ロンドンで生活を始めた日本人の多くが、不動産会社から紹介された物件をそのまま契約しているという現実があります。 この背景には、言語や慣習の違い、そして現地不動産市場の特殊な構造が大きく関係しています。 この記事では、ロンドンの賃貸市場の特徴、日本人が「紹介物件」を選びやすい理由、そして後悔しない物件選びの方法を、現地での経験をもとに詳しく解説します。
ロンドン賃貸市場の特徴:スピードと競争がすべて
ロンドンの賃貸市場は、他の都市と比べても非常に流動性が高く、人気の物件は数日どころか数時間で申し込みが入ることも珍しくありません。 家主やエージェントが物件を公開すると、その日のうちに複数の内見予約が入り、早い者勝ちで契約が進んでしまうケースも多いのです。
そのため、多くの駐在員や留学生は「紹介された物件で即決」することが多く、十分に比較検討する時間が取れません。 エージェントに任せることが安心だと感じるのは自然な流れですが、実際にはその仕組みの中に借り手側にとっての落とし穴も存在します。
なぜ日本人の8割が紹介された物件を契約するのか
日本人が紹介物件を選ぶ理由には、大きく3つの背景があります。
- ① 信頼関係を重視する文化
日本では「不動産会社に任せる」ことが信頼と安心の証とされています。その文化をそのままロンドンでも適用しがちです。 - ② 英語・契約慣習への不安
契約書や手続きが英語で進むため、誤解を避けたいという心理が働きます。結果として「紹介された物件なら安心」と感じてしまいます。 - ③ 限られた時間と選択肢
赴任直後や留学準備期間では、じっくり探す余裕がなく、提示された中から選ばざるを得ない状況に置かれやすいのです。
エージェントが紹介する物件の裏側
イギリスの不動産エージェントは、基本的に貸主(オーナー)側の代理人として活動します。 借り手(テナント)の利益を守る立場ではないため、彼らの「おすすめ」は、必ずしもあなたに最適とは限りません。
多くのエージェントは、家主からの手数料を得るため、契約のスピードを重視します。 その結果、物件の欠点や維持費、エリア特有の問題(治安・湿気・古い設備など)については十分に説明されないまま話が進むこともあります。 「人気があります」「すぐ決まります」という言葉はプレッシャーをかける営業トークであることも多いのです。
ロンドンに“新築がない”は本当?
多くの人が「ロンドンには新築や築浅の物件がほとんどない」と言われた経験があるでしょう。 しかし、実際には新築・築浅の物件は存在します。問題は、供給が少なく、需要が高いため空室が出にくいという点にあります。
例えば、Canary Wharf(カナリーワーフ)やNine Elms(ナイン・エルムズ)、Wembley(ウェンブリー)などの再開発エリアでは、近年多くのモダンな高層マンションが建設されています。 これらの物件はセキュリティや共用施設も充実しており、設備も最新です。しかし、人気が集中するため、募集が出てもすぐに埋まってしまいます。
つまり、「新築がない」のではなく「空かない」のが実情なのです。 そのため、希望条件を明確にしておき、気になるエリアの市場を常にウォッチしておくことが重要になります。
古い物件の魅力と注意点
ロンドンの建物の多くは築50年以上、中には100年以上経つものもあります。 外観はクラシックで美しく、天井が高く、歴史を感じる雰囲気を好む人も多いでしょう。 しかし一方で、古い建物には構造・設備上のリスクも伴います。
- 断熱性能が低く、冬は暖房費が高くなる
- カビ・湿気が発生しやすい
- 給湯・配管トラブルが起きやすい
- 窓やドアの建て付けが悪く、騒音や冷気が入りやすい
これらは入居前の内見時には見落とされがちですが、居住後にストレスになる要素です。 物件の雰囲気だけでなく、設備の更新履歴やオーナーのメンテナンス意識も確認しましょう。
契約前に確認すべき5つのポイント
- 築年数とリノベーション履歴:外見が綺麗でも内部配管が古い場合があります。いつリフォームされたかを確認。
- 退去理由:短期間で入れ替わっている場合、騒音や管理問題の可能性があります。
- 近隣環境:駅近でも夜間に騒音が多い、治安が悪いといったケースも。現地を昼夜で確認。
- 契約条件:デポジット(保証金)の扱い、光熱費やCouncil Taxの有無などを明確に。
- エージェントとの相性:質問に誠実に答えるか、圧力的でないかも判断基準です。
ロンドンの不動産文化:オーナー主導の市場構造
日本の賃貸市場では、借り手がある程度の交渉力を持つことが多いですが、ロンドンではオーナー主導の構造です。 家賃交渉や修繕要求は通りにくく、契約条件も貸主側が主導で決めるケースが一般的です。 そのため、契約前に自分の立場と条件を理解しておくことが重要です。
また、イギリスでは「Furnished(家具付き)」の物件が多く、家具はオーナーの好みで選ばれています。 新しく見えても使い勝手が悪い場合や、逆に古い家具が残されている場合もあるため、内見時に必ず確認しましょう。
現地で後悔しないための心構え
ロンドンで理想の住まいを見つけるには、短期間で多くの情報を処理し、即決しなければならない局面が多くあります。 しかし、スピード重視の中でも、次の3点を意識するだけで失敗を大きく減らすことができます。
- 「自分の基準」を持つこと:他人のおすすめではなく、自分の生活スタイルに合うかを軸に判断。
- 第三者の意見を聞くこと:知人や現地経験者、不動産経験者からの意見は非常に参考になります。
- 妥協の線を明確にすること:全ての条件を満たす物件は存在しません。譲れる部分を明確にしておきましょう。
まとめ:紹介=安心ではなく、自分の納得を基準に
多くの日本人がロンドンで不動産会社の紹介物件を選んでいますが、それが必ずしも悪い選択というわけではありません。 大切なのは、「紹介だから安心」ではなく「自分で納得して選んだから安心」という意識を持つことです。
情報の非対称性を理解し、質問を恐れず、複数の物件を比較する。 それが、異国の地で後悔しない不動産選びの最も確実な方法です。
ロンドンの不動産市場は難しく見えますが、基礎知識と判断力を持てば、きっと理想の住まいに出会うことができます。










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