買い手不在でも維持される「見えない力」の正体
不動産市場では本来、需要と供給が価格を決める。買い手が減れば価格は下がる。それが市場原理だ。
しかし現実には、明らかに買い手がついていないにもかかわらず、価格が下がらない現象が各地で起きている。
とりわけ、保守的な価値観が根強い国、たとえばUnited Kingdomのような社会では、この傾向が顕著だと言われる。なぜこのようなことが起こるのか。
「売れない」のに「値下げしない」理由
通常、市場で売れ残りが増えれば、売り手は値下げを検討する。ところが、一定の価格帯以上の物件では事情が異なる。
- 売り急ぐ必要がない
- 価格を下げること自体が資産価値の毀損と見なされる
- 周辺相場を維持することが優先される
つまり、「売ること」よりも「価格を保つこと」が目的になっているケースがあるのだ。
保守的社会における不動産の意味
英国のように土地や住宅を代々受け継ぐ文化がある国では、不動産は単なる住居ではない。
それは資産であり、地位であり、信用の裏付けでもある。
価格が下がることは、単なる市場調整ではなく、社会的ステータスの低下と受け止められる。
そのため、たとえ流動性が低下しても、価格を維持する方向に力が働く。
価格を動かしているのは誰か
ここで見過ごせないのが、市場参加者の構成だ。
高額不動産の売り手の多くは、十分な資産を持つ層であり、短期的なキャッシュフローに依存していない。
彼らにとって重要なのは、
- 資産ポートフォリオ全体の評価
- 担保価値の維持
- 金融機関との信用関係
である。
価格が下がれば、他の保有物件や関連資産にも波及する。
そのため、値下げは「最後の選択肢」になる。
見えにくい価格維持のメカニズム
実際の市場では、
- 同水準での売り出しを暗黙に維持する
- 成約事例よりも「売出価格」が強調される
- 流通量を絞ることで価格下落を回避する
といった動きが見られる。
これは違法な「操作」というよりも、資産を守るための合理的行動とも言える。しかし結果として、市場は本来の需要と供給のバランスから乖離する。
誰が損をするのか
価格が下がらないことは、資産保有者にとっては利益になる。しかし、
- 住宅を購入したい若年層
- 実需で住まいを探す中間層
- 地域の流動性を必要とする経済活動
にとっては重い負担となる。
市場が硬直化すれば、経済全体の活力も低下する。
問題の本質
不動産価格が下がらない背景には、「市場の失敗」という単純な説明では足りない構造がある。
それは、
価格は需要だけで決まるのではなく、力のある主体の意思によっても左右される
という現実だ。
売れないのに下がらない。
その背後には、価格を維持する余力を持つ層の存在がある。
そしてこの構造が続く限り、市場は「見かけ上の安定」を保ちながら、内部に歪みを蓄積し続けることになる。
以上の内容から明らかなように、努力すれば住宅を手に入れ、安定した暮らしを築けるといういわゆる「ブリティッシュドリーム」は、少なくとも不動産市場の現実においては成立しにくい構造にあることがわかる。
価格が実需によって調整されず、富裕層の資産防衛によって維持される市場では、参入のハードルは下がらない。
夢は語られても、門戸は閉ざされたままなのである。










Comments