イギリスの不思議!架空キャラクターを“本物”扱いする国の魅力とは?

イギリスという国は、歴史的建造物や本物の文化遺産に恵まれた国でありながら、なぜかフィクションのキャラクターを現実の人物かのように扱い、そのための博物館まで作ってしまうという、奇妙な傾向がある。

例えば、ロンドンには「シャーロック・ホームズ博物館」がある。ホームズといえば、アーサー・コナン・ドイルが生み出した架空の探偵であり、現実の歴史上の人物ではない。しかし、ベーカー街221Bに「彼が住んでいた」とされる家が再現され、観光客はまるで巡礼者のようにこの場所を訪れる。彼のパイプや虫眼鏡、書き物机が整然と配置され、ファンたちは感慨深げに「ここでホームズが事件を解決したのか」とつぶやく。しかし、冷静に考えれば、それはただのセットに過ぎない。いや、そもそも彼は実在していないのだから、「住んでいた」という表現すら誤りである。まるでドラえもんの道具を展示したミュージアムを作り、「これは本当にのび太が使っていた机です」と言っているようなものである。

さらに驚くべきことに、ロンドンには「ハリー・ポッター」の博物館まで存在する。J.K.ローリングが創り出した魔法の世界に魅了された人々が訪れる場所で、映画のセットや小道具が展示されている。しかし、よく考えてほしい。ハリー・ポッターは実在しない。魔法も使えない。ホグワーツも存在しない。それにもかかわらず、ファンたちはまるで歴史的な遺跡を訪れるかのようにこの博物館を巡る。そして「あの時、ハリーがこの杖を振ったんだよね」と感慨にふける。いや、振っていない。なぜなら、彼はいないのだから。

もちろん、フィクションの世界に没入する楽しみは理解できる。物語の中で生きるキャラクターに愛着を持つことも自然なことだ。しかし、イギリス人のこの本気度は少々異常ではないか。もしこの流れが続けば、次は「ピーター・パンの家」「ジェームズ・ボンドの事務所」「くまのプーさんの森」あたりが公式に博物館として認定される日も遠くないだろう。

いや、むしろ、すでにそうした動きはあるのだ。くまのプーさんの舞台となった「100エーカーの森」(実際にはアッシュダウンの森)には、ファンたちが聖地巡礼のごとく訪れ、絵本のシーンを思い浮かべながら散策する。ジェームズ・ボンドの「MI6本部」も観光スポット化し、「ここで007が任務を受けたのか」と妄想にふけるファンが後を絶たない。いやいや、任務は受けていない。というか、MI6の存在自体は本物だが、ジェームズ・ボンドは実在しない。

なぜ、イギリス人はここまで架空のキャラクターを現実のものとして扱いたがるのか。その背景には、彼らの文化的特性が関係しているのかもしれない。イギリスは長い歴史を誇る国であり、古典文学や伝説、民話に深く根付いている。そのため、彼らにとってフィクションと現実の境界は他の国よりも曖昧なのかもしれない。実際、イギリスにはロビン・フッドやキング・アーサーのように、歴史と伝説が入り混じったキャラクターが多く存在する。彼らはもはや「半分本物」のような扱いを受け、関連する観光地が多数作られている。

また、観光業の観点からも、こうした架空キャラクターの「聖地化」は非常に有効である。実在しない人物であれば、歴史的検証の必要もなく、自由に物語を膨らませることができる。たとえば、シャーロック・ホームズの博物館に訪れる人々は、「この部屋は実際には使われていなかったのでは?」と疑問を持つこともなく、純粋に物語の世界に没入できる。この「ツッコミ不要」の観光資源こそが、イギリスがフィクションの博物館を作り続ける理由の一つなのかもしれない。

こうした文化が根付いている以上、今後もイギリスでは奇妙な博物館が次々と誕生することだろう。もしかすると、「ハムレットの故郷」や「シャイロックの金融オフィス」まで登場する日も近いのではないか。「シェイクスピアの作ったキャラクターが暮らしていた場所です」と言われれば、多くの人が疑問を抱かずに足を運ぶことだろう。

果たしてこれは、彼らの遊び心の表れなのか、それとも現実とフィクションの境界線が曖昧になっているのか。いずれにせよ、イギリスが「架空のキャラクターの博物館王国」であることは疑いようがない。これほどまでにフィクションを愛し、それを本物のように楽しむ文化が根付いている国は、世界でも稀有であろう。

結局のところ、イギリスは「本物の歴史と架空の歴史が共存する国」なのかもしれない。そして彼らにとっては、それが当たり前なのだ。いっそ、次は「不思議の国のアリスの家」「ナルニア国の玄関」「フランケンシュタイン博士の研究所」あたりを公式にオープンして、世界にさらなる驚きを提供してほしいものだ。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA