それとも昔は亭主関白? 離婚率の高さから見る英国男女関係のリアル
イギリスと聞くと、「レディーファーストの国」というイメージを持つ人は多いかもしれません。
男性がドアを開ける。
女性を先に通す。
椅子を引く。
重い荷物を持つ。
丁寧な言葉で接する。
いかにも紳士の国、英国らしい光景です。
しかし、ここで一つ疑問が湧きます。
イギリスは本当に昔から女性を大切にする国だったのでしょうか。
それとも、昔は日本と同じように亭主関白だったのでしょうか。
そして、もしそこまでレディーファーストの国なら、なぜ離婚率がこんなに高いのでしょうか。
実は、イギリスの「レディーファースト」は、必ずしも男女平等や夫婦円満を意味してきたわけではありません。
むしろ歴史を見れば、昔のイギリスはかなり男性中心の社会でした。
レディーファーストは「女性の権利」ではなく「紳士の作法」だった
まず大切なのは、レディーファーストと男女平等は同じではないということです。
レディーファーストとは、もともと上流階級や紳士文化の中で発展した礼儀作法の一つです。女性を丁寧に扱う、女性に対して失礼のない態度を取る、女性を先に通すという振る舞いは、男性側の「品の良さ」を示すものでした。
つまり、女性の自由や権利を保障する制度というより、男性が「自分は紳士である」と示すためのマナーだった面があります。
だから、ドアは開ける。
椅子も引く。
言葉遣いも丁寧。
でも、家や財産や法律上の権限は男性が握る。
これが昔のイギリス社会の矛盾です。
女性を丁寧に扱うことと、女性に対等な権利を与えることは、まったく別問題だったのです。
昔のイギリスはかなり亭主関白だった
イギリスには長く coverture という考え方がありました。これは結婚した女性の法的存在が夫に吸収されるという英米法上の古い制度です。簡単に言えば、結婚した女性は独立した法的人格を持ちにくく、夫の保護と支配の下に置かれるという考え方でした。National Women’s History Museumも、covertureでは女性の法的アイデンティティが父または夫に覆われると説明しています。
これは、かなり強烈です。
昔の日本の「家長」「亭主関白」と似た空気もありますが、イギリスの場合は法制度としても夫の立場が非常に強かったのです。
結婚すれば、女性の財産や収入に対する権利は大きく制限されました。英国女性の財産権をめぐる歴史資料では、既婚女性の財産が夫のものになったり、夫の同意なしに自由に扱えなかったりしたことが説明されています。
つまり、昔のイギリスは「女性を先に歩かせるけど、人生の決定権は夫が持つ」という社会だったのです。
既婚女性が自分の財産を持てるようになったのは比較的新しい
イギリスで既婚女性の財産権が本格的に変わっていくのは、19世紀後半以降です。
1870年の Married Women’s Property Act は、既婚女性が自分の労働によって得た収入などを自分の財産として扱えるようにする重要な一歩でした。さらに1882年の法改正によって、既婚女性が夫とは別に財産を所有・管理する権利が大きく広がりました。
これは逆に言えば、それ以前の既婚女性は、結婚すると経済的にかなり夫へ従属していたということです。
レディーファーストの国。
紳士の国。
女性に優しい国。
そう聞くと美しいですが、歴史的にはかなり男性中心でした。
表では「マダム、お先にどうぞ」。
裏では「財産と決定権は夫のもの」。
このギャップこそ、イギリスの伝統的な男女関係の本質かもしれません。
イギリスの亭主関白は、日本とは少し違う
ただし、イギリスの昔の亭主関白は、日本の「俺についてこい」「黙って夫に従え」という分かりやすい形とは少し違います。
イギリスの場合は、もっと階級的で、制度的で、礼儀に包まれていました。
男性は外で働き、財産を管理し、家族を代表する。
女性は家庭を守り、夫を支え、品位ある妻として振る舞う。
上流・中流階級ほど、女性には「淑女らしさ」が求められる。
そこには暴力的な支配だけでなく、「女性は守られるべき存在」という建前がありました。
しかし、この「守る」はかなり危険な言葉です。
守ると言いながら、自由を制限する。
大切にすると言いながら、決定権は渡さない。
尊重すると言いながら、社会進出は歓迎しない。
つまり、レディーファーストは女性への敬意であると同時に、女性を一定の枠に閉じ込める文化でもあったのです。
レディーファーストは「女性を上に置く」文化ではない
日本人の中には、レディーファーストを「女性を男性より上に扱う文化」と誤解している人がいます。
しかし実際には、伝統的なレディーファーストは、女性を対等な競争相手として扱うというより、女性を弱く、繊細で、守るべき存在として扱う考え方に近い部分があります。
男性がドアを開ける。
男性が重いものを持つ。
男性が支払う。
男性が守る。
一見すると女性に優しい。
