多文化社会における暮らしと選択
イギリスではクリスマスが国民的行事として深く根づいていますが、すべての人が宗教的理由でクリスマスを祝うわけではありません。人口の多様化が進むなかで、宗教上の理由から祝わない人々の姿もはっきりと見えるようになってきました。
1. イギリスの宗教的多様性
イギリスは歴史的にキリスト教国ですが、近年は多文化化が進み、イスラム教、ヒンドゥー教、シク教、仏教、ユダヤ教など、さまざまな宗教を背景とする人々が暮らしています。
代表的にクリスマスを宗教的理由で祝わない人々には以下のコミュニティが含まれます。
- イスラム教徒(Muslims)
イエスを預言者として認める一方、キリスト降誕の宗教的祝祭としてのクリスマスは祝わない。 - ユダヤ教徒(Jewish people)
ハヌカー(光の祭典)が同時期に行われるが、キリスト教の祝祭であるクリスマスとは宗教的に関わらない。 - ヒンドゥー教徒(Hindus)・シク教徒(Sikhs)・仏教徒(Buddhists)
それぞれの宗教行事や新年祝いを持つため、宗教的な意味でのクリスマスは祝わない。 - 無宗教層(Non-religious)
宗教的理由というより、信仰を持たないためクリスマスを宗教的行事として捉えない層も多い。
2. “祝わない”にも多様な形がある
宗教的に祝わなくても、イギリスではクリスマスが社会生活に密接に結びついているため、その過ごし方はさまざまです。
(1)宗教的には祝わないが、文化的イベントとして楽しむ人々
特に若い世代や移民2世・3世には、宗教的なタブーがない範囲で
- プレゼント交換だけ参加する
- クリスマスディナーや忘年会に出席する
といった“文化としてのクリスマス”を楽しむ人が多い。
(2)完全に距離を置く人々
一方で、宗教上の理由から
- クリスマスイベントに参加しない
- クリスマスツリーや飾りを置かない
- キリスト教由来の歌や儀式を避ける
といった選択をする家庭もある。
学校や地域社会もこの選択を尊重する傾向が強まっている。
3. 学校・職場での配慮
イギリスでは宗教・文化の違いを尊重する方針が広く定着しており、学校や職場でも多様な対応がなされている。
- 学校行事では、参加が任意であることを明記したり、宗教的な側面を弱めた「ウィンター・フェスティバル」として開催することもある。
- 職場では、クリスマスパーティーが必須参加にならないよう配慮する企業が増えている。
4. 祝わない人が直面するプレッシャー
クリスマスが国民的な行事であるため、祝わない人は時に以下のような社会的プレッシャーを感じることがある。
- 「どうして祝いないの?」という質問への頻繁な対応
- 子どもが学校行事で“少数派”として扱われる経験
- 「メリークリスマス」と挨拶されることへの戸惑い
イギリス社会は全体として寛容だが、無意識の前提がキリスト教中心になる場面も残っている。
5. 多様な選択が尊重される社会へ
移民の増加や世俗化の進行により、クリスマスの捉え方は宗教的意味から文化的行事へと広がりつつある。
その一方で、宗教的背景に基づいて“祝わない”人々も尊重されるのが現代のイギリスだ。
イギリス社会は、個々の宗教的背景を汲み取りながら「強制しない」「選択を尊重する」という方向へ進化しており、クリスマスをめぐる価値観の多様性は今後さらに広がっていくと考えられる。










Comments