テイクアウェイの歴史から見る英国フードカルチャー｜フィッシュアンドチップスが生んだ国民食文化

英国の石畳の街角で、新聞紙に包まれたフィッシュアンドチップスを手にする男性。帽子とマフラーを身につけ、曇り空の下で温かいテイクアウェイを楽しむ姿が英国文化を象徴している。

「テイクアウェイ（Takeaway）」は、英国の日常に深く根付いた食文化。仕事帰りの一皿、海辺の紙包み、パブ帰りの夜食—— どれもイギリス人の生活を映す文化的なシーンです。本記事では、テイクアウェイがどのように誕生し、社会を映す存在になったのかを歴史から紐解きます。

テイクアウェイ文化のはじまり

テイクアウェイの概念自体は古代ローマや中国にも存在しましたが、英国での独自発展は19世紀中盤のロンドンから。工場労働者が帰り道に温かい食事を持ち帰れるようにした屋台が原型とされています。特に、パン屋の余熱で魚を揚げたり、新聞紙で包んで持ち帰る仕組みは当時の庶民の知恵でした。

産業革命とテイクアウェイの誕生背景

英国のテイクアウェイは、産業革命の副産物として誕生しました。工場の長時間労働により家庭で調理する時間が減り、手軽で安価にカロリーを補給できる食事の需要が急増。これを支えたのが、フィッシュアンドチップス店やパイショップ、ベイクショップなどの屋台文化でした。

「Takeaway」は労働者のエネルギー源であり、同時にコミュニティの社交場でもあった。

フィッシュアンドチップスが国民食になった理由

フィッシュアンドチップスは、テイクアウェイ文化の象徴として最も成功した料理です。 19世紀後半、鉄道網の発展により北海のタラが都市へ安定供給され、同時期にポテトが庶民の主食として広まりました。この2つが合わさり、英国初の「持ち帰り定番料理」が誕生したのです。

紙に包んで持ち帰れる簡便さ
揚げ油の保温効果で冷めにくい
塩・ビネガーで味を完結できるシンプルさ

テイクアウェイ店は1920年代には全国で3万軒を超え、第二次世界大戦中も配給対象外の国民食として維持されました。

20世紀以降の進化と多様化

戦後、英国のテイクアウェイは多国籍化の波に乗り、カレー、ケバブ、中華料理、ピザなどが街角に登場。これにより「夜遅くまで開いている店＝テイクアウェイ文化」という認識が広がります。 1980年代には電子レンジの普及により家庭内テイクアウェイ（持ち帰り＋自宅再加熱）という新形態も誕生しました。

現代の英国テイクアウェイ事情

現在の英国では、テイクアウェイは“Comfort Food”（心のごはん）としての地位を確立しています。モバイルアプリによるデリバリーが主流になりつつも、新聞紙風包みで食べるクラシックスタイルは根強く人気。サステナブルな包装やプラゼロ対応が進み、伝統×環境意識が共存する新時代に突入しています。