ロンドンの秋冬、部屋が冷えていても、自分では暖房を入れられない住宅があります。建物の共用ボイラーを大家や管理会社が操作し、各住戸や個室へ熱を供給する仕組みでは、暖房の開始日や運転時間が住み心地を大きく左右します。
そこで気になるのが、「室温や外気温が何度以下になったら、管理する側は暖房を入れなければならないのか」という点です。
法令と自治体の公表資料を照らし合わせると、ロンドンのすべての住宅に共通する「外気温○℃以下、または室温○℃以下になったら共用暖房を入れる」という一律の法定基準はありません。 一方で、暖房設備の維持や居住環境についての法的義務があり、HMO(複数の世帯が住むシェアハウスなど)では、自治体が温度や利用条件を具体的に示している場合があります。legislation.gov.uk
つまり、「法律に暖房を入れる温度が一つに決められていない」という説明だけでは、その物件で暖房を止めてよいかは判断できません。
暖房について調べると、18℃や21℃という数字が出てきます。しかし、健康上の推奨値と、自治体が示す暖房設備の基準には違いがあります。
| 公表している機関・対象 | 示されている温度 | 数字の意味 |
|---|---|---|
| 英国健康安全保障庁(UKHSA)の健康上の助言 | 居間や寝室など、長く過ごす部屋を少なくとも18℃にするよう推奨 | 健康を守るための目安。全国一律の暖房開始義務を定めた条文ではない。GOV.UK |
| ウェストミンスター区のShared houses and flats向けHMO基準 | 住宅全体で少なくとも18℃を維持できる設備 | 同区の該当する住宅に関する暖房設備の基準。westminster.gov.uk |
| ラムベス区のHMO基準 | 外気温-1℃の条件で、居間・寝室21℃、その他18℃ | 寒い条件でも必要な室温にできる暖房能力の基準。Lambeth Council |
ラムベス区の基準に出てくる「外気温-1℃」は、暖房設備の能力を確認する際の条件です。「外が-1℃になるまで暖房を入れなくてもよい」という意味にはなりません。また、同じロンドンでも公表基準には違いがあるため、別の区の数字をそのまま自分の物件に当てはめることもできません。
UKHSAの18℃という推奨値についても、室温が一瞬17.9℃になれば直ちに法律違反と判定される仕組みではありません。住宅の状態や暖房の利用状況などを踏まえた判断が必要です。高齢者や持病のある人など、寒さによる影響を受けやすい入居者への配慮も欠かせません。GOV.UK
一般的な住宅賃貸では、Landlord and Tenant Act 1985(1985年家主・借家人法)の第11条により、大家には暖房・給湯設備を修理し、正常に機能する状態に保つ義務があります。また、適用対象となる賃貸住宅については、第9A条に基づき、入居開始時から賃貸期間中にわたって、人が住むのに適した状態を維持する義務があります。legislation.gov.uk
住宅の健康・安全上の危険を評価するHHSRSでも、「Excess cold(過度な寒さ)」は評価対象です。政府の案内では、暖房や断熱が不十分で、住宅を合理的な費用で十分に暖められないことが問題になります。別の政府ガイドでは、合理的な費用で18〜21℃に維持できない住宅を、寒さの問題がある住宅として説明しています。GOV.UK
これらの義務から考えると、管理者はボイラーの故障の有無に加え、実際に各部屋を十分に暖められるかも確認する必要があります。設備が正常でも、供給時間が短すぎて個室が冷え続ける場合には、運用方法が問題になる可能性があります。
共用暖房の利用条件について、具体的な記載があるのがウェストミンスター区です。同区のShared houses and flats向け基準とBedsit・studio向け基準には、大家が暖房・給湯を一括供給する場合、これらのサービスは常時利用できるようにすべきであり、各室・各貸室で暖房の強さを調節できることが示されています。westminster.gov.uk
この「常時利用できる」という基準は、ボイラーを24時間燃焼させ続けることとは区別して理解する必要があります。サーモスタットなどによる制御を含め、必要なときに暖房を利用できる状態かどうかが確認点になります。
この基準を踏まえると、該当するHMOで供給時間を一方的に短く区切る運用には、基準への適合を確認する必要があります。具体的な適用は住宅の種類や個別のライセンス条件によって異なります。同区も、ライセンス発行時に基準を満たすための工事条件を付ける場合があると説明しています。Westminster City Council
一方で、建物や住宅供給者が独自の暖房期間を設けている例もあります。サザーク区の公営住宅向け案内では、地域暖房を通常少なくとも10月1日から3月31日まで提供し、天候に応じて開始を早めたり終了を遅らせたりするとしています。これは同区の供給方針であり、「ロンドンでは10月1日まで暖房を入れる義務がない」という法律ではありません。Southwark Council
例えば、個室が朝晩16〜17℃まで下がり、入居者が暖房を操作できない状態が続いているとします。この場合、「外気温がまだ10℃ある」「例年の暖房開始日前だ」という説明だけで対応を終えるのは適切とは考えにくいでしょう。実際の室温、寒い状態が続く時間、暖房の利用条件、その物件に適用される基準を確認する必要があります。
入居者が対応を求める際には、次の情報を整理すると状況を伝えやすくなります。
- 室温の記録: 朝・昼・夜などの温度を、日時と部屋名とともに記録する。温度計は暖房器具のすぐそばや直射日光を避けて置く。
- 利用できない状況: 暖房が使える時間、自分で操作できる範囲、ラジエーターが温まるかを確認する。
- 契約・物件の条件: 暖房費が家賃やサービスチャージに含まれるか、供給についての約束、HMO基準やライセンス条件を確認する。
- 書面での連絡: 大家や管理会社に、室温の記録と暖房の利用状況を送り、調査や運転時間の見直しを求める。
民間賃貸で改善されない場合は、物件所在地の区役所にあるPrivate Sector HousingやEnvironmental Healthの担当部署へ相談できます。公営住宅の場合は、まず住宅供給者としての区役所へ苦情を申し立て、解決しない場合はHousing Ombudsmanへの申立てを検討できます。GOV.UK
大家や管理会社の側も、廊下のサーモスタットの表示だけで判断せず、冷えやすい個室の温度を確認しておくと、供給時間や設定が適切かを判断しやすくなります。暖房開始日、運転時間、個別調整の方法、寒さの申告を受けた際の対応を入居者に明示しておくことが、実務上の行き違いを減らします。
※2026年10月19日時点の公表資料に基づき、ロンドンを含むイングランドの住宅を対象にしています。










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