
はじめに
イギリスと聞いて、どんな天候を思い浮かべるだろうか?多くの人は「雨が多い」「曇っている」「どんよりしている」など、あまり明るい印象を持たないかもしれない。実際、イギリスは日本と比べて日照時間が短く、年間を通して湿度が高く、気温も低い。特に、9月末から4月末にかけての秋・冬・初春の季節には、ほとんどの家庭で暖房が欠かせない生活が続く。
この記事では、イギリスがなぜ「寒い国」と言われるのか、その理由を気候データとともに解説し、イギリスならではの住環境や生活習慣についても詳しく見ていく。
1. イギリスの「暖房シーズン」はなぜ長いのか?
イギリスでは、一般的に9月の終わりから4月の終わりにかけての7か月間、暖房(central heating)を日常的に使う必要がある。これは日本の本州の暖房期間よりも明らかに長い。理由は明確で、気温の低さと湿度の高さ、そして日照時間の短さが密接に関係している。
朝晩の冷え込みが厳しい
特に顕著なのが朝と夜の冷え込みだ。ロンドンやマンチェスター、エディンバラといった主要都市でも、10月〜4月の間は朝の気温が10度を下回る日が頻繁にある。12月から2月にかけては、朝7時頃の気温が2〜5度前後まで下がるのも珍しくない。日中に太陽が出る日でも最高気温が10度に届かない日が多く、結果的に一日中「肌寒さ」が続く。
夕方以降も気温が急速に下がり、午後6時以降になると10度を切ることが多い。こうした日が数か月も続くため、家の中を暖かく保つには継続的な暖房の使用が不可欠なのだ。
暖房を切ると一気に室温が低下
イギリスの住宅は、外見は石造りやレンガ造りで頑丈だが、断熱性能は場所によってまちまちである。古い家屋が多い都市部では、外の冷気が壁や窓を通して入り込んできやすく、暖房を切ると30分〜1時間で室温が一気に5〜6度下がることもある。そのため、日中に家にいない場合でも、一定の温度を保つように暖房を低めに設定しておく家庭も多い。
2. 年間を通じて「湿気」と「曇天」に悩まされる
イギリスのもう一つの大きな特徴は、雨が多く湿度が高いことだ。日本の梅雨のように連日降り続けるわけではないが、1日の中で何度も小雨や霧雨が降る「変わりやすい天気」が日常茶飯事である。
湿度が高くて乾かない洗濯物
イギリスでは部屋干しが当たり前。外に洗濯物を干しても雨に濡れたり、気温が低くて乾かなかったりするため、家の中で干すことが多い。ところが、室温が低く湿度も高いため、洗濯物がなかなか乾かず、部屋中に湿気がこもるという問題が発生する。これが、後述するカビや結露の原因になる。
太陽が恋しくなる「どんより空」
冬場は特に、1日のうち太陽が出ている時間が短く、朝8時過ぎにようやく明るくなり、午後4時にはもう日が暮れる。日照時間の短さは心理的にも大きな影響を与え、うつ病や冬季うつ(SAD: Seasonal Affective Disorder)を発症する人も少なくない。
3. 暖房を使わないとカビだらけに?――湿気と結露の恐怖
イギリスに住む人々の間でよく聞かれる悩みが、「カビ」である。日本でも梅雨時にカビは問題になるが、イギリスでは秋〜冬〜春にかけてが最も危険な季節となる。
結露が日常的に発生する
気温が低く湿度が高い環境では、窓にびっしりと結露がつく。これは外気と室内の温度差が大きいために起きる現象で、結露水が窓枠や壁に染み込み、カビの温床となる。特に築年数の古い住宅では、断熱材が不十分で、壁そのものが湿気を吸ってしまう構造になっているケースも多い。
暖房+換気で湿気対策
こうした環境下では、暖房で室温を一定以上に保つことと同時に、定期的な換気が非常に重要になる。だが、寒さのあまり窓を開けない家庭も多く、結果として家の中が常に湿気を含んだ状態になり、カビが発生しやすくなるのだ。
このように、イギリスの寒さは単に「気温が低い」というだけでなく、「湿度が高くて、冷えやすく、乾きにくい」という要素が加わることで、より一層厳しく感じられるのだ。
4. 平均気温で見るイギリスの寒さ
では実際に、イギリス各地の平均気温を見てみよう。ここでは、代表的な都市の**月別平均気温(℃)**を紹介する。
月 | ロンドン | マンチェスター | エディンバラ | 東京(参考) |
---|---|---|---|---|
1月 | 5 | 4 | 3 | 6 |
2月 | 6 | 5 | 3 | 7 |
3月 | 8 | 7 | 5 | 10 |
4月 | 11 | 9 | 7 | 15 |
5月 | 14 | 13 | 10 | 19 |
6月 | 17 | 16 | 13 | 22 |
7月 | 19 | 18 | 15 | 26 |
8月 | 18 | 18 | 15 | 27 |
9月 | 16 | 15 | 13 | 23 |
10月 | 13 | 11 | 10 | 18 |
11月 | 9 | 7 | 6 | 13 |
12月 | 6 | 5 | 3 | 8 |
こうして見ると、東京と比べてイギリスの都市は一年を通してかなり涼しいことがわかる。7月や8月でも気温が20度を超えない日が多く、冬に関してはほぼ暖房が必要な気候といえる。
5. 暖房文化と生活習慣の違い
イギリスでは、住宅に**セントラルヒーティング(中央暖房)**が標準装備されている。ガスボイラーで温めたお湯がパイプを通じて家中のラジエーターに送られ、各部屋を均等に暖める仕組みだ。このシステムは非常に効率的で、一度暖まるとしばらくは部屋の温度を保てる。
また、**床暖房(Underfloor Heating)**を導入している家庭も増えてきており、バスルームやキッチンに限らず、リビング全体を優しく暖めることで快適さが向上している。
逆に、日本のように「こたつ」や「電気ストーブ」「エアコンによる暖房」はあまり使われない。これは、断熱や気密性に対する考え方が異なっているからでもある。
おわりに:イギリスの寒さは「暮らしの一部」
イギリスの寒さは、ただの気温の低さではない。長い冬、曇天、湿度の高さ、結露とカビのリスク、暖房文化などが複雑に絡み合って生活に根ざしている。日本の冬と比べて、それほど極端な寒波があるわけではないが、じわじわと体に染みるような寒さが続くため、「イギリスの冬はつらい」と感じる人は少なくない。
だからこそ、暖房は単なる快適さを保つためのものではなく、健康と住宅の維持のためにも不可欠な設備なのだ。もしこれからイギリスでの生活を考えているなら、防寒対策だけでなく、「湿気対策」「カビ対策」もぜひ頭に入れておこう。
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