イギリスNHSの見えない闇|無料医療の裏にある現実と制度疲労

イギリスのNHS病院とユニオンジャックを背景に、ひざまずく患者の影を描いたフラットイラスト。制度疲労と医療の闇を象徴。

イギリスNHSの“無料医療”の裏側

イギリスの国民保健サービス(NHS:National Health Service)は「誰でも無料で医療を受けられる」として世界的に知られています。 しかし、実際には完全な“無料”ではありません。 働いている人は毎月、給与からNational Insurance(国民保険料)を支払い、そのお金で制度が支えられています。 また、処方薬・歯科・眼科などは自己負担が必要です(イングランドでは薬1品につき約£9.90)。

一方で、働いていない人や低所得者でも、NHSの診察・治療を無料で受けることが可能です。 これは社会福祉の理念としては素晴らしい一方で、 医療を受ける目的でイギリスに滞在・移住する人々が増えていることも指摘されています。 現地では「医療制度が移民に悪用されているのではないか」という懸念の声も上がっています。

医療ミス・事故・看護師による暴力など、繰り返されるスキャンダル

BBCやThe Guardianなどの主要メディアでは、NHS内部の問題が定期的に報じられています。 過労による医療ミス・手術事故・誤診、さらには看護師による暴力や虐待が社会問題となっています。 しかし、こうしたニュースは数日間で報道が終わることが多く、根本的な解決には至っていません。

スタッフ不足・長時間労働・低賃金による制度疲労が原因で、 医療現場が限界を迎えているのが現状です。 NHS職員の離職率は上昇を続け、治療待機リストは過去最大規模に達しています。

がんの発見が遅れる理由

NHSでは、専門医を受診する前に必ず一般開業医(GP)を経由する必要があります。 この仕組みががんや重病の診断を遅らせる要因となっており、 「もっと早く検査していれば」と後悔する患者が後を絶ちません。 実際、イギリスのがん生存率はヨーロッパ諸国の中でも下位に位置しています。

報道によると、症状を訴えてから専門医に紹介されるまで数週間〜数ヶ月待たされるケースがあり、 病気が進行してからようやく治療が始まることもあります。 これが「NHSは無料だが遅い」と言われる最大の理由です。

実際にあった体験談

ロンドン在住の日本人留学生(30代・女性)は、腹痛でGPを受診しましたが、 「深刻ではない」と判断され痛み止めだけ処方されました。 しかし症状は悪化し、3週間後に別の病院で虫垂炎の破裂と診断され緊急手術を受けたといいます。 「もっと早く検査してもらえれば入院せずに済んだはず」と語っています。

このような「紹介が遅い」「診断まで待たされる」という体験談は、 現地のSNSやフォーラムでも数多く共有されています。

働く人だけが負担している?NHS財政の矛盾

NHSの財源は税金とNational Insurance(国民保険料)です。 働いている人は給与から保険料が自動的に天引きされますが、 働いていない人は支払い義務がありません。 それでも誰もが無料で診察・治療を受けられるため、 結果的に働く層が制度を支え、非労働層もその恩恵を受ける構造になっています。

この仕組みは社会的公正という理念に基づくものですが、 一部では「不公平ではないか」「制度の持続性に疑問がある」という声も出ています。 特に、医療目的で入国する一部の外国人によって、 医療資源が圧迫されているという見方も現地メディアで報じられています。

報道されても短期間で消える理由

BBCやThe GuardianなどがNHSの問題を報道しても、 多くは短期間でニュースが消えます。 NHSは「国の誇り」として政治的に守られているため、 根本的な批判や制度改革の議論が進みにくい構造があるといわれています。 問題があっても、国民の支持が高いため政治家が改革に踏み切れないのです。

“無料医療”の裏にある制度疲労

イギリスの医療制度は理想的である一方、財政と現場は限界に近づいています。 医療ミス・待機時間・診断遅延・不公平な負担構造──これらが積み重なり、 NHSの「見えない闇」が浮き彫りになっています。

もしイギリスで治療を受ける機会があるなら、 自分の症状を記録し、受診履歴を残すことをおすすめします。 「無料だから安心」と思い込むことこそ、最大のリスクかもしれません。

出典:BBC News / The Guardian / NHS England Reports / OECD Health Data(公的統計および報道内容を基に作成)

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