
イギリスといえば、歴史ある伝統や習慣に彩られた国でありながらも、皮肉やユーモアを忘れない国民性でも知られています。そんな彼らの間で、科学的根拠がないにも関わらず「なんとなく信じられている」ジンクスや迷信(Superstitions)、縁起が悪いとされる行動が今なお多く存在しています。
この記事では、イギリスで日常的に見られるジンクスや縁起の悪い行為、その歴史的背景や現代の人々の受け止め方について詳しく紹介していきます。
1. 13という数字の不吉さ
イギリスに限らず西洋全体で共通している迷信に「13」という数字の不吉さがありますが、イギリスでも例外ではありません。
金曜日の13日(Friday the 13th)
特に「Friday the 13th(金曜日が13日)」は不吉とされ、何か悪いことが起こると信じられています。多くの人がこの日は旅行や契約を避ける傾向にあり、航空券の価格も他の日より安くなることさえあります。
建築物からの忌避
古いホテルや高層ビルには13階を「14階」と表記するところもあり、部屋番号「13」や13番テーブルを避ける施設もあります。
2. 黒猫:不吉か幸運か?
日本では黒猫は不吉の象徴とされることが多いですが、イギリスではその捉え方が地域によって異なります。
スコットランドや北イングランド:吉兆
黒猫が家に現れるのは幸運の前触れとされています。特に、黒猫が家の玄関に座っていると、財運が舞い込むとも。
南イングランドや都市部:不吉
一方、南部や都市部では黒猫は「魔女の使い」として扱われ、不吉と見なされることがあります。特に夜道で黒猫が横切ると「不運が訪れる」と言われています。
3. ラダー(はしご)の下を通ってはいけない
はしごの下を通ることは、イギリスでは非常に縁起が悪いとされています。
背景と理由
この迷信は、三角形(はしごと地面と壁が作る形)が「神聖な形」とされるキリスト教の影響に由来しています。三位一体(父・子・聖霊)に象徴されるこの形を乱す行為は「神への冒涜」とされ、罰が下ると信じられてきました。
4. 傘を室内で開くのはタブー
イギリスでは「傘を家の中で開くと不幸が訪れる」とする言い伝えがあります。
実用的な起源
この迷信の起源は、19世紀の開閉式傘が非常に壊れやすく、室内で開くと物を壊したり人を傷つけたりする恐れがあったためです。それが徐々に「不吉」という形で語り継がれました。
5. 鏡を割ると7年間の不幸
鏡は魂を映すものと信じられていた時代があり、イギリスでも鏡を割ることは不吉な行為とされています。
7年という数字の意味
古代ローマでは「人の運命は7年周期で変わる」と信じられており、鏡を割る=運命を傷つける→7年の不運、という考え方に発展しました。
6. マグパイ(カササギ)への挨拶
イギリスではカササギ(Magpie)を見たときに、何らかの挨拶や儀式的な言葉をかけるのが一般的です。
定番の挨拶
“Good morning, Mr. Magpie. How is your wife today?”
この一言を言うことで、不運を避けることができると信じられています。
数による運勢
また、カササギの数によって運勢が決まるという韻を踏んだ言い回しも有名です:
One for sorrow,
Two for joy,
Three for a girl,
Four for a boy,
Five for silver,
Six for gold,
Seven for a secret never to be told.
7. 木をノックする(Knock on wood)
イギリスでは「不運を避けるために木をノックする」という習慣が根強く残っています。
使用例
例えば、「明日は雨が降らないと思うけど……(Knock on wood)」というように、期待を語った後に不運を避けるために木製のものをノックします。
8. 塩をこぼすのは不吉
塩をこぼすと悪運を招くとされるのも、イギリスの伝統的な迷信です。
左肩に投げる
塩をこぼしてしまったときには「左肩に塩をひとつまみ投げる」ことで不運を避けるという対処法もあります。これは「悪魔が左肩に宿る」という信仰に基づいています。
9. 新年の“First Footing”
スコットランドを中心とした年始のジンクスに「First Footing」というものがあります。
内容と意味
新年最初に家に訪れる人(First Footer)が「黒髪の男性」であると幸運が訪れるとされています。逆に、金髪の女性が最初の来客だと不運とされることもあります。
10. くしゃみと「Bless you」
くしゃみをした人に対して「Bless you」と言うのは単なる礼儀ではなく、ジンクス的な意味もあります。
歴史的背景
中世ヨーロッパでは、くしゃみをすると魂が一瞬体を離れると信じられており、「Bless you」は魂が戻るようにという祈りの意味で使われていました。
11. 不吉な鳥:フクロウとカラス
イギリスでは、夜にフクロウが鳴くと「死が近い」という迷信がありました。また、カラスの存在もロンドン塔にまつわる有名なジンクスがあります。
ロンドン塔とカラス
「ロンドン塔からカラスがいなくなると、王国が滅びる」という言い伝えがあるため、現在でも数羽のカラスが飼われています。
12. 靴をテーブルの上に置く
新品の靴をテーブルの上に置くのは絶対にしてはいけないタブー行為です。これもまた「死」や「不幸」と関連づけられます。
13. 結婚にまつわるジンクス
結婚式におけるジンクスも多く存在します。
有名な韻文
Something old,
Something new,
Something borrowed,
Something blue,
And a silver sixpence in her shoe.
この5つを花嫁が身に着けると、幸せな結婚生活が送れると信じられています。
現代のイギリス人と迷信
現代のイギリス人の多くは「冗談半分で信じている」と言いますが、それでもジンクスや迷信を行動に取り入れることは珍しくありません。特に年配層や地方では、今も迷信を大切にしている人が多くいます。
おわりに
イギリスのジンクスや迷信は、その多くが古代の宗教観や自然との関わり、そして歴史的背景から生まれたものです。科学的な根拠がなくても、それらは人々の文化や価値観を映し出す鏡とも言えます。次にイギリスを訪れるとき、こうした「なんとなく信じていること」に気づいてみると、彼らの生活や精神世界をより深く理解できるかもしれません。
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