しかし裏返せば、女性は守られる側、男性は決める側という構図にもなります。
つまり、レディーファーストは必ずしもフェミニズムではありません。
むしろ、古い男女役割の一部として存在していた面もあります。
では、現代のイギリスは女性天国なのか
では、現代のイギリスでは完全に男女平等になり、女性が大切にされ、夫婦円満なのか。
もちろん、そんな単純な話ではありません。
現代のイギリスでは、女性は教育、仕事、財産、政治参加、離婚、再婚、単身生活など、多くの面で自由を持っています。昔のように、結婚したら夫の法的存在に吸収されるという時代ではありません。
しかし、その自由があるからこそ、結婚生活に我慢し続ける必要もなくなりました。
昔なら、経済的理由、社会的圧力、宗教観、世間体、子どものためなどで離婚しなかった夫婦も多かったでしょう。
しかし今は、合わないなら別れるという選択がかなり現実的です。
つまり、現代のイギリスで離婚が多いのは、単に愛が冷めやすいからではありません。
女性が経済的・法的に結婚から離れられるようになった結果でもあります。
イギリスの離婚は本当に多いのか
イングランドとウェールズでは、2023年に102,678件の離婚がありました。ONSによると、2023年の離婚率は既婚人口1,000人あたり男性8.6、女性8.5で、2022年より上昇しました。
2022年は80,057件で、1971年以来の低水準でしたが、これは2022年4月に導入された新しい離婚制度の影響もあったとされています。
よく「イギリスでは結婚の半分が離婚する」と言われますが、これは少し雑な表現です。法律事務所などはONSデータをもとに「結婚の約42%が最終的に離婚すると見込まれる」と説明していますが、単純に毎年の結婚数と離婚数を比べるだけでは正確ではありません。
それでも、日本人の感覚から見ると、イギリスでは離婚がかなり身近な選択であることは間違いありません。
レディーファーストなのに離婚率が高い理由
では、なぜ「レディーファーストの国」なのに離婚が多いのでしょうか。
答えは簡単です。
ドアを開けることと、結婚生活がうまくいくことは別だからです。
男性が椅子を引いてくれても、家事をしないなら不満は溜まります。
記念日に花をくれても、普段の会話がなければ意味がありません。
外では紳士でも、家では自己中心的なら結婚は壊れます。
「女性を大切にする」と言っても、実際に対等に扱わなければ続きません。
レディーファーストは、あくまで外向きのマナーです。
結婚生活は、毎日の現実です。
マナーで結婚は維持できません。
イギリス人は結婚にロマンを求めるが、現実にはかなりドライ
イギリス人は恋愛や結婚にロマンチックなイメージを持つ一方で、関係が壊れた時はかなり現実的です。
合わないなら別れる。
愛情がなくなったら終わる。
人生は一度だから我慢しない。
子どもがいても、無理な結婚を続けることが正しいとは限らない。
日本では、世間体や親族、子ども、住宅ローン、経済面などを理由に、かなり長く我慢する夫婦もいます。
イギリスにももちろん我慢する人はいます。
しかし、日本と比べると「結婚は絶対に維持すべきもの」という圧力は弱い印象があります。
結婚は契約であり、パートナーシップです。
それが機能しなくなれば、終了することも選択肢です。
このドライさが、離婚の多さにつながっている面があります。
No-fault divorceで離婚はさらにしやすくなった
イングランドとウェールズでは、2022年4月から no-fault divorce、つまり相手の不倫や行動を責めなくても離婚できる制度が導入されました。
ONSによると、2023年には離婚の74.2%が Divorce, Dissolution and Separation Act に基づく新制度の下で認められました。
これは、離婚をより穏やかに、対立を少なく進めるための制度です。
昔のように「どちらが悪いか」を証明しなくても、結婚が修復不能に壊れたと示せば手続きを進められるようになりました。
つまり、イギリスでは結婚を続ける自由だけでなく、結婚を終える自由も制度的に整えられているのです。
女性が強くなったから離婚が増えた、という見方
少し乱暴に言えば、昔のイギリスでは女性が離婚しにくかっただけです。
財産がない。
収入がない。
社会的地位が低い。
子どもを連れて出ていくのが難しい。
離婚した女性への偏見が強い。
このような時代には、夫婦関係が悪くても離婚できません。
しかし、女性が教育を受け、働き、収入を持ち、法律上の権利を持つようになれば、話は変わります。
我慢して夫に従う必要がなくなる。
経済的に自立できる。
離婚後も生活できる可能性がある。
社会的にも離婚への抵抗が弱くなる。
その結果、結婚生活に満足できない女性は別れる選択を取れるようになります。
