
日本で「ちょっと気晴らしに行こう」といえば、バッティングセンターで豪快に球を打ち飛ばしたり、カラオケで喉が裂けるまで歌い上げたり、あるいは温泉で心身をゆだねたりと、選択肢は多い。
しかし、イギリスに住んでいると気づく。「あれ……? ここには打つものも歌うものも湯もない……」
イギリス人の気晴らし、意外と多彩
ただ、そこで早合点してはいけない。イギリス人も決して「パブとぬるいビール」だけで人生をやり過ごしているわけではない。たとえば――
- ナショナルトラストの庭園巡り
週末は郊外にある歴史ある庭園や屋敷を散策するのが大人気。芝生の上を歩きながら「イギリスはガーデニングの国だな」としみじみする。 - ハイキングやコーストウォーク
湖水地方やコーンウォールの断崖を歩くのは、イギリス流のリフレッシュ方法。靴が泥まみれになる頃には、心の澱(おり)もなぜか洗われている。 - フットボール観戦
これは言うまでもない。90分間、大声で歌い叫び、知らない隣人と肩を組む――これ以上のストレス発散はないかもしれない。 - シアターやコンサート
ロンドンならウエストエンドのミュージカル、地方都市でも小劇場やライブハウスが盛況。芸術鑑賞は酒なしでも酔える。
そして私はまたパブにいる
――そう、人々は自然や文化に親しんで健やかに暮らしている。なのに私はどうだろうか。
「ちょっと気晴らしに」と思いつく先は結局パブ。
ドアを開ければ、温(ぬる)くて茶色いエールが待っている。口に含み、「これは文化だ」と自分に言い聞かせるけれど、気づけば3杯目。
ああ、他のイギリス人が庭園で鳥のさえずりを聞いている間、私はまた木製カウンターに肘をついて、バーテンに「Same again?」と聞かれている。
「Yes, please」と答えながら、胸の奥でつぶやく――
これが私の気晴らしでいいのか……
結論:パブもまたイギリス文化
とはいえ、悲しみを込めて言わせてもらおう。
イギリスの気晴らしは確かに多彩だ。だが、人生に迷ったとき、週末に行き先が思い浮かばないとき、結局最後に行き着くのはパブである。
だから私は今日もぬるいビールを傾ける。
庭園にも行かず、断崖も歩かず、スタジアムの歓声を背にしながら――。
「Cheers!」
そう乾杯するしか、気晴らしの術を知らない悲しい日本人がここにいる。
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