
イギリスにおける子育てと仕事の両立は、多くの親にとって極めて難しい課題となっている。その最大の理由は、チャイルドケア(保育)費用の高さにある。特に、母親が産休後に職場復帰をしようとした際、得られる収入の大半が保育費に消えてしまい、「働く意味があるのか?」と考えざるを得ない状況に直面するケースが多い。
本記事では、イギリスのチャイルドケア費用の現状、それが家庭経済に及ぼす影響、政府の支援策、他国との比較、さらには将来的な解決策の可能性について詳しく掘り下げる。
イギリスのチャイルドケア費用の現状
イギリスでは、チャイルドケアの費用が非常に高額であり、特に0歳から3歳児の保育にかかる費用は、多くの家庭にとって大きな負担となっている。英国チャイルドケア協会(Coram Family and Childcare)の調査によると、ロンドンを中心とする都市部では、フルタイム(週50時間)の保育費が年間約15,000ポンド(約270万円)にも上る。
以下、具体的な保育費の例を見てみよう。
- ナーサリー(保育園):1歳児のナーサリー費用は、週5日フルタイムで月額1,200〜1,500ポンド(約21万〜27万円)。
- チャイルドマインダー(家庭保育):ナーサリーよりは若干安価だが、それでも月額1,000ポンド(約18万円)程度。
- ベビーシッターやナニー:雇う場合、さらに高額で月額2,000ポンド(約36万円)以上になることも。
これは、イギリスの平均的な手取り収入(年間約30,000ポンド)の半分以上がチャイルドケアに費やされることを意味し、特に二人以上の子どもを持つ家庭にとっては、経済的に極めて厳しい状況となる。
子育てと仕事の両立が難しい理由
1. 収入の大半がチャイルドケア費用に消える
多くの母親が産休後に職場復帰しようと考えたとき、計算すると「働いても収入のほぼすべてがチャイルドケア費用に消えてしまう」という現実に直面する。たとえば、月給2,500ポンド(約45万円)の仕事をしていても、ナーサリーに通わせるとその大半が保育費に消え、実質的な手取りがほとんど残らない。
その結果、「収入のほとんどを保育費に費やすくらいなら、専業主婦(夫)になった方がよいのでは?」と考える人も多い。しかし、一度仕事を辞めると、キャリアの継続が難しくなり、将来的な昇給や退職金、年金などの面で大きなデメリットが生じる。
2. 政府の支援は限定的
イギリス政府は一定のチャイルドケア補助制度を提供しているものの、十分とは言い難い。
- 30時間無料保育:3〜4歳児を対象に、週30時間の無料保育を提供。ただし、適用されるのは学期中のみであり、年間では39週分しかカバーされない。
- タックスフリー・チャイルドケア:最大2,000ポンド(約36万円)の税控除が受けられるが、高額な保育費に対しては焼け石に水。
- ユニバーサル・クレジット:低所得世帯向けの支援だが、申請条件が厳しく、恩恵を受けられる家庭は限られる。
結果として、多くの共働き世帯は十分なサポートを受けられず、自力で高額な保育費を支払わざるを得ない。
3. フレキシブルな働き方がまだ十分でない
一部の企業ではリモートワークや時短勤務が導入されているものの、すべての職場で柔軟な働き方ができるわけではない。特に、専門職や管理職ではフルタイム勤務が求められるケースが多く、子育てとの両立が難しい状況が続いている。
他国との比較:イギリスの保育費は本当に高いのか?
イギリスのチャイルドケア費用が他国と比べてどの程度高いのか、主要国と比較してみる。
国名 | 月額保育費(1歳児・フルタイム) | GDPに占めるチャイルドケア費用の割合 |
イギリス | 1,200〜1,500ポンド | 約30% |
フランス | 400〜600ポンド | 約10% |
ドイツ | 300〜500ポンド | 約8% |
スウェーデン | 150〜300ポンド | 約5% |
北欧諸国では政府の補助が手厚く、保育費は比較的安価に抑えられている。一方で、イギリスは先進国の中でも突出して保育費が高く、家庭の負担が大きい。
解決策の模索
イギリスで仕事と子育てを両立させるためには、以下のような政策の改善が求められる。
- 政府補助の拡充
- 3〜4歳児向けの30時間無料保育を0歳児から適用。
- 低所得世帯だけでなく、中間層にも手厚い補助を提供。
- 企業の働き方改革
- フレックスタイムやリモートワークの導入促進。
- 育休・時短勤務制度の充実。
- 地域ごとの保育サービス拡充
- 公立保育園の増設。
- 地域ベースのチャイルドマインダー支援。
まとめ
イギリスでは、チャイルドケア費用の高さが共働き家庭にとって大きな負担となっており、特に母親が職場復帰する際の障害となっている。政府の支援は一部あるものの、十分ではなく、多くの家庭が経済的なジレンマに直面している。
より多くの親が安心して働ける社会を実現するためには、政府の支援拡充、企業の働き方改革、地域の保育環境の整備といった包括的な対策が不可欠だ。
コメント