
1. はじめに─背景と目的
イギリスでは、所得格差や教育格差が人種・民族背景によって大きく異なることが知られています。本稿では、国の主要統計や研究成果をもとに、「高学歴・高収入層が特に多いのはどの人種なのか」、また背景や要因について掘り下げます。
ポイントは次の通り:
- 学歴(GCSE・大学・大学院等)と就業状態
- 所得・収入の実態
- 人種での違いと背景
- 社会的含意と今後の課題
2. 学歴の面から見る人種間差
GCSE(Key Stage 4)の成績
2022–23年のGCSE(Attainment 8)成績では、人種ごとに明らかな差が現れています。
- 中国系:65.5点(男子63.6/女子67.6)
- インド系:59.4点
- 白人(White British):平均43〜47点
- ジプシー・ロマ(Gypsy/Roma):最低水準(約20点)ifs.org.ukethnicity-facts-figures.service.gov.uk+1thetimes.co.uk+1education.ox.ac.uk+5en.wikipedia.org+5en.wikipedia.org+5
特筆すべきは、中国系とインド系の成績が突出しており、白人平均に比べて10~20点以上の差があります。これは高等教育進学にも大きな影響を与えています。
大学進学率と進学先
イギリスの上級教育(二次教育後の進学)では:
- 中国系・インド系・ブラックアフリカ系出身の進学率が最も高く、
- 対して、ブラックカリブ系は名門大学進学が少ない傾向があることが報告されています。
また、大学卒業後の“5年後の持続的就業率”を見ると、
- 白人とインド系がいずれも約88%、
- ブラックキャリアビアン系・アラブ系は12%以上が「継続的就業なし」ons.gov.uk+10ethnicity-facts-figures.service.gov.uk+10ons.gov.uk+10。
このことから、学歴と就業の相関が強く、人種間で明らかな格差があると分析できます。
3. 高収入への道筋と実態
学歴と収入の関係(25–29歳)
2019–21年における25~29歳のデータでは、学歴によって収入に大きな差があることが明らかになっています。
- 修士以上が63%多く稼ぎ、
- 学士号保持者でも54%多く得ている。
さらに人種別では以下の傾向:
人種 | 学士所持者の平均時給(£/h) |
---|---|
白人(British) | £12.95 |
インド系 | £13.26 |
中国系 | £13.07 |
ブラックアフリカ系 | £13.67 |
バングラデシュ系 | £9.66 |
(非学位保持者は一律£8.8~£11.1程度)ethnicity-facts-figures.service.gov.uk+13social-mobility.data.gov.uk+13ethnicity-facts-figures.service.gov.uk+13
つまり、学歴を得た上でさらに収入差が人種によって残る構図が読み取れます。
中央所得層への集中と上位分位への占有
IFS(Institute for Fiscal Studies)によると:
- **インド系は上位所得20%に約25%**が含まれ、
- 白人はそれ以下、
- パキスタン・バングラデシュ系は20分の1以下という極端な分布commonslibrary.parliament.uk+6ifs.org.uk+6en.wikipedia.org+6en.wikipedia.org。
ONSの報告では、ブラック系は「常に白人より中央値が低い」が、
その他マイノリティには上回るケースも見られるons.gov.uk+1commonslibrary.parliament.uk+1。
特に、中国系・インド系は高い所得層に多く、パキスタン系等は低い傾向があります。
4. 資産(ウェルスマネー)と職業構成の差異
資産格差
ビノミアル・インディケーター(ONS, Wikipediaより):
- インド系世帯資産中央値:約£347,000
- 白人:£324,000、パキスタン・バングラデシュ系は約£232,000程度en.wikipedia.org。
この格差は資産形成力の違いを反映し、次世代への影響も見逃せません。
職業階級の分布
- インド系労働者の約43%が「プロフェッショナル/管理職」
- 白人:31%、ブラック系・パキスタン/バングラデシュ系は27~25%en.wikipedia.org+1ethnicity-facts-figures.service.gov.uk+1
職業グレードがそのまま所得に直結する構造です。
5. なぜ格差が生じるのか?背景と要因
以下の要因が複雑に絡んでいます。
- 教育文化の違い:文化的に「教育信仰」が強い中国系・インド系家庭では、子どもの進学・成績に非常に高い期待値があります。
- 出生時の経済状況:パキスタン・バングラ入出身は相対的に貧困率が高く(BMEは白人より2.5倍の貧困率)
- 構造的障壁:人種別賃金格差は根深く、異なる教育背景でも賃金に差が残ることがある。
- 社会的ネットワーク:インド系が職業ネットワークに強みを持ちやすい環境もあります(資本や人的繋がり)。
6. 白人とは一括りにできない実態
近年、教育・所得における白人内部の分断が注目されています。
- 白人英国人(White British)全体では平均的に見劣りしないが、
- 白人労働者階級やジプシー・ロマは貧困の最前線にいるons.gov.uk。
- 特に「白人労働者階級の無料給食受給者」は最下位層に位置し、大学入学率も低下傾向にあります。
教育や所得を巡るディスパリティは、人種だけでなく階級・地域・経済背景との複合的問題となっているのです。
7. コラムまとめ:人種別の高学歴・高収入の実態
結論を以下に整理します。
- 高学歴比率は、中国系 ≧ インド系 > ブラックアフリカ系 > 白人 > パキスタン/バングラデシュ系。特に、GCSE や大学進学率では中国系が突出。
- 高収入層(上位20%)の比率は、インド系(約25%)>白人>パキスタン・バングラ・ブラック系
- 収入中央値・時給では、中国・インド・ブラックアフリカ系が白人英国人をやや上回る傾向。ただし、学歴がない場合は逆転するケースも存在
- 資産面でもインド系がトップで、白人が中間層、ブラック・パキスタン系が下位層。
- 白人の内部格差も非常に深刻で、「白人労働者階級」やジプシー・ロマでは高学歴・高収入との距離が顕著。
8. 含意と今後の展望
- ポリシー設計の必要性
学歴・収入格差を是正するには、人種や階級ごとの 多層構造への対応が不可欠です。
特に欧州でも「白人労働者階級の低学歴・低収入」が新たな焦点となりつつありますons.gov.uk+3education.ox.ac.uk+3thetimes.co.uk+3。 - 社会統合の視点
在住少数民族が高学歴・高収入に至る一方で、貧困層との乖離が進む構図には社会的緊張が伴います。 - 政策投資の方向性
- 初期教育と大学進学支援の強化
- 職域と地域格差への投資
- 階級を超えた支援プログラムの整備
9. おわりに
イギリスの「高学歴・高収入」と言われる層には、中国系・インド系が率直に高い位置にあり、白人とは一括りには語れない複雑性があります。
一方で、資産や職業ネットワークを含む全体像では白人が平均的に健闘するものの、階級間格差が深刻な問題として顕在化しています。
本稿が示すように、教育・所得・資産を巡る格差は人種×階級×地域という「三次元」で交差し、政策もまたこの構造に応じて高度で精緻な対応が求められます。2025年以降、どこに焦点を置いて社会的含意を共有するかが、イギリスの未来を左右する重要な分水嶺となるでしょう。
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