
イギリスに滞在している、あるいはこれから訪れる日本人の多くが、街を歩いて最初に感じる意外なことのひとつに、「体臭が気にならない人が多い」という点があります。
ヨーロッパ=肉食文化=体臭が強い、という固定観念を抱いていた人ほど、この現実に驚くことになるかもしれません。
では、なぜイギリスでは「強い体臭を持つ人が少ない」と感じるのでしょうか?
そして、稀に出会う「強烈な体臭を放つ人」に対して、なぜ注意が必要なのか?その背景を深く掘り下げていきます。
デオドラント文化と清潔意識の高さ
イギリスでは、日常生活において体臭ケアがしっかりと根付いています。
スーパーやドラッグストアでは、スプレータイプやロールオン、香り付き・無香料・敏感肌用など、さまざまな種類のデオドラント製品が所狭しと並んでいます。使用は習慣のようなもので、朝の身支度の一部としてデオドラントを使うのは、洗顔や歯磨きと同じくらい当たり前の行動です。
さらに、香水文化も生活の一部として浸透しています。香りをまとうことが「身だしなみ」として認識されており、職場でもカジュアルな場でも、心地よい香りを意識的にまとう人が多くいます。
高齢者も例外ではない
高齢の方々もまた、意外なほどきちんとした身だしなみを保っています。香水の使い方が控えめながらも上品で、若年層よりも洗練された香りの選び方をしていることも少なくありません。「年を取ったら匂いに鈍感になる」というのは一面的な見方であり、実際のイギリスでは、年齢に関係なく体臭ケアが行き届いている人が多いという印象を受けます。
稀に遭遇する「強い体臭の持ち主」とは?
しかし、ごく稀に街中やバス・地下鉄などの公共交通機関で、明らかに強い体臭を放つ人物に出会うことがあります。
その体臭は、単なる汗の匂いや運動後のにおいとはまったく異なる種類のもので、時に鼻を突くような刺激臭を伴うこともあります。
こうした場合、「不潔な人」だと単純に判断するのは早計です。強い体臭の背景には、深刻な社会的あるいは健康的問題が潜んでいる可能性が高いのです。
なぜ「注意」すべきなのか?──見落とされがちな背景要因
① 薬物依存による嗅覚の異常
イギリスでは、一部の都市部を中心に薬物問題が深刻化しています。薬物を長期的に使用している人の中には、嗅覚が鈍くなり、自分の体臭にまったく気づかなくなっているケースがあります。
また、乱用によって脳の働きにも影響が出ており、他人との距離感や衛生に対する意識そのものが低下している場合もあります。
② 経済的困窮・ホームレス
イギリスでは、貧困やホームレスの問題も社会課題のひとつとなっています。そうした人々は毎日の入浴や衣類の洗濯といった基本的な衛生管理すら難しい状況にあり、結果として強い体臭につながってしまうことがあります。
また、公共施設のシャワー設備や福祉支援も限られており、継続的なケアを受けられる環境が十分とは言えないのが現実です。
③ 肝機能障害などの内臓疾患
医学的に見ると、肝臓や腎臓に障害があると、アンモニア臭や腐敗臭のような特有の体臭を発することがあります。とくにアルコール依存症の末期や慢性的な肝炎などでは、「フェトール・ヘパティカス(肝性口臭)」と呼ばれる独特の臭いを伴う場合があります。
こうしたケースでは、体臭は単なる衛生問題ではなく、明確な健康リスクのサインとして現れている可能性が高いのです。
無理に関わらず、冷静な観察と対応を
では、強い体臭を感じたとき、私たちはどう対応すべきでしょうか。
まず大切なのは、無用なトラブルを避けるためにも「無理に関わろうとしない」ことです。
体臭は時に深刻な事情の“サイン”である一方、その背景が薬物依存や精神疾患である場合もあり、予測不能な行動につながる可能性もあります。
そのため、できるだけ静かに距離を取り、状況によっては場所を移動するなどの自衛行動を取ることが賢明です。
決して侮蔑的な視線を向けたり、無理に注意を促したりするべきではありません。
まとめ:体臭は「その人の人生の背景」を映す鏡
イギリスでの日常生活では、基本的に体臭への配慮が行き届いており、街中では心地よい香りが漂うことも珍しくありません。
しかし、だからこそ強烈な体臭に遭遇したときは、それが異常であるという“サイン”として受け取ることができます。
その匂いの裏にあるのは、貧困、病気、依存、孤独──一人ひとりの人生の背景です。
私たちはそれを完全に理解することはできませんが、「見逃さない意識」を持つことで、ただの不快な経験を、社会への理解を深める学びに変えることができるのです。
イギリスという異文化の地で、匂いひとつをとってもそこには「見えない物語」が存在している。そんな感受性を持つことが、異国での生活をより豊かにする手助けになるかもしれません。
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