つまり、離婚率の高さは、家庭崩壊だけでなく、女性が結婚に縛られなくなった証拠でもあるのです。
イギリスの男性は本当に女性に優しいのか
これは人によります。
イギリス男性の中には、確かにとても丁寧で、女性への接し方が自然な人もいます。
ドアを開ける、荷物を持つ、言葉遣いが柔らかい、相手の意見を尊重する。こうした振る舞いは、日本人女性から見ると紳士的に見えることもあります。
しかし、それは必ずしも家庭内での平等を意味しません。
外では紳士。
家では何もしない。
口では平等。
家事育児は相手任せ。
女性のキャリアを尊重すると言いながら、自分の生活は変えない。
こういう矛盾は、イギリスにも普通にあります。
「レディーファーストの国だから、男性が全員優しい」というのは幻想です。
日本の亭主関白とイギリスの紳士文化は、形が違うだけかもしれない
日本の亭主関白は分かりやすい形をしていました。
夫が偉い。
妻が支える。
家事育児は女性。
外で働く男性が家の中心。
一方、イギリスの伝統的な男女関係は、もう少し上品な包装紙に包まれていました。
男性は紳士。
女性は淑女。
男性は守る側。
女性は守られる側。
夫が財産と家族を代表する。
妻は家庭の品位を保つ。
見た目は違っても、根本には男性中心の構造がありました。
つまり、イギリスは最初から完全なレディーファーストの国だったわけではありません。
正確に言えば、女性を丁寧に扱う男性中心社会だったのです。
それでもイギリスの女性は我慢しない
現代のイギリスで日本人が感じる大きな違いは、女性が比較的はっきり自己主張することです。
嫌なものは嫌。
無理なものは無理。
合わないなら別れる。
自分の人生を優先する。
パートナーに過剰に尽くさない。
もちろん全員ではありませんが、日本よりも「夫婦だから我慢する」「女性だから支える」という圧力は弱い傾向があります。
だからこそ、離婚も選択肢になります。
これは冷たいようにも見えます。
しかし、別の見方をすれば、自分の人生に責任を持っているとも言えます。
イギリスの結婚は、愛情とパートナーシップが残っているうちは続く。
しかし、それが壊れたら、形式だけを残す意味は薄い。
この考え方が、日本よりもはっきりしているのかもしれません。
離婚率が高いから不幸とは限らない
離婚率が高いと聞くと、「結婚が壊れやすい国」と思うかもしれません。
しかし、離婚率が低い国が必ず幸せとは限りません。
離婚できないだけ、という場合もあります。
経済的に別れられない。
社会的に離婚しにくい。
家族や親族の圧力が強い。
子どものために我慢する。
世間体で仮面夫婦を続ける。
こうした結婚が多ければ、離婚率は低く見えます。
しかし、それが本当に幸せな夫婦関係かどうかは別です。
イギリスの離婚率の高さは、夫婦関係が壊れやすいことを示すと同時に、壊れた関係から出ていける自由があることも示しています。
レディーファーストは結婚生活の保証書ではない
結局、レディーファーストは結婚生活を保証するものではありません。
ドアを開ける。
席を譲る。
荷物を持つ。
女性に丁寧な言葉を使う。
これは確かに良いことです。
しかし、それだけでは夫婦関係は続きません。
必要なのは、日常の家事分担。
金銭感覚の一致。
子育てへの協力。
相手のキャリアへの理解。
感情的な支え。
問題が起きた時の話し合い。
そして、相手を所有物のように扱わないこと。
つまり、女性を先に通すより、女性の人生を邪魔しない方が大事です。
まとめ:イギリスは昔から女性に優しかったのではなく、女性を丁寧に管理していた
イギリスはレディーファーストの国として知られています。
しかし、歴史を見ると、昔から女性が自由で平等だったわけではありません。
むしろ、結婚した女性の法的地位や財産権は長く制限され、夫が家族の中心として強い権限を持っていました。
つまり、昔のイギリスは「女性に優しい国」というより、女性を丁寧に扱いながら、男性中心の秩序の中に置く国だったと言えます。
そして現代では、女性の権利が広がり、経済的自立も進み、離婚しやすい制度も整いました。
その結果、結婚生活がうまくいかない場合、無理に我慢せず別れる人も多くなりました。
だから、レディーファーストなのに離婚率が高いのではありません。
レディーファーストは表のマナー。
結婚生活は裏の現実。
そして現代のイギリスでは、その現実が崩れた時に、別れる自由がある。
これが答えです。
イギリス人男性がドアを開けてくれたからといって、幸せな結婚が保証されるわけではありません。
英国紳士のマナーと、夫婦としての能力は別物です。
結局、レディーファーストの国イギリスも、昔はかなり男性中心。
そして今は、女性が我慢しない国。
だからこそ、離婚率も高い。
それは矛盾ではなく、イギリス社会が変わってきた結果なのです。










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