イギリス若者の就業率が過去最悪級に

そして横行する「闇バイト」の実体とは

イギリスでは今、若者の就業問題が深刻化しています。

大学を出ても仕事がない。
経験がないから採用されない。
物価は高い。
家賃は払えない。
生活費は上がる。
それなのに、まともな仕事の入口はどんどん狭くなっている。

その結果、16〜24歳の若者の中で、仕事にも教育にも職業訓練にもついていない、いわゆる NEET の人数が再び大きな社会問題になっています。

2026年5月28日に公表された最新のONSデータでは、若者のNEET統計の最新版が発表されました。報道では、16〜24歳で教育・雇用・訓練のいずれにも属していない若者が100万人を超え、2013年以来初めて100万人台に達したと報じられています。

これは単なる若者の怠けではありません。
イギリス社会そのものが、若者にまともな入口を用意できなくなっているということです。

そして、その隙間に入り込んでいるのが、SNSや偽求人を使った「闇バイト」です。


若者が仕事から消えているイギリス

イギリスでは、若者の就業環境が明らかに悪化しています。

ONSによると、2025年10〜12月時点で、16〜24歳の12.8%がNEETでした。つまり、学校にも行っておらず、仕事もしておらず、職業訓練も受けていない若者が、同世代の約8人に1人いるということです。

さらに、2026年5月の報道では、NEETの若者が101万2,000人に達し、2013年以来初めて100万人を突破したとされています。

「働かない若者が増えた」と簡単に片付けることはできます。
しかし、実態はもっと複雑です。

若者が働きたくないのではなく、働く入口が消えている。
経験を積みたいのに、経験者しか採用されない。
低賃金の仕事でも競争が激しい。
メンタルヘルスの問題で就業から離れる若者も増えている。
家賃や生活費が高すぎて、普通に働いても生活が成り立たない。

イギリスの若者は、社会に出る前からかなり厳しい現実に直面しています。


「経験者のみ」が若者を追い詰める

イギリスの求人を見ていると、entry level と書かれているのに、なぜか経験が求められることがあります。

未経験歓迎のはずなのに、実務経験が必要。
ジュニアポジションなのに、すでにスキルセットが多すぎる。
最低賃金に近い仕事なのに、面接が何段階もある。
アルバイトでも、英語力、接客経験、柔軟な勤務時間が求められる。

これでは、若者はどこで最初の経験を積めばよいのか分かりません。

昔であれば、若者は小売、飲食、事務補助、見習い、倉庫、配達などから社会に入りました。しかし今は、それらの仕事も自動化、コスト削減、人件費上昇、企業の採用慎重化によって、簡単には入れなくなっています。

政府委託の報告をめぐる報道でも、低・中技能の仕事の減少や、若者向けの入口の弱体化が問題視されています。

社会が「若者には経験がない」と言いながら、経験を積む場所を奪っている。
これが今のイギリスの若者就業問題の核心です。


失業より怖い「働く気力を失う若者」

若者の問題は、単なる失業率だけでは見えません。

失業者とは、仕事を探している人です。
しかしNEETには、仕事を探している人だけでなく、仕事探しそのものから離れてしまった人も含まれます。

ONSの2025年10〜12月データでは、NEETのうち失業状態の若者は41万1,000人、経済的に非活動、つまり積極的に仕事を探していない若者は54万7,000人とされています。

これは非常に深刻です。

仕事が見つからない状態が続くと、若者は自信を失います。
履歴書を送っても返事が来ない。
面接に進めない。
採用されても生活できる給料ではない。
何をしても無駄だと感じる。

その結果、働く意欲そのものが削られていきます。

これは本人の問題だけではありません。
若者が社会から長く離れるほど、将来の所得、健康、住宅購入、年金、家族形成にも影響が出ます。

Alan Milburn氏が関わる政府委託の報告では、若者がNEETになることによる長期的な経済的損失や、公的財政への負担が非常に大きいと警告されています。報道では、若者の就業危機が放置されれば、年間1250億ポンド規模の損失につながる可能性があるとも伝えられています。


そこに入り込む「闇バイト」

若者が仕事に困る。
生活費に困る。
将来に希望が持てない。
すぐにお金が欲しい。

この状況を、犯罪組織は見逃しません。

イギリスでも、日本でいう「闇バイト」に近いものが広がっています。特に目立つのが、money mule、つまり犯罪収益を移動させるために自分の銀行口座を使わせる行為です。

SNSで「簡単に稼げる」「今日中に現金」「在宅で高収入」「銀行口座があればOK」といった誘い文句が出ます。
若者は、自分の口座に入ってきたお金を別の口座へ送る。
その見返りに手数料を受け取る。
本人は「ちょっとした副業」「簡単な送金の手伝い」と思っている。

しかし実際には、詐欺、麻薬取引、人身売買、組織犯罪などに関わる資金洗浄の一部になっている可能性があります。

National Crime Agencyは、money muling は犯罪であり、他人に自分の銀行口座を使わせて資金を移動させることは、深刻な組織犯罪に加担する可能性があると警告しています。


