イギリスで従業員を解雇するのは本当に難しいのか

イギリスの国旗とロンドンの街並みを背景に、AIロボットと段ボール箱を抱えたビジネスマンが描かれ、「イギリスで解雇するのは本当に難しいのか?」というタイトルと、Redundancy・ACAS・Employment Rights Act 1996などのキーワードが配置されたインフォグラフィック。

AI時代における英国の解雇手続きと企業の現実

近年、AIの急速な普及により企業の業務構造は大きく変化している。業務の自動化が進み、人員の再配置や削減が議論される中で、「イギリスでは従業員を解雇するのは非常に難しい」という声も聞かれる。果たしてそれは事実なのか。英国の法制度と実務を整理してみる。


英国の解雇制度の基本構造

英国の雇用関係は、主に以下の法律に基づいている。

  • Employment Rights Act 1996
  • ACAS(Advisory, Conciliation and Arbitration Service)

英国では「at-will(自由解雇)」は存在せず、正当な理由(fair reason)と適正な手続き(fair procedure)が必要とされる。

法的に認められる主な解雇理由

Employment Rights Act 1996では、以下が代表的な正当理由とされる。

  1. 業務能力不足(Capability)
  2. 不正行為(Conduct)
  3. 冗長(Redundancy)=ポジション自体が不要になった場合
  4. 法令違反の恐れ(Statutory illegality)
  5. その他の実質的理由(Some Other Substantial Reason)

つまり、「企業の都合」だけでは解雇できない。明確な根拠と証拠が必要となる。


AI普及と「Redundancy(冗長)」解雇

AIや自動化によって職務が不要になった場合、多くは「Redundancy(冗長)」として扱われる。

冗長解雇の要件

企業は以下を満たす必要がある:

  • 業務そのものの消滅または縮小
  • 公平な選定基準の設定
  • 事前の協議(Consultation)
  • 法定冗長手当(Statutory Redundancy Pay)の支払い

勤続2年以上の従業員には、年齢と勤続年数に応じた補償金支払い義務がある。

つまり、AI導入による人員削減は可能だが、明確なプロセスを踏む必要がある


解雇手続きの具体的ステップ

1. 調査(Investigation)

問題の事実確認。能力不足や不正行為の場合、証拠収集が不可欠。

2. 正式通知と聴聞(Disciplinary Hearing)

従業員に説明機会を与える。弁同席が認められる場合もある。

3. 改善機会の付与(能力問題の場合)

即時解雇は通常認められず、改善計画(Performance Improvement Plan)を設けるのが一般的。

4. 書面通知

解雇理由と通知期間を明記。

5. 不服申立機会

従業員は社内アピールを行える。

ACASのガイドラインに沿わない場合、不当解雇(Unfair Dismissal)として訴訟リスクが高まる。


不当解雇のリスク

従業員は雇用審判所(Employment Tribunal)へ申し立て可能。企業側が敗訴した場合:

  • 補償金支払い
  • 評判リスク
  • 法的コスト

そのため企業は「簡単に解雇しない」のではなく、慎重にならざるを得ないというのが実態である。


欧州との比較

欧州大陸(例:Germany や France)では、労働者保護はさらに強い傾向がある。
英国はEU離脱後も労働法の基本構造は維持されており、米国よりは厳格、フランスほどではない、という中間的立場にある。


結論:本当に「解雇は難しい」のか?

答えはこう整理できる。

  • 感情的・恣意的な解雇は難しい → 事実
  • 正当理由と手順を踏めば解雇は可能 → 事実
  • AIによる業務消滅は正当理由になり得る → 事実
  • ただし法的プロセスを無視すると高コスト → 事実

つまり、「解雇できない」のではなく、プロセスを守らなければならない社会設計になっているというのが正確な理解である。

AIが進展する時代においても、企業は法制度の枠内で人員再設計を行う必要がある。英国ではそれが制度的に明文化され、裁判リスクが現実的に存在するという点が特徴と言える。

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