イギリスにおけるコロナ後の在宅ワーク状況:2年以上経った今を考える

はじめに

2020年初頭から世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、イギリスでも人々の生活を大きく変えました。その中で最も顕著な変化のひとつが「働き方」でした。2022年以降、パンデミックが終息し経済・社会が正常化する中で、イギリスの働き方は一体どのように変わったのでしょうか。特に在宅ワーク、ハイブリッド勤務、完全オフィス出勤の割合やその背景を整理しつつ、これからの展望を考えます。


1. イギリスでの在宅ワーク・ハイブリッド勤務の割合

パンデミック中、在宅勤務は不可欠な手段となり、テクノロジーを活用した「リモートワーク」が一気に普及しました。2025年に入った今も、その影響は色濃く残っています。

現在、イギリスの労働者のおよそ45%前後が週に1回以上の在宅ワークを行っており、その中で完全在宅勤務を続けている人は18%程度です。週の一部をオフィス、一部を自宅で働く「ハイブリッド勤務」は28%ほどを占め、在宅ワークの主流となりつつあります。

これは、パンデミック前にはほとんど見られなかった状況です。2019年以前、在宅勤務はごく一部の職種・企業に限定されていました。しかし今では、一般的なオフィスワーカーの間で「週に数日は在宅」が自然な働き方として受け入れられています。


2. 完全オフィス勤務に戻った人の割合とその背景

在宅ワークの定着が進む一方で、完全にオフィス勤務に戻った人も少なくありません。実際、全労働者のうち約**27~52%が「完全オフィス勤務」**として職場へ毎日出勤しています。

この割合は一見すると高く見えますが、職種・業界・地域によって大きな差があります。特に製造業、流通業、小売業、対人サービス業など、もともと在宅勤務が難しい分野では、パンデミック終息後すぐに「完全出勤体制」に戻りました。金融業界やIT関連、専門職では在宅ワーク・ハイブリッド勤務が依然として主流ですが、経営層からの「対面による管理・監督」を重視する声や、オフィス復帰を促す動きも見られます。

都市部では比較的在宅勤務が定着していますが、地方都市や中小企業では完全オフィス勤務への移行が早く、「元通り」の勤務形態に戻った労働者が多い状況です。


3. イギリス社会のハイブリッド勤務定着度

イギリスでは、国際比較においても在宅ワークの定着度が高い国のひとつです。平均するとイギリス人労働者は週に1.8日在宅勤務しており、これはアメリカ、ドイツ、フランスなどと比べても高水準にあります。

この背景には、単なるパンデミック対応にとどまらず、ワーク・ライフ・バランスの重視や通勤負担軽減への強いニーズがあります。ロンドンのような都市圏では、片道1時間を超える通勤が当たり前だったため、在宅勤務により1日に1~2時間の余裕が生まれたという人も少なくありません。

また、労働者の属性によっても在宅勤務の恩恵を受けやすい層とそうでない層が分かれています。学歴・スキルが高いホワイトカラー職では、在宅勤務が柔軟に取り入れられている一方、低賃金職種では完全出勤が依然として一般的です。このことは、イギリス国内で「働き方格差」を生んでいるとも指摘されています。


4. 完全出社への回帰をめぐる企業と従業員のせめぎ合い

一部の大企業、特に金融業界では、2024年以降「完全出社」の方針を強める動きが見られました。特にロンドンのシティに本社を構える大手銀行や証券会社では、週5日出社を原則とする企業が増えています。

こうした動きに対して、従業員側からは強い反発がありました。最近の調査では、出社命令に対して約6割の従業員が「辞職・転職を検討する」と回答しており、企業の意図通りに完全出社体制を取り戻せない企業も少なくありません。特に子育て世代、介護中の労働者、女性労働者では、在宅勤務へのニーズが高く、出社要求に応じられない事情がある人も多いのです。

実際、スコットランドでは、フル出社を求められたことで転職した人が約80,000人にのぼるとされ、出社要求が人材流出の一因にもなっています。


5. 在宅勤務の利点と課題

在宅勤務の利点は単に「家で働けること」にとどまりません。通勤コストの削減、通勤時間の削減による健康改善、睡眠時間の確保、育児や家事との両立といった多様なメリットが指摘されています。

一方で課題もあります。例えば、職場での「偶発的コミュニケーション」の減少、孤独感、キャリア形成への不安、業務の見える化の困難さなどです。特に新人や若手社員にとっては、オフィスでの学びやメンターとの交流の機会が減ることが問題視されています。

企業側も、完全リモートではチームの一体感や企業文化の醸成が難しいという課題に直面しており、最適解として「週3日出社」を標準とするケースが増えています。この「3日オフィス勤務・2日在宅勤務」モデルは、従業員のエンゲージメントと生産性を両立させるバランス型として注目されています。


6. 政策的背景とイギリス政府の対応

2025年には、イギリス政府が「フレキシブルワーク法」を改正し、労働者は就業初日から柔軟勤務を申請できるようになりました。ただし、これはあくまで「申請可能」になっただけであり、最終的な可否は雇用主の判断に委ねられています。

実際には「柔軟勤務の申請は認めるが、業務上必要な場合には却下する」という企業も多く、この法改正によって一気に在宅勤務が広がるという状況にはなっていません。あくまで雇用主と従業員の話し合いと合意形成が重要となる段階です。


7. 地域・職種間のギャップの広がり

在宅勤務が進む中で、地域・職種による格差がより鮮明になっています。特に首都ロンドンおよび南東イングランドでは、在宅勤務の比率が高く、労働者も在宅勤務を希望する割合が高いのに対し、北部イングランドやスコットランドでは在宅勤務可能な職種がそもそも少ない傾向があります。

また、高収入・高学歴層の在宅勤務比率が高い一方で、低収入・低スキル層では在宅勤務が難しい状況が続き、「働き方の格差」と「生活の質の格差」にも影響を及ぼしています。


8. 今後の展望

これからのイギリスでは、「どのように働くか」がますます個人のライフスタイルや価値観に密接に結びついていきます。すべての業界・企業で在宅勤務が可能になるわけではありませんが、柔軟な働き方を許容できる企業が、人材確保や生産性向上の観点から有利になることは間違いありません。

一方で、企業としては「チームとしての一体感」「企業文化の維持」「新入社員の育成」など、対面の重要性を強調する声も根強く、完全リモート社会には向かわない現実的な姿が見えます。ハイブリッド勤務が「新しい標準」として落ち着く可能性が高いでしょう。


結びに

パンデミック後2年以上を経たイギリスでは、完全オフィス出社に戻った人は全体の約27~52%、残りは在宅ワークやハイブリッド勤務を活用するという新しいバランスが生まれています。働き方の柔軟性は企業選びや就業意欲にも直結し、単なる「福利厚生」ではなく「戦略的な経営課題」として重要性を増しています。

個々人にとっても、在宅ワークが選択肢として当たり前に存在する現代において、自身のライフスタイルや価値観に合った働き方を主体的に選び取る時代になりました。これからも働き方は進化を続けるでしょう。企業と労働者が互いに歩み寄り、最適な形を模索することが、イギリスだけでなく、世界の先進国に共通する課題であり挑戦です。

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