イギリスに四季はあるのか?―春夏秋冬の境目を探る

「イギリスには四季があるのか?」と問われると、多くの人は「あるにはあるが、日本のようにはっきりしていない」と答えるかもしれない。確かに日本では桜の開花とともに春を感じ、梅雨が明ければ夏が始まり、紅葉や落ち葉で秋を知り、雪景色に冬を見出す。しかしイギリスでは、四季の移ろいはより緩やかで、かつ文化や地域、場合によっては「気分」によってもその境目が曖昧になる。本稿では、イギリスでの四季の定義について、天文学的・気象学的・文化的な視点から整理し、「公式」あるいは「実際」の春夏秋冬の始まりと終わりを検証してみたい。


1. 二つの暦 ― 天文学と気象学の定義

イギリスにおける四季の区切り方には、大きく分けて二つの「公式」が存在する。

  1. 天文学的定義(astronomical seasons)
    地球の公転に基づき、昼夜平分時(春分・秋分)や至点(夏至・冬至)を基準にするもの。
    • 春:春分の日から夏至の前日まで(3月20/21日頃〜6月20/21日頃)
    • 夏:夏至の日から秋分の前日まで(6月21日頃〜9月22/23日頃)
    • 秋:秋分の日から冬至の前日まで(9月23日頃〜12月21/22日頃)
    • 冬:冬至の日から春分の前日まで(12月21日頃〜3月19/20日頃)
    これは世界的に用いられる学術的な区切りであり、天文学的な正確さを重んじる。
  2. 気象学的定義(meteorological seasons)
    統計や観測の利便性から、月単位で区切る方法。
    • 春:3月1日〜5月31日
    • 夏:6月1日〜8月31日
    • 秋:9月1日〜11月30日
    • 冬:12月1日〜2月28/29日
    イギリス気象庁(Met Office)もこちらを使うことが多い。気温や降水量の平均を比較する際に便利だからである。

つまり、イギリスにおける「公式の季節」は一つではなく、科学的背景によって二通りのものが併存しているのだ。


2. 春 ― 芽吹きとイースター

天文学的春の始まり

天文学上、春は3月20日頃の春分から始まる。しかしイギリスの人々にとって、春の実感はしばしばそれよりも早い。雪が溶け、庭のクロッカスやスノードロップが咲くのは2月末から3月初め。イースター(復活祭)前後にかけて、街は「春めく」印象を強く帯びる。

気象学的春

気象庁の定義では3月1日から春。平均気温がようやく上向き、日照時間も長くなるが、日本人の感覚からするとまだ「寒い」。ロンドンでも朝晩は氷点下になることがあるし、スコットランドでは雪が残る地域もある。

文化的春

イギリスの春の象徴は、庭に現れるラッパスイセン(daffodil)やブルーベル。これらが咲き誇ると、人々は確かに「春が来た」と感じる。また、サマータイム(英国夏時間)への移行が春の合図でもある。3月最終日曜日、時計を1時間早めると、「日が長くなった」と実感する人は多い。


3. 夏 ― 白夜の余韻と雨のフェスティバル

天文学的夏

夏至(6月21日頃)に始まる。ストーンヘンジでは夏至の朝、太陽が石の間から昇る瞬間を祝う人々が集う。とはいえ、「夏至が夏の始まり」という感覚はあまり強くなく、むしろ「一年で一番日が長い日」として特別視される。

気象学的夏

6月1日から8月31日まで。観測統計上は確かに「夏」だが、気候は必ずしも安定しない。30度を超える猛暑日もあれば、冷たい雨に見舞われる週もある。イギリス人が「夏の天気は信用できない」と口をそろえるのはこのためだ。

文化的夏

夏といえばフェスティバル。グラストンベリー音楽祭、ウィンブルドン選手権、プロムス(BBC Proms)などが6〜8月に集中する。学校も7月後半から長期休暇に入る。海辺の町ブライトンやコーンウォールは観光客で賑わう。もっとも、曇天やにわか雨はつきもので、傘やレインコートを持参するのが「イギリス流の夏の過ごし方」である。

夏の終わりはいつか

人々が「夏が終わった」と実感するのは8月末のバンクホリデー(祝日)が過ぎる頃。学校が再開し、朝晩が肌寒くなると、夏の幕引きが感じられる。したがって「イギリスの夏の終わり」は、公式には8月末(気象学的)あるいは9月22/23日頃(天文学的)だが、文化的には8月最後の週末が実感に近い。


4. 秋 ― 短い収穫の季節

天文学的秋

秋分(9月23日頃)に始まる。昼夜の長さが再び釣り合う時期で、以降は夜が長くなる。

気象学的秋

9月1日から11月30日まで。ただしイギリスの秋は短いとよく言われる。9月はまだ「夏の残り香」が漂い、11月に入るとすでに冬の気配が濃くなるからだ。

文化的秋

イギリスの秋の象徴は、紅葉というより収穫祭やハロウィン。リンゴの収穫やサイダー作りが盛んになる。10月末のハロウィンや11月5日のガイ・フォークス・ナイト(花火大会)は、暗さを逆に楽しむ祝祭でもある。また、大学の新学期(Michaelmas term)が始まるのも秋であり、多くの家庭にとっては「生活のリズムが変わる季節」だ。


5. 冬 ― 長い夜とクリスマスの灯り

天文学的冬

冬至(12月21日頃)に始まる。一年で最も日が短い日で、ロンドンでも16時前に日没を迎える。

気象学的冬

12月1日から2月末まで。クリスマスシーズンは賑やかだが、1月から2月にかけては本格的な寒さと暗さが続く。スコットランドでは雪が積もり、イングランド南部でも氷点下の朝が珍しくない。

文化的冬

イギリス人にとって冬の最大の行事はクリスマス。家々にイルミネーションが灯り、マーケットやキャロルで華やぐ。しかし年が明けると「冬の本番」が訪れる。寒さと長い夜を乗り切るため、人々は家で暖炉や紅茶とともに過ごす時間を大切にする。


6. まとめ ― イギリスの四季は「緩やかなグラデーション」

日本のように桜や紅葉が明確な境目を示す国と比べ、イギリスの四季は曖昧である。公式には天文学的・気象学的な定義があるが、実際に人々が「春だ」「夏だ」と感じるのは花の開花、行事、学校の休暇、あるいは「今日はもう肌寒い」といった生活感覚による部分が大きい。

  • 春:クロッカスやイースターの頃(3月)
  • 夏:フェスティバルやバカンスの頃(6〜8月)
  • 秋:収穫祭や学期開始(9〜10月)
  • 冬:クリスマスと長い夜(12〜2月)

したがって「イギリスの夏の終わりはいつか」という問いに対しては、公式には9月22/23日頃だが、文化的には8月末のバンクホリデー以降と答えるのがもっとも妥当だろう。

イギリスの四季は、暦や気候よりも「文化と感覚」で色づけされている。緩やかなグラデーションの中に、イギリス人の暮らしのリズムと歴史が息づいているのだ。

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