イギリスの住宅は、古くても壁が薄い建物が多く、上階の足音や夜のパーティー音など、隣人トラブル(Neighbour Noise)は珍しくありません。 しかし日本と違い、イギリスでは「何をもって騒音とみなすか」が明確に法律で定められています。 本記事では、英国で隣人の騒音に悩んだときの正しい対処法・法的手段・文化的背景まで、徹底的に解説します。
1. イギリスにおける「騒音(Noise Nuisance)」の定義
イギリスでは、騒音は単なる迷惑行為ではなく、Environmental Protection Act 1990(環境保護法)のもとで「Statutory Nuisance(法的な迷惑)」として扱われます。 簡単に言うと、個人が発する音が他人の生活の質を損なうレベルに達すると、法的措置の対象になります。
- 夜間(夜11時〜朝7時)の大音量の音楽やパーティー
- 継続的な犬の鳴き声
- 車やバイクのエンジン音をわざと鳴らす行為
- DIY作業などの長時間の騒音
これらは「Statutory Noise Nuisance」とされ、通報対象になります。
2. まずは冷静に状況を整理する
イギリスでは「すぐに警察へ」よりも、まず記録と証拠を残すことが重視されます。 怒鳴り込むのは逆効果で、トラブルを悪化させることもあります。
- いつ・どんな音が・どれくらい続いたかをメモする
- 可能であればスマホで録音・録画(時間・日付入り)
- 他の住民も被害を受けている場合は共同で記録
この記録は、後述するカウンシル(地方自治体)やEnvironmental Health Officerへの報告時に重要な証拠となります。
3. 隣人への直接的なアプローチ
英国文化では「穏やかな話し合い」が基本です。 直接言うのが怖い場合でも、まずは以下のようなステップを試してみましょう。
- ドアをノックして軽く挨拶 → 「最近少し音が大きいかもしれない」と穏やかに伝える
- 英語での例文:「Hi, sorry to bother you. I was wondering if you could please keep the noise down a little?」
- メモや手紙で伝える場合は、感情的な表現を避け、丁寧に書く
ほとんどのケースは、この段階で解決します。 ただし、相手が攻撃的・非協力的な場合は、次の段階に進みましょう。
4. カウンシル(地方自治体)に通報する
イギリスではLocal Council(地方自治体)が、騒音トラブルを正式に扱う窓口です。 各自治体には「Environmental Health Department」があり、そこにオンラインまたは電話で通報します。
通報内容に基づいて、Environmental Health Officer(EHO)が現地調査に来ることがあります。 彼らは騒音レベルを測定し、必要であればStatutory Nuisance Notice(正式な警告通知)を発行します。
🔗 各自治体の通報ページ例:
Report noise pollution to your local council(GOV.UK公式)
5. 法的措置:Statutory Notice とペナルティ
EHOが調査の結果、騒音を「Statutory Nuisance」と判断した場合、 カウンシルは正式なNoise Abatement Notice(騒音抑制命令)を発行します。 これに従わない場合、以下のような罰則があります。
- 個人の場合:最大£5,000の罰金
- 商業施設の場合:最大£20,000の罰金
- 場合によっては音響機器の没収
つまり、EHOの判断は法的拘束力を持ちます。 証拠が十分であれば、強制的な対応も可能です。
6. 緊急時は警察(Police)へ通報
深夜の大音量パーティーや暴力・ドラッグが関係している場合は、即座に警察へ通報しましょう。 英国では緊急・非緊急の番号が明確に分かれています。
- 999: 緊急(暴力・危険行為・即時対応が必要な場合)
- 101: 非緊急(繰り返される騒音・軽度の迷惑行為)
特に学生街やフラットでは、警察がすぐに介入するケースもあります。 通報時には住所・時間・状況を正確に伝えることが重要です。
7. 賃貸物件の場合は「ランドロード」への報告も有効
隣人が同じ建物内の住人(特に賃貸)である場合、 管理会社や大家(Landlord)に正式に苦情を入れるのも効果的です。
英国では多くの賃貸契約書に「No Nuisance Clause(迷惑行為禁止条項)」が含まれています。 これに違反していると判断されれば、ランドロードは警告を出したり、最悪の場合は契約解除を求めることもできます。
8. カウンシルが動かない場合:自分で裁判所に訴える
稀にカウンシルの対応が遅い場合、個人で裁判所に訴えることも可能です。 「Magistrates’ Court」に申し立てを行い、騒音を止める命令を求めます。
この際にも、記録・証拠・近隣住民の証言が重要です。 弁護士を通さなくても、個人で申し立てることができます。
9. 日本との文化的な違いを理解する
日本人にとっては「少しの音」でも気になることがありますが、 イギリスでは「多少の生活音は許容される」という文化があります。 特に子どもの足音や日中の掃除機音などは、法的には問題とされません。
重要なのは、「常識の範囲を超えているか」。 一度のパーティーではなく、継続的・過度・深夜帯の騒音がある場合にのみ、通報や法的措置が有効です。
10. まとめ:感情ではなく「証拠と手順」で動く
イギリスでの騒音トラブルは、感情ではなく仕組みで解決するのが鉄則です。 以下のステップを冷静に進めましょう。
- 記録と証拠を取る(録音・日記)
- 隣人に穏やかに伝える
- カウンシル(EHO)に通報
- 必要なら警察・ランドロード・裁判所へ
これらを順守すれば、法のもとで自分の生活を守ることができます。 そして何よりも大切なのは、「怒りではなく冷静な対処」です。










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