イギリス(英国)と日本の時差は「冬は9時間、夏は8時間」と説明されることが多いですが、 「なぜ季節で変わるの?」「そもそも夏時間って何?」というところまで語られていないこともあります。 ここでは、日本からイギリスへ旅行・留学・駐在する人がつまずきやすいポイントを整理しつつ、 サマータイムがなぜ生まれたのかという歴史的背景まで掘り下げて解説します。
基本:イギリスと日本の時差は「9時間」または「8時間」
日本は一年中「日本標準時(JST, UTC+9)」で動いています。対してイギリスは、 時期によって使う時間が変わるため、時差も変わります。
- 冬時間(標準時):グリニッジ標準時(GMT, UTC+0) → 日本との時差は9時間
- 夏時間(サマータイム):イギリス夏時間(BST, British Summer Time, UTC+1) → 日本との時差は8時間
つまり「イギリスが夏時間を使っているかどうか」で、日本との時差が1時間変わる、ということです。
夏時間(サマータイム)はいつ始まっていつ終わるのか
イギリスでは、サマータイム(BST)は通常 3月の最終日曜日に始まり、10月の最終日曜日に終わるというルールで運用されています。
少し細かく書くと次のようになります。
- 開始(3月最終日曜):午前1時(GMT)になる瞬間に時計を1時間進めて午前2時(BST)にする → 日本との時差はそれまでの9時間から8時間に短くなる
- 終了(10月最終日曜):午前2時(BST)になる瞬間に時計を1時間戻して午前1時(GMT)にする → 日本との時差は8時間から9時間に戻る
つまり、日本時間でオンライン会議を設定する場合などは、 3月末と10月末は特に注意が必要です。イギリス側で時計が動くので、 「いつもと1時間違う!」ということが起きやすくなります。
なぜイギリスには夏時間と冬時間があるのか:3つの背景
「季節で時計を動かす」というのは、日本に住んでいると少し不思議に感じるかもしれません。 しかしイギリスを含むヨーロッパでは、19〜20世紀にかけて「昼の明るい時間を有効活用しよう」という 考え方が広まり、制度として定着していきました。背景には大きく3つの流れがあります。
- 高緯度のため、夏と冬で日照時間の差が大きい
- 産業化により、エネルギー節約の必要があった
- 戦争・非常時における資源の効率化が求められた
1. 日照時間の差を埋めるための工夫
イギリスは日本よりもずっと高緯度にあるため、夏はとても日が長く、冬はとても日が短くなります。 ロンドンでは、6〜7月には夜9時過ぎまで明るい一方で、12月には午後4時前に暗くなります。
こうした地域では、夏の朝はものすごく早く明るくなります。もし時計を動かさずに放っておくと、 「明るくなっているのに多くの人がまだ寝ている」という時間帯が長くなります。 それなら時計を1時間進めて、社会全体の活動時間を「明るい時間」に寄せてしまおう―― これがサマータイムの基本的な発想です。
2. エネルギーを節約するという発想
サマータイムと聞くと、よく「照明の電気代を節約するため」という説明があります。 これは全くの的外れではなく、産業化が進んだ19〜20世紀のヨーロッパにとってはきわめて重要な発想でした。
当時は、都市の夜の明かりや工場の照明に大量のエネルギーが必要でした。 多くの人が明るいうちから活動できれば、夜に人工照明に頼る時間を短くできるので、 結果としてエネルギー節約になります。
現代では照明の効率化が進んだため「本当にどれくらい節約になるのか」は議論がありますが、 制度が最初に広がった時代には、これは十分に説得力のある理由でした。
3. 戦時中の「資源を無駄にしない」ニーズ
サマータイムをヨーロッパ中に一気に広げたきっかけとしてよく挙げられるのが、 第一次世界大戦(1914〜1918年)です。
当時、ドイツ帝国が1916年に夏時間を導入したのをきっかけに、敵対国だったイギリスも追随しました。 戦争では石炭や燃料がとても重要で、できるだけ無駄にしたくなかったからです。 「少しでも石炭を節約しよう」という切迫した事情が、夏時間の導入を後押ししました。
第二次世界大戦中にも似たような考え方が使われ、イギリスでは一時的に 「ダブル・サマータイム」と呼ばれる、さらに1時間進めた時間が使われたことさえあります。 これは戦時下での極端な例ですが、「明るい時間を最大限に使いたい」という目的は同じです。
イギリスの標準時とグリニッジの関係
イギリスの冬時間が「GMT(グリニッジ標準時)」であることにも歴史的な理由があります。 19世紀、鉄道網が全国に広がると、各都市ごとに太陽の位置で決めていた「地方時」では不便になりました。 そこでロンドンのグリニッジ天文台の時刻を基準にする動きが進み、イギリス全体の標準時が作られていきます。
その後、1884年の国際会議でグリニッジが世界の本初子午線(経度0度)と定められ、 GMTは国際的な時刻の基準になりました。イギリスにおける夏時間・冬時間の切り替えも、 この「GMTを基準とする」という考え方の上に成り立っています。
日本にサマータイムがないのはなぜ?