「ただ口座を貸しただけ」では済まない

闇バイトの怖いところは、本人が犯罪の重大性を理解していないことです。

「自分はお金を盗んでいない」
「ただ送金しただけ」
「少し手数料をもらっただけ」
「友達に頼まれただけ」
「SNSで見つけた副業だった」

こう考える若者もいます。

しかし、イギリスでは money mule になることは犯罪です。NCAは、関与すれば最大14年の懲役、銀行口座の閉鎖、ローン・携帯契約・クレジットカード・住宅ローンの取得困難、就職への悪影響などの結果につながる可能性があると説明しています。

つまり、「少し稼げるかも」と思って口座を貸しただけで、将来の金融信用も、就職も、住まい探しも壊れる可能性があるのです。

これは若者にとって致命的です。

銀行口座が閉じられる。
新しい口座が作れない。
クレジットヒストリーに傷がつく。
スマホ契約すら難しくなる。
就職時のチェックで不利になる。

イギリスで生活する上で、銀行口座や信用情報は非常に重要です。
そこに傷がつくと、人生のかなり早い段階で大きなハンディを背負うことになります。


SNSが「闇バイトの求人サイト」になっている

昔の犯罪勧誘は、街中や知人経由が多かったかもしれません。
しかし今は、Instagram、Snapchat、TikTok、Telegram、WhatsAppなどを通じて、若者に直接届きます。

UK FinanceとCifasは、犯罪者がSNS、求人サイト、フィッシングメールを使い、簡単に稼げる話を持ちかけて銀行情報を提供させ、口座に入った資金を別口座へ送金させると警告しています。

広告の見せ方も巧妙です。

高級車。
札束。
ブランド品。
海外旅行。
「1日で£500」
「学生歓迎」
「経験不要」
「スマホだけでOK」
「即日支払い」

若者から見れば、普通の求人よりも魅力的に見えます。
なぜなら、正規の求人は返事すら来ないのに、闇バイトはすぐに返信が来るからです。

まともな企業は若者を面接で落とす。
犯罪者は若者に「君ならできる」と近づく。

この構造が非常に危険なのです。


若者が狙われる理由

犯罪組織が若者を狙う理由は明確です。

お金に困っている。
社会経験が少ない。
金融犯罪の知識がない。
SNSをよく使う。
友人からの紹介を信用しやすい。
「みんなやっている」と言われると流されやすい。
短期間でお金が欲しい。

NCAは、money mule の多くは若者で、約6割が30歳未満だと説明しています。また、犯罪者は大学生やシックスフォームの学生など、お金が必要な若者を狙うと警告しています。

さらに、NCAは多くの money mule が17〜24歳の間に勧誘されるとも説明しています。

これはまさに、就業に苦しむ若者層と重なります。

仕事がない。
お金がない。
社会に居場所がない。
そこへ「簡単に稼げる」と声をかけられる。

闇バイトは、若者の弱さではなく、若者の不安につけ込むビジネスです。


偽求人の典型的な特徴

イギリスで若者を狙う闇バイトや money mule 勧誘には、いくつか共通点があります。

まず、「簡単に高収入」を強調します。
まともな仕事であれば、仕事内容、勤務時間、雇用主、税務、契約条件が明確です。しかし怪しい求人は、仕事内容が曖昧なまま「すぐ稼げる」と言います。

次に、銀行口座の使用を求めます。
「入金を受け取って送金するだけ」
「あなたの口座を使って取引する」
「手数料を引いて残りを送って」
この時点で非常に危険です。

また、会社名や住所が曖昧です。
公式ウェブサイトがない、Companies Houseで確認できない、連絡先が個人のSNSだけ、メールアドレスが無料アカウント。このような場合は注意が必要です。

さらに、急がせます。
「今日中にやれば稼げる」
「今だけ」
「他にも希望者がいる」
焦らせる求人は、冷静な判断をさせないための手口です。


闇バイトは「副業」ではなく「犯罪の入口」

イギリスでは、副業そのものは珍しくありません。

Uber Eats。
Deliveroo。
アルバイト。
フリーランス。
オンライン販売。
チューター。
クリーナー。
イベントスタッフ。

こうした合法的な副業はあります。

しかし、闇バイトは違います。

誰かの口座にお金を流す。
荷物の中身を知らないまま運ぶ。
高額商品を受け取って転送する。
他人名義のカードやSIMを使う。
「代理購入」や「送金代行」をする。
暗号資産の口座を作らされる。

これらは、詐欺、マネーロンダリング、盗品売買、薬物犯罪、組織犯罪に関わる可能性があります。

本人が「知らなかった」と言っても、口座やスマホ、住所、身分証明書の記録は残ります。
犯罪者は逃げても、若者本人だけが責任を負わされることがあります。


なぜ若者はそれでも手を出してしまうのか

答えは簡単です。
普通の社会が、若者に希望を見せられていないからです。

家賃は高い。
交通費も高い。
食費も高い。
大学を出ても仕事がない。
仕事があっても低賃金。
インターンは無給または低賃金。
生活保護や支援制度も複雑。
メンタルヘルスのサポートも追いつかない。

