イギリスに住んでわかる「天気」の重み——雨とともに暮らす国のリアル

「イギリスは雨が多い国」。そんなイメージを持っている人は多いでしょう。観光ガイドにも必ずと言っていいほど「折りたたみ傘は必需品」と書かれています。けれども、実際に住んでみると、この「雨が多い」という気候的特徴が、単に「湿っぽい」というだけでなく、人々の生活、精神状態、文化、そして家族の時間にまで大きな影響を与えていることに気づかされます。

今回は、イギリスに住んで数年になる筆者が、現地で感じた「天気の重み」について、特に雨と家族行事、そしてイギリス人の心のありように焦点を当てながら考察してみたいと思います。


雨が多いのに、意外と「雨天中止」はない

まず驚かされるのが、イギリスでは「雨天中止」という発想があまりないということ。これは決して、雨が降らない日を選んでイベントを行うからではありません。むしろ逆。ほとんどの行事が「雨天決行」です。

例えば子どもの学校行事や地域のフェスティバル、フリーマーケット、チャリティーイベントなど、ほぼすべての催し物が雨でもそのまま実施されます。理由はシンプル。中止にしていたら何もできないからです。

イギリスの天気は「一日に四季がある」と言われるほど変わりやすく、朝晴れていても午後から急に土砂降りになることも珍しくありません。天気予報も外れることが多く、前日から中止や延期を決めるのは現実的ではないのです。

また、そもそもイギリス人にとって「小雨」や「霧雨」は雨のうちに入らないという感覚すらあります。日本で言えば、「今日は曇り時々雨ですね」と言いたくなるような天気でも、彼らにとっては「Just cloudy(ただの曇り)」です。傘を差さずにフードを被って歩く人、コートだけで歩く人が大多数。強い風と横なぐりの雨でなければ、イベントは通常通り行われるのが当たり前です。


家族行事は「雨天決行」が基本

筆者の家でも、イギリス人のパートナーの家族との行事がたびたびあります。誕生日会、イースターのピクニック、夏のガーデンパーティーなど、どれも自然の中で過ごすのが恒例です。最初のうちは「天気予報で雨だし中止かな?」と思っていたのですが、どうやらそういう考え自体がナンセンスだったようです。

一度、4月のイースターに湖のほとりでピクニックをしたときのこと。気温は5度程度、小雨がぱらつき、地面はぬかるんでいました。しかし義母は笑顔で「Just bring your wellies!(長靴を履いてきてね)」と連絡してきました。

現地に着くと、すでに家族が折り畳みテーブルとチェアを広げ、ポットに入った紅茶を飲んで談笑していました。子どもたちはレインコートを着てイースターエッグを探し、犬たちは泥だらけになってはしゃぎ回っている。まさに「雨天決行」、いや「雨も風情の一部」と捉えるイギリス流です。


天気とともに変わる人々の表情

一方で、イギリスにおいて「天気」が人々の心に与える影響は非常に大きいという側面もあります。特に冬の長く暗い日々は、ただ寒くなるだけでなく、街の雰囲気自体がどんよりと沈みがちです。

11月から3月にかけてのロンドンやマンチェスターなどでは、朝8時でもまだ真っ暗。午後3時過ぎには日が暮れます。しかもその間ずっと小雨や曇天。光の少なさと湿気で、家の中もなんとなく冷え冷えとした感じになります。

この時期、人々の表情から笑顔が少なくなるのも事実です。スーパーのレジでも無言の人が増え、街ゆく人々も急ぎ足。パブに行っても、「なんだか今日は静かだね」と感じる日が多くなります。

日本の冬は晴天が多く、空気も乾燥しているため、寒くても心は明るい印象を持てる日が多いのですが、イギリスでは空が低く、常に「グレー」のフィルターがかかっているような気分になります。


日光のありがたみを思い知る日々

そのため、イギリスで生活していると、晴れの日の貴重さを実感します。ちょっとでも太陽が顔を出すと、街全体が活気づき、人々が自然と外へ出ていく様子が見てとれます。

晴れた週末には、公園があっという間に人で埋まり、カフェのテラス席はすぐ満席に。みんなが空を見上げ、「Beautiful day!(いい天気ね!)」と笑顔で挨拶を交わします。

お年寄りも若者も、ピクニックマットを持って芝生に寝転がり、ビールや紅茶を片手に太陽を浴びます。冬の間ずっと閉ざしていた心が、一気に解放されるような、そんな雰囲気が街に満ちるのです。


「天気」とともに暮らすということ

イギリスでの生活は、「自然とともに生きる」という感覚を強く意識させられる日々です。日本では、屋内の快適な環境が整い、天気に左右されず生活できる部分が多い一方、イギリスでは天候がダイレクトに暮らしに影響します。

けれどもその分、イギリス人の自然への接し方、柔軟な心持ち、そして「どうしようもないことを受け入れる」精神力には、見習うべきものがあると感じます。雨が降ったら長靴を履いて外に出る、曇りの日もジョギングに行く、子どもたちを自然の中で遊ばせる。そんな「雨と共に生きる」文化は、決して消極的な適応ではなく、むしろ積極的な人生の楽しみ方なのかもしれません。


終わりに:イギリスの天気が教えてくれたこと

イギリスに住んでみて、天気が人に与える影響、そしてそれをどう受け止めるかという姿勢について、多くのことを学びました。雨は避けられない。ならば、その中でもできることをやる。それがイギリス人の生き方です。

そして、冬の暗く冷たい雨の日に人々の笑顔が少なくなっても、春の一瞬の晴れ間に見せるあの心からの笑顔こそが、この国の人々の本質なのだと感じています。

雨の多い国だからこそ、晴れを尊び、天気に合わせて暮らす知恵がある。そんなイギリスの生活に触れながら、私たち自身の「天気との向き合い方」も見直してみる価値があるかもしれません。

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