
最近、ロンドンの賃貸市場には「通常とは違う動き」が見られ始めました。 家賃だけが急激に上がる、供給が滞る、貸主が市場から撤退する動き。 この記事では、現在の異常現象を整理し、それらがもたらすリスクと今後の見通しを解説します。
異常現象とは何か?
ロンドン賃貸市場で目立つ “異常な動き” は、以下のような形で現れています:
- 家賃だけが売買価格上昇を上回るペースで上昇している
- 賃貸供給の伸びが限定的、貸主が物件を売却したがっている
- 契約条件や制限が厳格化され、入居者負担が増える
- 政府の法改正・規制強化の動きが、貸主の動きを鈍らせている
家賃のみ急上昇:売買価格との乖離
2025年のロンドンでは、家賃の伸びが売買価格を上回る局面が見られます。例えば Bloomberg は、家賃が年率で 9.1% 上昇した一方、不動産価格は成長が限定的との観測を報じています。
また、London property 調査では、今後は家賃上昇が落ち着く可能性も報じられていますが、現時点ではスタジオや1ベッドルームでは値下げ傾向、広めの部屋は高止まりまたは上昇といった二極化も指摘されています。
供給不足と貸主撤退の動き
賃貸ストックの伸びの鈍化
Zoopla のレポートによると、ロンドンの賃貸供給は前年比で約 6% 増加にとどまっており、買い手向け投資が減速している影響が出ています。 同時に、ロンドンでは31%の貸主が物件売却を検討中とのデータもあり、これが賃貸ストックの伸びを抑えています。
貸主の心理変化と売却傾向
高借入コスト・運営コストの上昇・税制リスクの高まりなどを背景に、貸主が賃貸より売却を選ぶ動きが見られており、結果として貸出可能物件数が抑制される要因になっています。
Foxtons のデータでも、賃貸登録件数の伸びが過去 4 年で最高を記録したとの報道があり、これは供給がようやく動き始めた兆しとも見られています。
政策・法改正の影響
英国政府は現在、Renters’ Rights Bill(賃貸借者の権利強化法案) を審議中で、契約形式の見直しや無理由解約(Section 21)撤廃などが視野に入っています。 また、Leasehold and Freehold Reform Act 2024 も施行され、サービスチャージや権利構造の透明性が問われています。
これらの法改正リスクが、貸主側にとっての先行き不透明感を生み、慎重姿勢を強めさせている可能性があります。
異常な契約条件・制限の増加
一部不動産広告には、「特定時間は退去」「在宅勤務禁止」「最小居住面積制限」 といった、通常とは異なる制限が含まれるケースが報じられています。
こうした条件は、需要を制限して高家賃を維持するための手段とも見られています。特に外国人や短期滞在者をターゲットにした物件で目立つ傾向があります。
入居者・貸主それぞれへの影響
入居者側への影響
- 選択肢が狭められ、高額家賃を受け入れざるを得ない状況
- 契約上の制限強化で引越し余地が減少
- 市場の不透明性から交渉が難しくなる
貸主側へのリスク
- 今後の法改正負担(修繕義務や賃貸者保護規制)
- 空室リスク増加によるキャッシュフロー圧迫
- 売却意向の強まり、長期戦略が安定しにくくなる
今後の見通しと対策
現状を踏まえると、今後以下のような流れになる可能性があります:
- 家賃上昇は続くが、上昇率は鈍化する可能性
- 貸主撤退傾向で供給がさらにタイト化する局面も
- 法改正が成立すれば、契約構造の見直しが急務になる
入居者としては、早めの契約交渉・相場把握・長期契約の慎重判断が求められます。貸主側は、コスト・規制リスクを見据えた運営戦略が不可欠となるでしょう。
Comments