
「イギリス人って冷たいお茶を飲まないんでしょ?」
そんな話を耳にして、ちょっと不思議に思ったことはありませんか?暑い夏の日、冷蔵庫でキンキンに冷やした麦茶やアイスティーで喉を潤すのが当たり前の私たち日本人にとって、冷たいお茶を飲まないというのは、どこか非日常的に感じるかもしれません。
実際にイギリスに住んでみると、その話があながち嘘ではないことに驚かされます。スーパーでペットボトル入りのアイスティーを探しても、あまり種類がなく、しかも「やたら甘い」「お茶っぽくない」なんて評判を耳にすることもしばしば。どうやらイギリス人にとって「tea」とは、温かくてミルク入り、いわゆるミルクティーのことを意味しているようです。
では、そんな彼らは真夏の暑い日、何を飲んでいるのでしょうか?
そしてなぜ冷たいお茶を飲まないのでしょう?
この記事では、イギリス人の飲み物文化を紅茶を中心に掘り下げながら、冷たいお茶が根付かない理由や代わりに愛されている飲み物、さらには歴史的背景や気候の違いまで、じっくりと深掘りしていきます。
紅茶は「文化」以上の存在:イギリス人にとっての“Tea”とは?
紅茶といえば、やはりイギリス。
それもそのはず、イギリス人の紅茶消費量は世界トップクラス。人口比で見ても、日本の何倍もの量を日常的に飲んでいます。
しかし、その飲み方にはこだわりがあり、日本で見られるようなレモンティーやストレートティー、ましてやアイスティーはあまり一般的ではありません。
多くのイギリス人が日常的に飲んでいるのは、温かい紅茶にミルクをたっぷり注いだ「ミルクティー」。しかも、それはティーポットで優雅に淹れる特別な飲み物ではなく、日々の生活に溶け込んだ“必需品”のような存在です。
「ティーブレイク」は働く人のオアシス
例えば、職場でも学校でも、イギリスでは**“tea break”**という文化が定着しています。
これは日本でいう「コーヒーブレイク」に近いものですが、重要なのは「お茶(=ホットティー)で一息つく」という点。オフィスにケトル(電気ポット)があるのはごく普通で、誰かが淹れるたびに「お茶いる?」と声をかけ合うのが日常です。
紅茶は、単なる飲み物ではなく人とのコミュニケーションをつなぐ潤滑油のような存在なのです。
アイスティー文化が根付かない理由
では、なぜ冷たいお茶、いわゆる「アイスティー」はイギリスであまり人気がないのでしょうか?
その理由はいくつかあります。
1. 「冷たいお茶=変わり種」という認識
イギリスの一般的な家庭では、冷蔵庫にお茶を常備しておく習慣がありません。
たとえ紅茶を冷やしたとしても、それは紅茶の“あるべき姿”とは異なるという感覚があるのです。
スーパーでもアイスティーは売られていますが、ほとんどがフレーバーティー(レモンやピーチ風味)で、しかも甘味が強め。自然な味わいの無糖のアイスティーはほとんど見かけません。
紅茶とは、あくまで熱々のお湯で淹れ、ミルクと砂糖を加えて飲むもの。
このスタイルが根強いため、冷たいバージョンが「お茶っぽくない」「なんだかチープ」と感じられるのです。
2. 気候が違う——「そもそも冷たい飲み物が必要ない」
もう一つ大きな理由が、イギリスの気候です。
ロンドンの真夏の平均最高気温はだいたい25〜28℃程度。湿度も低く、日陰に入れば涼しい。汗が滝のように流れる日本の蒸し暑さとはまったく異なり、「のぼせるような暑さ」を感じることはそれほど多くありません。
そのため、体を冷やすための冷たい飲み物の需要そのものが少ないのです。
日本のように麦茶を一晩で1リットル消費する、というような生活は、イギリス人からするとちょっと不思議に見えるかもしれません。
じゃあ、イギリス人は夏に何を飲んでいるの?
では、そんなイギリスの人々が、夏の暑い日に選ぶ飲み物とは何なのでしょうか?
いくつか定番のドリンクを見てみましょう。
1. 炭酸水&フレーバーウォーター
最も一般的なのはスパークリングウォーター(炭酸水)。
最近はレモンやライムなどの風味がついた「フレーバーウォーター」も人気で、健康志向の人を中心に広く飲まれています。糖分ゼロのタイプも多く、暑い日にゴクゴク飲んでも罪悪感なし。
2. レモネード
昔ながらの定番といえばレモネード。イギリスではレモネードというと、甘めの炭酸入りの飲み物を指します。日本でいう「三ツ矢サイダー」にレモンが入ったような感覚です。
冷たくてシュワっとしていて、子どもから大人まで愛されています。
3. フルーツジュース&スムージー
夏になると増えるのが、ベリー類を中心としたスムージー。イチゴやブルーベリー、バナナをベースにした冷たいドリンクは、朝食代わりにもなり、栄養も満点。
特にロンドンなどの都市部では、ヘルシー志向の人々に人気があります。
4. ピムス(Pimm’s):イギリス式「大人の夏ドリンク」
夏の特別な日といえば、イギリス人の“夏の風物詩”とも言えるのがピムス(Pimm’s)。
ピムスはハーブと果物で風味付けされた甘いリキュールで、ソーダで割り、たっぷりのフルーツやミント、キュウリなどを加えて飲みます。ピクニックやガーデンパーティーの定番で、「これを飲まなきゃ夏が始まらない!」という声も。
見た目も華やかで、SNS映えすることから若者にも人気のあるドリンクです。
「暑い時こそホットティー」の不思議な習慣
中には「暑くてもホットティーを飲むよ」というイギリス人も。これには驚くかもしれませんが、実は理屈があります。
人間の体は、熱い飲み物を摂取すると一時的に体温が上がり、それを下げるために発汗が促される仕組みがあります。つまり「暑い時こそ熱い飲み物を飲んで汗をかく」ことで、結果的に体温が下がる、という考え方です。
この理論は、暑い地域のインドや中東でも共通しており、同様に熱いチャイやミントティーが愛飲されています。イギリス人の中にはこの理屈を信じて、「とにかくティーが好きだから」という理由を超えて飲み続けている人もいるようです。
お茶を「飲まない」のではなく「飲む必要がない」
結局のところ、イギリス人が冷たいお茶を飲まないのは、「嫌いだから」でも「知らないから」でもありません。
それは単に「そこまで冷たいお茶を欲する機会が少ない」からなのです。
つまり——
❝冷たいお茶を飲まない理由は、「飲まない」のではなく「飲む必要がない」から❞
この一言に尽きるのかもしれません。
まとめ:紅茶とともに生きる国の「飲み物哲学」
イギリス人にとって、紅茶は単なる飲み物ではありません。
それは文化であり、会話であり、時には心の安定剤です。
だからこそ、冷たいバージョンの「お茶」にはあまり興味がない。気候も違えば、生活リズムも違う。私たちが麦茶やアイスティーで乗り切る夏を、彼らはフルーツジュースやピムス、そして何よりホットティーで過ごすのです。
文化の違いを知ることは、その国の人々の価値観を理解すること。
あなたも次に紅茶を飲むとき、ちょっとだけイギリス流を意識してみてはいかがでしょうか? きっと、新しい発見があるかもしれません。
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