そんな中で、SNSに「今日£300稼げる」と出てきたら、揺れる若者がいても不思議ではありません。

もちろん、犯罪に手を出してよい理由にはなりません。
しかし、闇バイトが広がる背景には、若者を追い詰める社会環境があります。

社会が若者にまともな仕事を与えない。
企業が若者を育てない。
政府の支援が届かない。
そこに犯罪者が「簡単な仕事」を差し出す。

これは個人のモラルだけの問題ではなく、社会の失敗でもあります。


「失われた世代」になる危険

若者が仕事から離れ、教育から離れ、訓練から離れ、さらに犯罪的な副業に巻き込まれる。
この流れが続けば、イギリスは本当に「失われた世代」を生み出す可能性があります。

Alan Milburn氏の報告をめぐる報道では、NEET状態が若者の自信、健康、将来所得に長期的な傷を残すと指摘されています。

若い時期に仕事の経験を積めなければ、次の仕事にも進みにくい。
収入が低ければ、貯金もできない。
貯金ができなければ、家も買えない。
家が買えなければ、将来設計も難しい。
金融犯罪に巻き込まれれば、銀行口座や信用情報にも傷がつく。

つまり、若者時代の数年間の失敗が、その後の人生全体を重くするのです。


日本人がイギリスで注意すべきこと

イギリスに住む日本人、特に留学生、ワーホリ、若い社会人も注意が必要です。

英語が完璧でない。
現地の雇用制度に詳しくない。
銀行や税金の仕組みに慣れていない。
生活費に困っている。
ビザ条件で働ける時間に制限がある。
知人から紹介されると断りにくい。

このような状況では、怪しい求人に巻き込まれる危険があります。

特に、「銀行口座を貸して」「送金して」「荷物を受け取って別の場所へ送って」「会社の代理で暗号資産口座を作って」「身分証明書を送って」という話は非常に危険です。

本当に合法的な仕事であれば、雇用契約、会社情報、給与明細、税務処理、勤務内容が明確です。
曖昧なままお金だけが動く仕事は、ほぼ危険だと考えるべきです。


怪しい求人を見分けるチェックリスト

次のような求人や誘いには注意が必要です。

仕事内容が説明されない。
会社名がはっきりしない。
連絡がSNSや暗号化アプリだけ。
銀行口座を使わせようとする。
自分の口座にお金を受け取らせる。
受け取ったお金を別口座へ送らせる。
暗号資産を買わせる。
身分証明書の写真を送らせる。
「簡単」「即日」「高収入」を強調する。
税金や契約の説明がない。
「友達もやっている」と安心させる。
断ると脅したり急かしたりする。

一つでも当てはまる場合は、関わらない方が安全です。


もし巻き込まれたらどうするべきか

すでに怪しい仕事に関わってしまった場合、まずそれ以上お金を動かさないことです。

相手に言われるまま送金し続けると、被害も責任も大きくなります。
銀行に連絡し、口座の不審な利用について相談する。
警察やAction Fraudに相談する。
緊急性がある場合は999、通常は101で警察に連絡する。
匿名で相談したい場合はCrimestoppersに連絡する方法もあります。NCAも、money muleに関する懸念がある場合は警察やCrimestoppersへの連絡を案内しています。

大切なのは、「自分は少し関わっただけだから大丈夫」と放置しないことです。


まとめ:若者の就業危機と闇バイトはつながっている

イギリスの若者の就業問題は、もはや一時的な不景気の話ではありません。

NEETの若者は100万人規模に達し、2013年以来の深刻な水準になっています。
正規の仕事の入口は狭く、生活費は高く、若者は将来への希望を持ちにくくなっています。

その一方で、犯罪組織はSNSや偽求人を使い、若者に「簡単に稼げる」と近づいています。
money mule は単なる副業ではなく、マネーロンダリングであり、犯罪です。NCAは、銀行口座を使わせて資金を移動させる行為が、組織犯罪に加担する可能性があると警告しています。

若者が働けない社会。
若者を育てない企業。
若者を支えきれない制度。
そこに入り込む闇バイト。

これはイギリス社会のかなり危険な兆候です。

「若者が働かない」のではありません。
「若者がまともに働き始める道」が壊れかけているのです。

そして、その壊れた道の横に、犯罪者が派手な看板を出している。
「簡単に稼げます」
「今日中に現金」
「口座があればOK」

その先にあるのは、自由なお金ではありません。
犯罪歴、銀行口座の閉鎖、信用の喪失、そして将来の破壊です。

イギリスの若者就業危機は、単なる経済ニュースではありません。
これは、次の世代が社会の中で居場所を失い、犯罪に吸い寄せられていく危険な現実なのです。

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