イギリス、ついに不動産バブル崩壊か?1日3,000件超の値下げが示す住宅市場の異変

「この価格で売れるはずだ」。イギリスの住宅市場で、そんな売主の期待が買い手の予算とぶつかっている。売り出したものの買い手がつかず、広告の価格を引き下げる物件が相次いでいるのだ。

2026年10月19日の英紙報道によると、不動産情報サイトRightmoveの集計で、9月にイングランド・スコットランド・ウェールズで売出価格を引き下げた物件は、1日平均3,000件を超えた。月ごとの件数としては15年ぶりの多さだ。販売中の物件の約34%に値下げ履歴があり、平均の引下げ幅は約7%に達したという。thesun.co.uk

50万ポンドの物件なら、7%は3万5,000ポンドに当たる。売主にとって軽い修正ではない。しかし、この数字を「英国の住宅価格が全国で7%暴落した」と読むと、実態を見誤る。

今回の数字は、売主が広告に掲載した希望価格を変更したものだ。最初の価格設定が高すぎた場合も含まれるため、値下げ幅がそのまま物件価値の下落率や売却損を表すわけではない。重要なのは、その価格で実際に売れたかどうかである。

全国の指標を並べると、値下げラッシュの一方で、価格が一斉に崩れているとまではいえない姿が浮かぶ。

指標対象時期価格の動き
Rightmoveの新規売出物件の平均希望価格2026年10月37万1,015ポンド。前月比1.0%上昇、前年比0.1%下落。Property news
Nationwideの住宅価格指数2026年9月前月比0.2%下落〈季節調整後〉、前年比0.8%上昇。Nationwide for Intermediaries
ONSの英国全体の平均住宅価格2026年7月前年比1.4%上昇。Office for National Statistics
ONSのロンドンの平均住宅価格2026年7月前年比3.3%下落。Office for National Statistics

各指標は対象時期や集計方法が異なる。Rightmoveの希望価格と、実際の売買に基づくONSの価格は、同じものを測っているわけではない。

10月の新規売出価格が上がっていても、すでに販売中の物件の値下げが多いことと矛盾しない。対象となる物件が違ううえ、新規物件の平均価格は季節や物件構成にも左右される。売主が提示する価格と、買い手が受け入れる価格の間に、どれだけ隔たりがあるかが問題になる。

買い手の財布を圧迫しているのが住宅ローンだ。Rightmoveの10月の報告では、平均2年固定金利は5.55%。前月の5.29%から上がり、2月の金利上昇前の水準である4.25%を大きく上回っている。Property news

同じ金額を借りても、金利が高ければ毎月の返済は重くなる。買いたい人がいても、希望する住宅に手が届くとは限らない。売主が過去の高値を基準に価格を決めても、買い手は現在の収入と返済額から予算を決める。その差を埋めるために、価格の修正が必要になる。

さらに、買い手が比較できる物件も増えている。Rightmoveによれば、販売中の住宅数はこの時期として2014年以来の高水準にある一方、購入希望者から仲介会社への問い合わせは前年より9%少なく、売買合意件数も8%少ない。Property news

選択肢が多ければ、買い手は一つの物件を逃すことへの焦りを感じにくくなる。同じ地域、似た広さ、似た状態の物件を比べ、価格が合わなければ次を探す。こうした環境では、「少し高く出して様子を見る」という売主の判断が、販売の長期化につながりやすい。

実際、今回報じられたRightmoveのデータでは、値下げした物件が買い手を見つけるまでの期間は平均119日。値下げしなかった物件の39日を大きく上回った。ただし、これは値下げが売却を遅らせたという因果関係を示すものではない。もともとの価格設定や物件の条件も影響している可能性がある。thesun.co.uk

ロンドンでは、全国平均以上の弱さが見える。ONSによると、7月の住宅価格は前年同月比3.3%下落し、前年割れは11か月連続だった。英国全体が同じように下がっているわけではないが、首都では実際の売買に基づく指標にも下落が表れている。Office for National Statistics

一方、売却価格が弱くなれば、家賃もすぐ下がるとは限らない。ONSの統計では、英国の民間賃料は8月に前年同月比3.8%上昇した。購入のための借入れが難しくても、住む場所への需要は残る。住宅価格の下落が、そのまま住居費全体の負担軽減につながるとはいえない。Office for National Statistics

では、これが不動産バブル崩壊の始まりなのか。

現時点のデータから読み取れるのは、売主の希望価格をそのまま受け入れる力が市場で弱まり、価格調整の圧力が強まっているということだ。ただし、値下げ物件の割合は約34%で、2023年9月の36%を下回る。件数が15年ぶりの多さであることと、値下げの割合が過去最高であることは別である。thesun.co.uk

全国的な崩壊かどうかを判断するには、今後、成約価格の下落がどこまで広がり、どれほど続くのかを見る必要がある。失業や返済難による売却が増えるのか、融資条件が厳しくなるのかも重要だ。反対に、返済負担が軽くなり、売主が買い手の予算に合う価格を設定すれば、取引が戻る余地もある。

1日3,000件超という数字が突きつけているのは、「売りたい価格」を掲げるだけでは売れない現実だ。不動産バブルの崩壊を断定するには早い。それでも、過去の相場観に頼って買い手を待つ売主には、厳しい市場になっている。

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