
イギリスを訪れた観光客が最も驚くことの一つに、「イギリス人はぬるいビールを飲む」という事実がある。はじめは都市伝説かと思っていたが、どうやら本当らしい。しかし、ビールは冷たいほうが美味しいのではないか? キンキンに冷えたビールを乾いた喉に流し込む、それこそがビールの醍醐味なのではないか? そんな疑問を抱えながらも、イギリス人がぬるいビールを愛する理由を探ってみよう。
なぜイギリスのビールはぬるいのか?
ビールが冷たくなければならないというのは、実は日本やアメリカ、ドイツなど一部の国の文化にすぎない。イギリスでは伝統的に「エール」と呼ばれる種類のビールを常温に近い温度で飲む習慣が根付いている。エールはラガーとは異なり、発酵温度が高く、ぬるめの温度(10〜14度程度)で提供されるのが普通だ。
冷やしすぎると風味が損なわれるため、イギリスのパブでは冷蔵庫から出したばかりのようなキンキンに冷えたビールはほとんど出てこない。むしろ、ぬるめのビールこそが本来の味わいを楽しむためにベストな状態なのだ。
ぬるいビールの魅力とは?
「ぬるいビールなんて美味しいの?」と思うかもしれないが、実はイギリスのエールには冷やしすぎると味がわからなくなる繊細な風味がある。エールには以下のような特徴がある。
- 豊かな香り
温度が高めの方が香りが引き立つ。ホップやモルトの香りが存分に楽しめる。 - 複雑な味わい
ぬるいことで麦の甘みや苦味、フルーティーな風味がバランスよく感じられる。 - 自然な炭酸
ラガーのように強く炭酸を効かせるのではなく、自然な泡立ちと滑らかな口当たりが楽しめる。
イギリスのパブ文化とぬるいビール
イギリスのパブでは、ビールは単なる飲み物ではなく、社交の場を彩る大切な存在だ。仲間と語らいながらゆっくり飲むのが一般的であり、氷のように冷えたビールを一気に流し込むようなスタイルは好まれない。
さらに、イギリスの伝統的なパブでは「ハンドポンプ」と呼ばれる手動のポンプでビールを注ぐ方式が一般的だ。これにより、ビールは樽から直接注がれ、ちょうど良い温度で提供される。冷蔵設備が発達していなかった時代の名残もあり、この方式は今でも多くのパブで守られている。
ぬるいビール vs. 冷たいビール:どちらが正解?
日本やアメリカのように暑い国では、冷えたビールの爽快感が求められるのは当然だ。特に夏場は、キンキンに冷えたビールの美味しさは格別である。しかし、寒冷な気候のイギリスでは、極端に冷たい飲み物はあまり必要とされず、むしろ常温に近い方がしっくりくるのかもしれない。
また、ラガーとエールでは適温が異なる。一般的に、
- ラガー(日本のビールやドイツのピルスナー):4〜7度
- エール(イギリスのペールエール、スタウトなど):10〜14度 とされている。
つまり、ビールの種類に合わせた温度設定が重要であり、一概に「ぬるい=ダメ」というわけではないのだ。
ぬるいビールを試してみよう!
日本でも最近、クラフトビールブームの影響で、エール系のビールを楽しむ人が増えている。もし「ぬるいビール」に抵抗があるなら、まずはイギリス風のペールエールやスタウトを冷やしすぎずに飲んでみるのも良いかもしれない。
特に以下のような銘柄は、イギリスの伝統的なエールを体験するのに最適だ。
- バス・ペールエール(Bass Pale Ale)
- フラーズ・ロンドンプライド(Fuller’s London Pride)
- ギネス・スタウト(Guinness Stout)
イギリスに行く機会があれば、ぜひパブでぬるめのビールを試してみよう。最初は違和感があるかもしれないが、ゆっくり飲むうちにその奥深い味わいが理解できるはずだ。
結論:ぬるいビールは奥が深い!
「ビールは冷たい方が美味しい」というのは一つの価値観であり、必ずしも絶対ではない。イギリスのエール文化は、ビールを味わいながら楽しむというスタイルを大切にしている。ぬるいビールには、冷えたビールとはまた違った魅力があるのだ。
もしあなたがこれまでキンキンに冷えたビールしか飲んだことがないなら、一度ぬるめのビールにチャレンジしてみてほしい。もしかしたら、新たなビールの楽しみ方に目覚めるかもしれない。
コメント