イギリスのレストラン文化と「静かなる注文」──店員を呼ばずに注文する理由とその方法とは?

海外旅行や留学、あるいはビジネスでイギリスを訪れる際、多くの日本人が最初に戸惑うのが「レストランでの注文方法」です。日本では手を挙げて「すみません」と声をかけるのがごく自然な行動ですが、イギリスで同じことをすると、あまり良い印象を与えないどころか、無作法と受け取られることもあります。では、イギリス人はどうやって店員を呼び、どのように注文するのでしょうか?

本記事では、イギリスのレストランでのマナー、接客文化の背景、実際の注文の流れ、旅行者が気をつけるべき点まで、7000文字のボリュームで詳しく紹介していきます。


1. 「大声で呼ばない」「手を挙げない」──イギリスの静かな接客文化

まず強調しておきたいのは、イギリスにおいて「店員を大声で呼ぶ」「手を高く挙げてアピールする」といった行為は、一般的に無礼と見なされるという点です。もちろん状況や場所によっても異なりますが、多くのレストラン、特に伝統的なブリティッシュ・レストランや中〜高級店では、客が声を張り上げたり手を振ったりするのはご法度です。

イギリス社会は、控えめで落ち着いた態度が重んじられる文化です。「他人の空間を尊重する」ことが社会的な美徳とされており、その価値観はレストランの中にも反映されています。店員に声をかけるときでさえも、できるだけ周囲に配慮した穏やかな方法が求められるのです。


2. では、イギリス人はどのように注文するのか?

(1) 着席型レストランでは「待つ」のが基本

イギリスのレストランでは、席に案内された後、注文を取りに来るのを静かに待つのがマナーです。たとえ店内が忙しそうでも、店員が「準備ができた」と見なしたタイミングで注文を取りに来るまで待機するのが一般的です。

  • 目が合ったときに微笑む:呼び止める代わりに、店員と目が合ったときに軽く会釈したり微笑んだりすることで、「こちらのテーブルは準備できています」というサインを送ります。
  • 店員が来ない場合は、タイミングを見て静かに声をかける:店員が近くに来たときに「Excuse me」と静かに声をかけるのは許容範囲です。ただし、怒鳴ったり、大声で遠くから呼ぶのは避けましょう。

(2) パブやセルフサービス形式では「カウンターで注文」

イギリスのもう一つの食文化の特徴は「パブ(pub)」の存在です。パブでは、基本的にテーブルに座って待っていても誰も注文を取りに来ません。代わりに、自分でカウンターまで行き、注文と支払いを済ませるスタイルです。

この点を知らずにテーブルで長時間待っていると、いつまでも料理は運ばれてきません。多くの旅行者が最初にこの「セルフ注文スタイル」で戸惑うことになります。

  • 注文時にテーブル番号を伝える:カウンターで注文する際、テーブルに番号がついている場合はその番号を伝えましょう。店員が料理をテーブルまで運んでくれます。

3. イギリスの店員は「察するプロフェッショナル」

イギリスのレストランでは、店員は常に客の様子を「観察」しています。つまり、あえて客が呼ばなくても、食事の進み具合や視線、雰囲気から「このテーブルは注文の準備ができた」「次の飲み物を頼みたがっている」「会計をしたい」といったサインを読み取る能力が求められているのです。

この文化的背景には、イギリスの「非言語コミュニケーション」の重視があります。直接的な表現よりも、控えめな仕草や間接的なサインを読み取ることが洗練された態度とされており、それは飲食店にも反映されています。


4. 旅行者が注意すべきポイントとアドバイス

■ 呼び方のNG例とOK例

状況NG例OK例
店員を呼びたい手を振り上げて「Excuse me!」と叫ぶ店員が近くを通った時に目を合わせて軽く微笑む/静かな声で「Excuse me」と声をかける
注文を急かす「まだ来ないんですか?」と不満気に言う「Sorry to trouble you, but may I order when you have a moment?」のような丁寧な言い回し

■ 表情や態度のコツ

  • 無言でメニューを閉じてテーブルの端に置く:これは「準備できましたよ」というサイン。
  • 笑顔とアイコンタクトを活用:大げさなジェスチャーよりも、さりげないアイコンタクトが効果的です。

5. 注文以外のマナーも要注意

イギリスではチップ文化もありますが、レストランによってはサービスチャージが含まれていることがあります。伝票をよく確認し、「Service charge included」と書かれていれば追加のチップは不要です。含まれていない場合、10〜12.5%程度を上乗せするのが一般的です。

また、食事中に店員が水を注ぎに来たり、何度も様子を見に来ることは少ないため、必要があれば自分から静かに伝えるようにしましょう。


6. 文化の違いを理解することが旅の第一歩

日本では「気づいてもらう」ことが礼儀ですが、イギリスでは「待つこと」が礼儀とされる。この違いは、単なるマナーの違いではなく、文化の違いそのものです。大声で呼ばない、店員にプレッシャーをかけない、丁寧な言葉を使う……これらはすべて「相手の空間を尊重する」というイギリスの価値観に基づいています。

旅行者として、こうした文化の違いを知っておくことで、よりスムーズで快適なレストラン体験が可能になります。イギリスでの食事は、料理そのものを楽しむだけでなく、その「場の空気」や「静かなやりとり」も含めて味わうものなのです。


まとめ

イギリスのレストランでは「大声で呼ぶ」「手を挙げる」といった行為は控えるべきです。代わりに、静かに待ち、視線や表情でさりげなく合図を送り、必要があれば静かに声をかけるという、控えめでスマートな方法が尊重されます。これは、イギリス人が持つ「パーソナルスペース」や「相手への配慮」といった文化的価値観が表れている部分です。

イギリスを訪れた際には、ぜひこうしたマナーを意識して、現地の人々との心地よい交流を楽しんでみてください。食事は単なる栄養補給ではなく、文化体験そのものなのです。

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