「イギリスにあるなら日本にもあっていいのでは?」と思うかもしれません。 実は日本でも、戦後の数年間だけサマータイムが実施されたことがあります(1948〜1951年)。 しかし、
- 夏でもそこまで日照時間の差が大きくない地域が多い
- 農村部の生活リズムと合わないという不満があった
- 学校や職場のスケジュール調整が大変だった
といった理由から定着せず、廃止されました。日本は東西に長いとはいえ、 イギリスほど高緯度ではなく、夏至でも「朝3時台から明るい」といった極端なことにはなりにくいため、 サマータイムの必要性が相対的に低いのです。
実務でよくある「うっかりミス」と対策
日本とイギリスでやり取りをする人がつまずきやすいのは、次のようなケースです。
1. 「いつもの9時間引き」で計算してしまう
3〜10月のサマータイム期間中は、日本との時差は8時間です。 日本の午前9時はイギリスの午前1時、ではなく前日の午前1時になります。 ミーティングを設定する際は、GoogleカレンダーやOutlookなど、自動で時差を調整してくれるツールを必ず使うのが安全です。
2. 「イギリスも日本と同じ日に時間が変わる」と思い込む
サマータイムの開始・終了日は国によって違います。EU諸国・北米でも1〜2週間ずれることがあり、 「アメリカとはもうサマータイムなのにイギリスはまだ」ということもあります。 「ヨーロッパだから同じだろう」と思い込まず、イギリスのルールで確認することが大切です。
3. 期限・締切を「日付だけ」で伝えてしまう
時差がある相手に締切を伝えるときは、UTCか、相手のタイムゾーンで伝えると混乱が起きにくくなります。 例:「10月28日 17:00(英国時間)までに提出してください」「締切:2025-10-28 16:00 UTC」など。
これからどうなる? サマータイム制度をめぐる議論
サマータイムは「省エネになる」「日照を有効に使える」というメリットがある一方で、 「年2回の時計変更がめんどう」「睡眠リズムに悪影響がある」「デジタル機器の設定が混乱を招く」などの デメリットも指摘されています。
EUでは一時期「サマータイムの年2回の切り替えをやめるべきではないか」という議論もありましたが、 国ごとに地理条件や経済圏が違うため、完全な統一には至っていません。イギリスでも同様に、 北部(スコットランドなど)では「冬の朝が真っ暗になるのは困る」という声もあり、一筋縄ではいかない問題です。 したがって、当面は『イギリスは春〜秋に1時間進む』という前提で考えるのが現実的です。
まとめ:イギリス時間を見るときのチェックリスト
最後に、実務・旅行・生活で迷わないためのチェックポイントをまとめます。
- 今はサマータイム期間か?(3月最終日曜〜10月最終日曜が目安)
- 日本との時差は8時間か9時間か?
- ミーティング招待は相手のタイムゾーンで作ったか?
- 締切は「英国時間」「UTC」「日本時間」のどれで書かれているか?
- 10月末と3月末は毎年ずれるので特に注意する
この5点を押さえておけば、イギリスと日本の時差で混乱する場面はかなり減らせます。 「イギリスは夏だけ1時間進める国」という根っこを知っておくと、日常の細かい出来事も説明しやすくなりますよ。
英国生活サイト編集部のひと言
ロンドンのヒースロー空港から羽田までは、直行便でおよそ12〜13時間かかります。
ヒースローを午前中の便で出発し、羽田に到着するのは翌日の夕方です。
そこで、「飛行機の中で一睡もしなければ、時差ボケにならないのでは?」と思い、試してみました。
しかし結果は、見事に重度の時差ボケになってしまいました。
「汗をかく運動をすると時差ボケが早く治る」とか、「熱いお風呂に入ると良い」といった方法もいろいろ試しましたが、まったく効果がありませんでした。
一方、日本からロンドンに戻るときは、なぜかまったく時差ボケになりません。
きっと、体が完全にイギリス時間に慣れてしまっているからなのでしょう。
どなたか、短期間で時差ボケを治す方法をご存じでしたら、ぜひ教えてください。










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