ロンドンでは、返却用の固定ラックを持たない「ドックレス型」のレンタル自転車が歩道をふさぎ、高齢者や障害のある人の通行を妨げる問題が、公的にも取り上げられている。便利な移動手段が増えた一方で、その自転車を避けるために歩行者が苦労する。歩道を使う人からすれば、「なぜ、こんな状態が許されているのか」と感じるのは当然だ。London City Hall
この問題について、すでに障害者団体や自治体、ロンドン議会から声が上がっている。それでも改善が追いつかず、「誰も何も言っていない」ように見えてしまう。その背景には、歩道を確保する仕組みより先にサービスが広がり、管理のルールや責任が分かりにくくなっている現状がある。
歩道に置かれた自転車は、誰もが簡単に避けられる障害物ではない。車椅子やベビーカーでは通り抜けられない場合があり、視覚障害のある人には、そこに自転車があると気付くこと自体が難しい。
英国王立盲人協会(RNIB)が2024年11月、英国の登録視覚障害者405人を対象に行った調査では、13%が直近3か月間にドックレス自転車に衝突したと回答した。同団体は、歩道の障害物を避けるために車道へ出ざるを得なくなる危険も指摘している。「少し邪魔」という感想で済ませられる問題ではない。RNIB
借りた人は目的地まで便利に移動できても、返却後の自転車によって、別の人が安全に移動できなくなる。これでは、街全体の移動が便利になったとは言い切れない。
では、なぜ対応が進まないのか。公表資料から読み取れる大きな要因は、ロンドン全域を一体として管理する制度が、まだ整っていないことだ。
ロンドン市長は2026年9月29日、区ごとに異なる取り決めを、ロンドン全域の統一的な免許制度へ置き換える構想を発表した。台数管理、安全対策、不適切な駐輪への対応などを改善する方針だが、実施には政府による追加の法令整備などが必要とされている。London City Hall
さらに、シティ・オブ・ロンドンが同年10月7日に更新した案内では、新たな免許制度の導入見込みは「早くても2028年半ば」とされている。これは現時点の見通しだが、今日、歩道を通れず困っている人にとって、制度が完成するまで待つという話では納得しにくい。City of London
ただし、現在も対応できることはある。シティ・オブ・ロンドンでは、通行を妨げる自転車について、通報後90分以内に事業者が撤去しなければ罰則措置を取る場合があり、差し迫った危険がある場合には自治体が撤去できると説明している。こうした対応を、どれだけ確実に実行できるかが問われている。City of London
事業者の責任も、「利用者のマナー」で片付けるべきではない。
利用者が適切な場所に返却するのは当然として、事業者には、自転車が集中する場所を把握し、回収や再配置を行い、通行を妨げる状態を解消する運営が求められる。貸し出すところまででなく、返却後の管理まで含めてサービスとして成立させる必要がある。
この仕組みを歩行者の立場から見ると、利用者の利便性と、周囲が引き受ける不便との間に大きな偏りがある。料金を受け取るのは事業者でも、邪魔な自転車を避け、遠回りし、通報する手間を負うのは、そのサービスを使っていない人たちだ。通報が繰り返される場所では、住民からの連絡を待つ運営そのものを見直すべきだろう。
「環境に良い交通手段」という評価も、歩道の安全を後回しにする理由にはならない。自転車の利用を促進する政策であればこそ、歩いて移動する人の安全も、同じように守らなければ筋が通らない。
必要なのは、駐輪場所と管理能力に見合った台数で運営することだ。自転車を増やすなら、その前に安全な返却場所と回収体制を確保する。駐輪スペースを設ける際も、狭い歩道をさらに削り、車椅子やベビーカーが通れなくなる配置は避けなければならない。
指定場所への返却確認、混雑する場所からの再配置、通行を妨げる車両の迅速な撤去、繰り返し不適切な返却をする利用者への対応。こうした管理を、事業の基本的な費用として組み込むべきだ。回収に要した時間や、同じ場所で問題が再発しているかも公表すれば、改善が進んでいるのかを住民が判断しやすくなる。
歩道は、人が安心して歩ける場所であるべきだ。レンタル自転車を使う人の便利さを実現するために、歩く人が危険や不便を引き受け続ける状況を、当たり前にしてはいけない。
行政と事業者の対応は、対策を何回発表したかよりも、実際に歩道を安全に通れるようにしたかで評価されるべきだ。










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