです。また、伝統的な家系や地方の慣習によって土葬を希望する家庭も存在します。土葬は土地使用料や管理費が高額になるため、費用面でも火葬より負担が大きくなる傾向があります。
自然葬の増加
近年注目を集めているのが「グリーン・バリエル(自然葬)」です。これは生分解性の棺を使用し、自然環境を損なわないような埋葬法で、森林や草原などに遺体を埋葬するものです。環境意識の高まりとともに、若い世代を中心に関心が高まっています。
宗教と文化の多様性
イギリスは多文化・多宗教社会であるため、葬儀のスタイルも非常に多様です。以下にいくつかの例を紹介します。
キリスト教(特に英国国教会)
最も一般的な葬儀形式であり、教会での葬儀ミサ、聖書朗読、賛美歌の合唱などが行われます。火葬または土葬のどちらも選択可能です。
イスラム教
遺体はできるだけ早く埋葬されることが求められます。土葬が原則であり、火葬は禁止されています。洗浄、白布での包帯、メッカの方向に向けて埋葬されるなど、独自の厳格な儀礼があります。
ヒンドゥー教
火葬が原則とされ、遺灰は川や海などに流されます。葬儀にはマントラの詠唱、灯明、花などが使われ、宗教的な要素が非常に強いのが特徴です。
日本との比較
日本では、火葬率が**99.9%**以上と非常に高く、土葬はほとんど見られません。また、仏式葬儀が主流であり、通夜、告別式、初七日、四十九日といった法要が重視されます。
服装についても、黒いスーツや和装の喪服が一般的ですが、最近では「家族葬」や「直葬(じきそう)」といった簡素化された葬儀も増えています。こうした点で、イギリスと日本の葬儀文化には類似点もありますが、宗教的背景や価値観の違いから多くの差異も存在します。
終わりに
イギリスのお葬式は伝統と変化が共存する文化的儀礼です。服装に関しては依然として黒が基本ですが、個人の価値観や宗教的背景を尊重する柔軟性も見られます。火葬が主流である一方で、環境に配慮した自然葬の普及や、宗教的な理由による土葬も存在します。
葬儀費用は年々上昇しており、経済的な負担を軽減するために事前準備や保険の検討が重要です。文化や習慣の違いを理解することは、国際的な交流が進む現代においてますます重要になってきています。この記事がイギリスの葬儀文化を知る一助となれば幸いです。
コメント